アルフェンドラ 3

2013.07.03 (Wed)
 数日間、ジェフとエレナはアルフェンドラのテントに滞在した。
 ジェフも王族の嗜みとして習い覚えた剣舞を一座に披露し、喝采を受けた。
 エレナは衣装に着替え、何度もアランと練習していた。
 かなり息を合わせて踊らないと、本当に怪我では済まなくなってしまうような舞だ。
 「はぁっ、疲れた」
 エレナは久しぶりにジェフの元へやって来た。
 「あなた、剣舞なんて踊れたのね」
 「もう何十年も前に習ったものだ」
 覚えてるもんだな、と、ジェフは苦笑した。
 「お前もあんな舞が踊れるんだな」
 「ええ。危険だからって、それこそ何十年も封印されていた曲よ」
 たしかに危険な舞だった。
 曲の途中、エレナは何度もアランの剣を足場に宙返りをする。
 衣装がひらひらと舞って、それが美しいのだが、かなり危険なことだ。
 エレナの身体能力でもなければあの曲を舞うのは到底不可能だった。
 「お前は、どうしてここの連中と知り合ったんだ?」
 「昔の話よ」
 エレナは水を飲みながら言葉を濁した。
 「・・・・・・」
 ジェフがじっと自分を見ているのに気がついて、エレナはふいっとそっぽを向いた。
 それから、息をついて話し始めた。
 「二十歳くらいの頃のことよ。あの頃はまだ、自分の為に盗みをしていたわ。ある日、アルフェンドラの演技を見かけて、虜になったわ。それで、教えてくれって志願したの」
 エレナは恥かしそうに頬を染めて続けた。
 「最初は、サーシャと同じ踊りを踊っていたわ」
 「お前が!?あのくねくねした!?」
 ジェフは度肝を抜かれた。
 「だから言いたくなかったのよ!!」
 エレナは心底恥かしそうにジェフをバンッと叩いた。
 「それで」
 ジェフはジンジンする腕をさすりながら続きを促した。
 「ある日、楽団の人が、あの曲を演奏してくれたの。私、もうすっかり気に入って。だけど、振付した当時から何人も女性側でけが人が出て、結局舞はなしで演奏だけ披露していたそうよ。それを、私はアランに無理言って舞を教えてもらったの。そしたら案外踊れて・・・」
 「レーナ!もう一回だ!」
 「今行くわ!!」
 じゃあね、と、エレナはジェフを残して練習に向かった。
 
 その後、二夜連続で、街で本番があった。
 一番喝采を浴びたのは、エレナとアランの剣舞だった。
 再演も含め、二人は四回踊った。
 二番目の再演の時には、非常にうまくいった。
 アランは感極まって、エレナを抱き締めてその頬にキスした。
 そんな様子を、サーシャは内心面白くなさそうに眺めていた。

 二夜目の夜――。
 「我らの演技に!!」
 テントで打上が催された。
 収入もかなりのもので、豪華な食卓となった。
 「レーナ!」
 宴も酣の頃、酒の入ったアランが再びエレナを抱き締めた。
 「お前は最高だ!!」
 「ちょっとやめてよアラン!!」
 エレナは無垢な顔をして笑っていた。
 「もうずっとうちにいればいいのに!!」
 「そうもいかないわ」
 ジェフはそんな二人を見ていて、ふっと心に黒い影がよぎるのを覚えた。
 ジェフは立ち上がり、外の空気を吸いに出た。
 すると、サーシャが、一人焚き火のそばに座っていた。
 「どうした。みんなと飲まないのか」
 ジェフはサーシャの隣に座った。
 「今日の主役はエレナよ」
 「・・・妬いてるのか」
 「まさか」
 サーシャは焚き火をいじっていた棒をぽいと投げ捨てた。
 「・・・そうよ」
 「あんたの踊りも美しい」
 「それはどうも」
 でも、と、サーシャは続けた。
 「私、あの子には及ばないのよ」
 「あの舞は――」
 「あの舞だけじゃないわ。私の舞もそうよ。昔、あの子が志願してきたときから、違ってた。私はあんなふうに優雅に妖艶に踊れない。・・・アランだって、あの通りよ」
 「アランに惚れてるのか」
 「直球で言わないでちょうだい!」
 サーシャもジェフをバシッと叩いた。
 近頃よく女に叩かれる。
 「あなたこそ、アランに嫉妬してるんでしょ」
 サーシャが意味ありげな笑みを含んで問い掛けた。
 「俺が?」
 「下手な演技やめなさいよ。見てればわかるわ」
 俺が嫉妬・・・?
 「違うの?」
 「違うだろ・・・」
 違う。違うと思いたかった。
 エレナに思いを寄せるなど、あっていいはずもない。
 しかし先ほど自分の心をよぎった黒い影は、紛れもなく嫉妬と言えるだろう。
 「なら・・・今夜、空いてるわね?」
 サーシャが妖艶な笑みを浮かべてジェフに擦り寄ってきた。
 誘っている。
 「私じゃ不足かしら・・・?」
 顔と顔がくっつきそうな距離。
 女と夜を共にしたのはいつぶりか。
 しかし――。

 「ジェフ」

 ジェフの脳裏に、エレナの姿がよぎった。
 無垢でいて、妖艶で、たまらなく美しく聡明で――。
 ジェフは、我知らずいつも彼女の姿を目で追っていたことに気付いてしまった。
 そんなことでさえ、あっていいはずがなかった。

 「馬鹿言ってないでさっさと寝ろ」
 ジェフは立ち上がってその場を後にした。
 残されたサーシャは、「何よ」と言って砂を蹴った。

 ジェフは、自分の心に本気で危機感を感じていた。

前へ       次へ


にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村
スポンサーサイト

トラックバックURL
http://rainy0dusk.blog.fc2.com/tb.php/81-6af5335f
トラックバック
コメント
管理者にだけ表示を許可する
 
back-to-top