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『最後の章』

2013.08.24 (Sat)
 ジェフとエレナの死と共に、地揺れが止まった。
 不思議に思ったクレストは、玉座の間に引き返した。
 クレストがそこで目の当たりにしたものは、同じ剣に貫かれて倒れている、ジェフとエレナの姿だった。
 血溜まりが二人の周りにでき始めていた。
 ジェフはエレナを守るように抱き締め、エレナは幸せそうに微笑んで息絶えていた。
 大きな赤い紋章は、エレナの胸元で粉々に砕け散っていた。

 クレストはすべての力を失い、その場に膝をついた。
 そして、父が自分に残した古文書の写しと、ジェフが持っていた古文書の原本と日記とを取り出した。
 ジェフの古文書から、ぱらりと紙切れが落ちてきた。
 埃にまみれていて、かなり読みにくかった。
 「『我々は王家の姫君たちが代々この凄惨な運命を辿ることを良しとしない。しかしこれにより王侯貴族諸侯が自らを律することを忘れぬよう、我らは真実をここに隠す』」
 古文書の最終章が読み解けなかったのは、この紙切れのせいだった。
 ジェフはこれを、トリストティリスの教会で見つけたのだ。
 そして、最後の章を読み解いた。
 「『我らは新たにファリガーナに懇願した。五番目の王女は自由な選択ができるようにと。代々苦しみ生きてゆく彼女らの運命が、せめて幸福のうちに終わるように。しかし王女は民を殺めるであろうと、ファリガーナは告げた。王女自身の罪を贖うには、その命をもって贖う他ないと。どの選択をしても、五番目の王女は愛するものと共に息絶え、全てをファリガーナへ還すだろう。王族を含む全ての民は王女の死をもって過ちに気付き、以後はそれまでの歴史を繰り返さず、平等な力をもってして国を治めるだろう』」
 王女は人を殺めていた・・・。この国での絶対の禁忌を王家の人間自らが破っていた・・・。
 しかし、兄は、王女を愛したのだ。
 かつてエリオスがリアーナを愛したように。
 そして、二人で共に旅立ったのだ・・・。
 クレストは父の古文書を見た。
 もう完全に読みつくしたものだったが、やはり最後の章だけは読み解けずにいた。
 カルロスはクレストを育てる間に、様々な暗号遊びをしていた。
 それからクレストは、父の日記を見て、すぐにその暗号に気がついた。
 「『アライアスへ・・・お前には弟がいる。名をクレスト、本名をアクウィラスという。ウェルバの末裔はお前一人ではない。二人でこの国の物語を語り継げ・・・』」
 クレストはもう、一人になってしまった。
 
 「お前は何か懐かしい気がするよ。何でだろうな」

 いつかのジェフの言葉が甦る。
 あの時はまだ、知らなかったのか・・・。
 王女はなぜ人を殺めたのか、そして兄の人生の中で一体何があったのか、今のクレストには知る術もない。
 ただ分かるのは、自分は王家を守ることに奔走していたのに対し、ジェフと王女はただ一心に民を守ろうとしていたこと。
 今自分がなすべきことは、この国の歴史と物語をもはや隠すことをせず、全てを打ち明けることだ。
 クレストは立ち上がって涙を拭い、民衆の元へ向かった。

 ジェフとエレナの二人が息絶えた瞬間、島の人間たちの胸にも同じ衝撃が走った。
 その心に、二人の死が、まるでガラスを通してみるようにまざまざと見えた。
 二人は、自分たちを救うため、また自らの罪を贖うために命を捧げたのだ。
 全ての人間が、武器を取り落とし、やがてそれはと土となって大地に還った。
 王族はそれまでの力を全て失った。
 全てが終わったのだ。
 「この国の歴史を話そう」
 クレストが、城の二階の回廊から民衆に語りかけた。
 長い話だった。二千五百年前まで遡り、今、エレナの死を告げた。
 「この国の守り神、ファリガーナとは、古い言葉で『海』を表す。五番目の王女は全てを海に還し、王国の終焉を招くであろう・・・五番目の王女、セレスティアは、エレナは、自らも罪を犯した。しかしその命をもって、王権も、我々の恩寵も、罪と罰も、全てをファリガーナに還したのだ。王女は戻らない。だが幸福のうちに死んでいった。・・・もう殺し合いはやめよう。これからは皆平等に国を治めるんだ。それが、ジェフとエレナの願いだ」






 「父さんが語れるのはここまでだよ」
 十年後――。
 クレストは幼い息子を膝に抱き、物語を語り終えた。
 「みんなはエレナを自由にするためにたたかったんでしょう?」
 「そうだよ」
 「どうして自由になって逃げなかったの?みんなの命が無駄じゃない」
 「それは」
 クレストは息子の頭を撫でながら言った。
 「エレナは自分の罪から逃れることはできなかったんだ。そしてこの世には、自分の命と引き換えにしてでも守るべきものがたくさんあるんだよ。エレナはみんなの命を守りたかったんだ」
 こつん、と、息子の額と自分の額を合わせて。
 「お前にもいつかわかるときがくる」
 ふぅん、と、息子は無邪気に頷いた。
 「じゃあ今度は父さんの話を聞かせて!」

 長い長い物語が、再び始まった――。

Bloody Crest
血濡れた紋章 
                      


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