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アルフェンドラ 1

2013.07.03 (Wed)
 次の朝、二人はゆっくりと目を覚ました。
 ジェフが水を汲んでいると、エレナがあくびをしながら外に出てきた。
 その顔には、まだどこかあどけなさが残っていた。
 「雨、上がったわね」
 「ああ」
 「風邪、引いてない?・・・って、聞くだけ無駄ね」
 王族の人間が、一晩雨に打たれただけで風邪を引くなどありえない。
 「おかげさまで」
 ジェフは苦笑した。
 そのとき、バサバサッと伝令用の鳥が飛んできた。
 足に手紙と小さな石をくくりつけられている。
 「お前、伝令石なんて持ってるのか?」
 「ええ。いけない?」
 いけなくはないが、高い。
 伝令石とは、鳥が覚えこむ磁石の力を利用した石だ。
 手紙を送りたい相手の石を持ち、鳥にくくりつけることで、鳥は放たれたときにそのもう片方の石を持った相手の元へ飛んでいく。
 最近外国から輸入された伝達方法だった。
 昔からこれがあれば、ジェフは父親やガルシアと簡単に連絡を取り合えたかもしれない。
 「アルフェンドラのみんなが来てるんだわ」
 「アルフェンドラ?」
 「ゴルドアの吟遊詩人の一座よ。友達なの」
 エレナは笑顔で顔を上げた。
 「都で稼ぐから、来ないかって」
 嬉しそうなエレナの横顔に、ジェフもふっと笑みを漏らした。
 「ジェフ、あなたもどう?」
 「おい、俺は賞金首だぞ――」
 「来たくなきゃいいわよ。ここでお別れね」
 ぐっとジェフは言葉に詰まり、そしてほぼやけっぱち気味に「わかったわかった」と両手を挙げた。
 エレナを再び見失うなど、それだけは、避けなければ・・・。

 その日はエレナが旅支度をする為、まだエレナの小屋に留まった。
 雨は上がったとはいえ、空気はまだひんやりとしていた。
 ジェフは自分の寝床にあてがわれた長椅子に腰をかけ、父親の遺した日記を読んでいた。
 この日記の謎もまだ解けていない。
 と、そこへ、エレナがやって来た。
 「何読んでるの?」
 「俺の親父の日記だ」
 「・・・日記を遺していく人ってどんな人?」
 「こんなやつだ。読んでみるか?」
 「え?いいの?」
 「かまわない」
 ジェフが日記をパタンと閉じてエレナに差し出すと、彼女は驚きながらも受け取り、最初のページを開いた。
 「古代語じゃない」
 「古代語で書かないと意味がなかったんだろう」
 「ジェフはもう読み終わったの?」
 「ああ。だが、なぜそれを遺して逝ったのかがわからない」
 「ほんと、相変わらず面倒くさい言語ね・・・。この言葉がすたれて行ったのも理解できるわ」
 エレナはパラパラとページをめくっていた。
 「・・・女好きな人だったのね」
 「なぜそこだけ勘付く」
 「だって、女の人のことしか書いてないわ、この人。エリーナ・・・」
 「エリーナは俺の母親の名前だ」
 ジェフは伸びをしながら答えた。
 「じゃあ、このデーナっていう人は?」
 「わからん」
 「劇的な恋愛でもしたのかしら」
 「かもな」
 ジェフは苦笑した。
 「そういえば、ジェフは古代語の名前を持ってるの?」
 エレナは何気なく尋ねた。
 「ああ。アライアスだ」
 「『鷲の眼光』・・・確かに目つき悪いわね」
 「余計な世話だ。紋章官一族の紋章は鷲の羽根を象られている。かつて執政官だった頃、政を行うときには鷲羽のペンを使っていたらしい」
 「コルニクスの『カラス』っていう意味は?」
 「コルニクスは武芸に長けた。戦の折には死肉漁りの鳥――カラスがその後をついて回るようになって、そう呼ばれるようになった」
 「なるほどね。私のエレナってどういう意味かしら」
 「お前の名付け親はルーカスだからな。エレナはフリーギダでよく見られた名だ」
 「ルーク・・・懐かしいわ」
 そう言うと、エレナは少し身震いした。
 「寒いか」
 「ええ・・・少し」
 ジェフが暖炉に薪をくべる為に立ち上がろうとすると、エレナがその袖を引いて引き止めた。
 「大丈夫、くっついてれば何てことないわ。薪ももったいないし」
 再び腰を下ろしたジェフに、エレナはそっと寄り添ってブランケットをかけた。
 ――まったく・・・。
 ジェフは軽く眩暈を覚えた。
 いくら相手が俺だからって、無防備すぎるんじゃないのか?
 しかし、エレナがこうしてジェフに甘えるようになったことに、ジェフも内心嬉しく思っていた。
 ジェフは父親の日記を取り上げ、おそらく隠されているだろう、その暗号に挑戦した。
 そして――、ふとしたことでそれを読み解いた。
 何十ページにもわたる文字の海の中から、文章が浮かび上がってくる。
 ジェフはどくんどくんと脈が早まるのを感じた。
 これが本当なら大変なことだ。
 「『アライアスへ――お前には・・・』」
 しかし、決して悪い報せではなかった。
 ジェフに会いたいと思う人物を想起させた。
 そのとき、エレナの首がかくんとジェフの肩にもたげられた。
 いつの間にかエレナはジェフに体を預け、うとうととうたた寝を始めていた。
 ジェフはブランケットをもう一度エレナにかけ直し、体にかかる重みを心地よく受け止めようとしたが、どうしても心に重くのしかかるものがあった。

 そしてジェフは、エレナが起きて旅支度を再開すると、父親の日記の余ったページに古代語で走り書きを始めた。

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