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王妃の幸せ 2

2013.03.12 (Tue)
 ある朝、ウィリデウスはいつものように後宮で目を覚ました。
 隣ではマグダレーナがすやすやと眠っていた。
 のそのそとした動きで寝巻きから服に着替えると、衛兵を従え、顔を洗い、玉座の間へと足を運んだ。
 そこには聖堂の数人の聖職者、コルニクス、騎士団の長官、そして顔色の悪いディーウィティアが頭を垂れて立っていたが、ウィリデウスは彼女の顔色に気付かず、
 「いい朝だな、ディーウィティア」
 と言った。
 「おはようございます、陛下」
 ディーウィティアは膝を折って礼をした。
 それを見たウィリデウスは、満足げな笑みを浮かべ、玉座の上にある祈りの座への階段を上り始めた。
 そしてそこでウィリデウスは跪き、この国象徴である赤いリエンゼルの花が織り込まれた機の前に、首から下げていたリエンゼルをかたどった首飾りを置き、その前に頭を垂れた。
 それと同時に、聖職者長が古代語で詠唱を始めた。

 「『麗しきこのベルスの守護神、最高神よ、我らが国民(くにたみ)を守り、永久の繁栄をもたらし給え』」

 その言葉に、その場にいた全員が跪き、頭を垂れた。
 これが、二千年以上続く、毎朝の王家の祈請の儀式だった。

 『国王と王家、王族が国民の幸福のみを一心に祈れば、二度とこの国で争いは起こるまい』

 この伝承は、今でも王家に継承されてきた。
 現在でも、この儀式によって神に祈りを捧げている。
 ――はずだった。
 しかしウィリデウスは、内心この儀式を面倒に思っていた。
 ――このような儀式、形式上のもので神などおるものか――。
 そう思いながら、ウィリデウスは頭を上げた。
 跪いていた聖職者やディーウィティアも立ち上がり、礼の姿勢を解いた。
 ウィリデウスは首飾りを首にかけ、もう一度赤の紋章に礼をすると、階段を下りてきた。
 「腹が減った。朝食にするぞ!」
 ディーウィティアはぎこちなく笑いながら、「はい」と返事をした。

 朝食中、ウィリデウスは斜め向かいに座ったディーウィティアがほとんど食べ物に手を付けないのに気がつき、声をかけた。
 「どうしたディーウィティア。口に合わんか」
 「いえ、そうでは――」
 「身篭った身体だ。しっかり食べんと元気な世継ぎが産めんぞ」
 満足そうに大笑いし、果物を口に運ぶウィリデウスに、ディーウィティアはどうしても嫌悪感を抱いてしまうのだった。
 「申し訳ありません・・・」
 しかし彼女はそんな感情をおくびにも出さず、静かに微笑んで見せるのだった。
 いつだったか、騎士団の前長官が、国を追われる前、自分を気にかけてくれていたことを思い出した。

 「妃殿下、差し出がましいようですが、あまりお顔の色が優れないようですが――」
 ディーウィティアが人目を忍んでこっそり中庭に抜け出し、花を眺めていたときだった。
 不意にかけられた言葉に、ディーウィティアはすぐに返事をすることができなかった。
 「あ・・・」
 「私でお役に立てることがございましたら何なりと」
 「あなたは・・・?」
 ディーウィティアは長身のその男を見上げた。
 たしか騎士団の長官だと紹介された覚えがあったが、あまりに覚えなければならない顔が多すぎ、自分の記憶に自信がなかった。
 すると、彼は微笑み、胸に手を当てて礼をした。
 「これは失礼いたしました。王国護衛騎士団長官、ジェフリー・レヴィナスと申します」
 「ああ、よかった。間違ってなかったわ」
 ディーウィティアはほっとしたようにくすくす笑った。
 「ごめんなさい、紹介された方があまりに多すぎて、みなさんのお顔とお名前がまだ覚えられないの」
 「さようでしたか。ですが、私に対してそんなにお気を使われることはありませんよ」
 ジェフもはははと笑った。
 「急に慣れない場所へとお越しになって、不便な思いもしておられることでしょう。ファナも心配しておりました」
 「いえ――あ、ごめんなさい・・・」
 ディーウィティアは多くの者に心配をかけていること知り、申し訳なく思った。
 「お気になさる必要はございません。環境が変われば、人は戸惑うものです」
 ディーウィティアはその言葉に顔を上げた。
 この人は、自分を「人」として扱ってくれた。
 王妃としてではなく。
 「・・・ありがとう」
 ディーウィティアは、王家に嫁ついでから、初めて心から微笑んだ。
 「必要があれば、何なりとお申し付けください」
 もう一度礼をして去って行こうとするジェフに、ディーウィティアは慌てて声をかけた。
 「あの、なら――」
 「はい」
 ジェフが振り向くと、ディーウィティアは言いにくそうに言った。
 「私がここにいること、内緒にしてくださらない?ファナにも内緒で抜け出してきたの」
 その言葉を聞いたジェフは、ははっと笑った。
 「宮廷での暮らしは窮屈でしょう。妃殿下が望まれるなら、私も口を閉ざしましょう」
 「ありがとう!」
 ディーウィティアはほっとしたように笑った。
 「では、失礼いたします」
 ジェフはもう一度礼をして、中庭を後にした。

 城の中で唯一、自分を「人」として扱ってくれたあの人ももういない。
 彼が逆賊だなどと、ディーウィティアにも信じられなかった。
 ディーウィティアは、自分がどんどん小さな檻の中に追い詰められていくような錯覚を覚えていた。

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