自由の船 2

2013.07.25 (Thu)
 次の日の深夜、白い帆が掲げられた。
 「ジュリア、元気で。チャドをよろしくね」
 エレナはジュリアを抱き締めて、別れを告げた。
 「ええ。ありがとう」
 ジュリアは幸せそうに笑った。
 「さよなら、エレナ」
 「さよなら」
 子供たちも次々にエレナの元へやって来た。
 「しっかりやれよ、チャド」
 ジェフも、チャドと握手を交わしながら別れを告げた。
 「ああ。あんたには世話になりっぱなしだったな。いろいろ、本当にありがとう」
 大人が二十人、子どもが八人。
 完成したばかりの大きな船に乗り込んだ。
 エレナやジェフは、入り江の岬で、船の出航を見送った。
 船は順調に滑り出し、入り江を出て行った。
 孤児院を出た後、ある者は建築を学び、ある者は航海術を学び、ある者は船大工に弟子入りして、やがてこの入り江に集まった。
 どれほどの思いが込められた船か。
 自由への希望を乗せた船は、帆に風を受け、ゆっくりと進んでいった。
 エレナは目頭を押さえた。
 そのときだった。
 
 「放てーーっ!!」

 高台から大声がした。
 何事かと思っていると、高台から一斉に火の点いた矢が放たれた。
 船はちょうど高台の正面に差し掛かったところで、帆に甲板に、もろに矢を受けた。
 船上が騒然としているのが聞こえてきた。
 「そんな――何が・・・!?」
 エレナが衝撃に身をすくめている間にも、火はどんどん燃え広がり、やがて――。
 
 ドンッ!!!

 凄まじい衝撃と共に船が爆発した。
 爆発物など積んでいないはずなのに、なぜ――。
 荷物にまぎれて、爆薬が仕込まれていたのだ。
 「密告者がいる――」
 ジェフが周りを見渡した。
 「誰だ!!」
 「言うわけないだろう!!」
 「お前じゃないのか!?」
 岬に残った仲間たちも衝撃を受け、騒然とした。
 「今はそれより生存者を探そう」
 ジェフは外套と靴を脱ぎ、海へ飛び込んだ。
 それに続こうとしたエレナを、ウィルが引き止めた。
 「エレナ!この暗い海に飛び込むのは危険すぎる!」
 「だからって放っておけないわ!!」
 一刻を争う事態だった。
 沈み行く船は炎に包まれ、その赤々とした光がエレナの瞳に反射していた。
 ウィルはエレナを引き止めることはできないと察すると、つかんでいた彼女の手首を放した。
 「わかった。俺は陸路の逃げ道を確保しておく――」
 その言葉を聞くが早いが、エレナはすぐさま凍えるような海に飛び込んだ。
 
 「大丈夫か!?」
 ジェフがエレナに問い掛けた。
 「ええ」
 エレナは震えながら応えた。
 船があった辺りには木片が散乱し、人の姿らしきものはなかった。
 「いないわ――」
 誰も――。
 そのとき、ジェフが何かを見つけたように泳ぎだした。
 「チャド!!」
 木片にしがみついたチャドだった。
 片目から血を流していた。
 「ジュリア・・・ジュリア・・・」
 チャドは朦朧としながら呟き続けた。
 「チャド、大丈夫!?」
 「ジュリアを・・・助けられなかった・・・」
 ジュリアが沈んでいくのを見た、と、チャドは泣きながら言った。
 ジェフがすぐに海へもぐったが、しばらくして何の手がかりも得られずに浮かび上がってきた。
 「ジュリア・・・ジュリア・・・」
 「チャド、もういいわ・・・大丈夫・・・大丈夫・・・」
 エレナも涙を零しながら、ぎゅっとチャドを抱き締めた。
 「お前たち、先に岸へ上がれ!!」
 ジェフはエレナとチャドが酷く震えているのを見て言った。
 二人はその言葉に従い、岸へと向かった。
 ジェフは、子どもを一人でも見つけたかった。
 生きていて欲しかった。
 しかし、海には自分のほかに誰もいなかった。
 やがてエレナとチャドが岸に着く頃、岸から悲鳴のような叫び声が聞こえた。
 「やめて!放して!!」
 追っ手が岬にも来ていたのだ。
 「くそっ」
 ジェフは岸に向かって泳ぎ始めた。

 エレナは全力で抵抗したが、寒さと濡れて体にまとわりつく重い服のせいで上手く動くことができなかった。
 チャドは抵抗する気力もなく、ただ連れられて行った。
 「やめて!」
 腕をつかまれたエレナは叫んだ。
 「放して!!」
 そのエレナの目に飛び込んできたのは、騎士団の男と腕を組んだサーシャだった。
 「サーシャ・・・!!」
 エレナは信じられないと言った表情をした。
 「なぜ・・・!!どうして・・・!?聞いていたの!?」
 「出国禁止令が出て、私もベルスから出られなくなったのよ」
 サーシャは淡々と話した。
 「それと何が関係あって・・・!」
 次の瞬間、エレナは悟った。
 サーシャはあの船の話を騎士団に売り、自分はその見返りとしてゴルドアへ帰ろうとしていたのだ。
 「それに」
 と、サーシャは続けた。
 「あなたは私からアルフェンドラの舞姫の座を奪った。だから私もあなたから大切なものを奪ってやったのよ」
 「そんな・・・!!」
 見下すように冷酷な声で話すサーシャを、エレナは思い切り睨んだ。
 「だからってこんなことするなんて信じられない!!人の命が懸かってるのよ!?」
 「この人たちがここまでするなんて思わなかったわ」
 大して興味なさそうに、サーシャは言い残し、騎士団の男の腕に自分の腕を絡めて行ってしまった。
 エレナはまだ信じられない表情でサーシャを見ていたが、エレナもまた、数人の男に押さえつけられて手を縛り上げられ、馬車に乗せられてしまった。

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