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選択 2

2013.08.24 (Sat)
 「エレナ!!」
 ジェフがエレナを抱きとめた。
 「あ・・・あ・・・」
 クレストは自分が何をしたか、震える手で弓矢を取り落とした。
 再び、地揺れが始まった。
 「エレナ!!」
 ジェフはエレナの胸から矢を引き抜いた。
 
 エレナの血は、あっという間に止まってしまった。

 恩寵は還されていない。
 まだ、終わっていないのだ。
 エレナは、弓矢に射抜かれた衝撃と矢に塗られた青蛇の毒の効力で気を失っているだけだった。
 「クレスト!!」
 ジェフが大声で呼んだ。
 「そんな・・・」
 クレストはエレナの横に膝をついた。
 「エレナはまだ生きてる・・・まだ終わってはいないんだ」
 「あなたは何者なんです?」
 「お前の父親は、ラクテウスだろう。カルロスと呼ばれていた男だ」
 「!? どうしてそれを――!?」
 「『俺は、胎違いのお前の兄、アライアスだ』」
 「その言葉――!!」
 クレストは、ジェフの話す古代語に驚きを隠せなかった。
 ジェフは、古文書とカルロスの日記をクレストに押し付けた。
 「『エレナは俺が引き受ける。お前は民に語り継げ。この国で何があったのかを』」
 地面が揺れ、ガラガラと天井が落ちてきた。
 「『ここにいてはあなたも、二人とも死んでしまう――!!』」
 「『彼女を殺さなければ全ては終わらない。そしてエレナを殺せるのは俺だ。行け!!』」
 「『ジェフ・・・!!』」
 「『行け!アクウィラス!!』」
 ジェフに背中を押されて、クレストは走り出した。

 「エレナ・・・」
 ジェフはエレナ頬をそっと撫でて、その名前を呼んだ。
 「ジェフ・・・」
 エレナは目を覚ました。
 「まだ終わっていないのね・・・」
 エレナの目から、安堵の涙が零れた。
 蛇毒に犯されているせいか、もはや虫の息に近かった。
 それと同時に、不安を口にした。
 「私をこの世で一番愛してくれてる人って誰かしら・・・」
 あれほど自分を想ってくれていたウィルは、もうおそらくこの世にいないだろう。
 ジェフはしばしの間黙っていたが、やがてエレナの髪を梳きながら言った。
 「俺だ」
 「え・・・?」
 「お前を、愛してる」
 「そんな・・・だって・・・」
 「信じられないか?無理もない・・・必死で隠してたからな」
 ジェフは苦笑した。
 「どうして・・・」
 「・・・わかってるはずだ」
 「私を・・・殺さなきゃいけないから・・・?」
 ジェフはエレナに口づけた。
 エレナの頬を、涙が一筋伝った。
 「私も・・・あなたを愛してる・・・。ジェフ・・・、私を殺して・・・・そして・・・逃げて・・・」
 「お前一人残して行くわけないだろう。もう二度と見失わないと言ったはずだ」
 ジェフは、エレナの髪を梳きながら優しく言った。
 「私・・・選んでしまった・・・あなたを・・・」
 「ああ。わかってる」
 「わかって・・・?」
 「古文書の最後の章を読み解くことができた。・・・五番目の王女はどんな選択をしても、歴史は繰り返さず新たな道を歩み、彼女を愛した者の手によって、全てが赦されるだろうと・・・書かれていた」
 俺は、エレナを愛し、殺すために生まれ、彼女を愛し、殺すために生きてきたのだ。
 ジェフは唇を噛んだ。
 「・・・私は・・・赦されなくてもいい・・・みんなが・・・生き延びてさえくれれば・・・」
 「・・・大丈夫だ。だが・・・お前には謝らなければならない・・・」
 「謝る・・・?」
 「・・・お前は王女だと、もっと早く言うべきだった」
 「そんなことないわ・・・」
 エレナは弱々しく笑った。
 「何も知らずにあなたと過ごせた時間、私は本当に幸せだった・・・」
 「そうか・・・」
 ジェフは微笑んだ。もう一つ、と、ジェフは後悔の念をにじませた。
 「お前を愛していると、もっと早く、伝えればよかった・・・。成長したお前と出会ってから、日に日にお前を愛する気持ちは強くなっていった・・・」
 「そうね・・・」
 エレナの頬には、涙が幾筋も伝っていた。
 「私は子供は産まないと決めていた・・・だけど、あなたの子なら・・・産みたかった・・・」
 ジェフはぎゅっとエレナを抱き締めた。
 「ジェフ・・・愛してるわ・・・子供のときから、ずっとあなたが好きだった・・・」
 素直になれなくて、ごめんなさい・・・。
 「ジェフ・・・」
 エレナは最期の力を振り絞って、ジェフを抱き締めた。
 「ああ・・・私、こんなにあなたを愛してる・・・」
 どうしてもっと早く素直にならなかったんだろう・・・。
 「もっと早く、言えばよかった・・・」
 「・・・俺もだ・・・」
 ジェフはエレナにもう一度口付け、震える手で剣を構えた。
 自分がエレナを殺さなければ、全ては終わらない。
 今まで何人もの人間を殺めてきたジェフも今、その罰を受けようとしていた。
 その手で人の、エレナの命を奪うことをがどれほど恐ろしいことか、改めて思い知った。
 自分の非力さも――。
 これほどまでに愛した女性を、自ら殺めるなど・・・。
 自分の命などどうなってもかまわない。何を失ってもかまわない。
 しかし、運命からは、どうやってもエレナを逃がしてやることができなかった・・・。
 自由になってほしかった。
 全てを忘れ、どこか遠い地で――。
 しかし・・・。
 「・・・エレナ・・・愛してる・・・」
 そしてそのまま、エレナの身体ごと、自分の心臓を剣で貫いた。
 
 全ての罪を自分が負うというエレナの願いは聞き入れられたのだ。

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