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エピローグ

2015.03.02 (Mon)
 ジェフとエレナの死とともに、すべてが終わった。
 島のすべての人間の胸に重い衝撃が走り、その死がガラスを通してみるようにまざまざと眼前に広がった。
 中庭で戦っていたジェイクの心にも、仲間であったエレナの死が見えた。
 エレナはウィルの手にかかってその命を捧げたのではなかった。
 ジェフという、エレナの古い知り合いだった。
 彼もまた、エレナと共にこの世を去った。

 ウィルの思いは届かなかったのか――。

 届いたとしても、ウィルには彼女をその手にかけることなどできなかっただろう。
 ジェイクもすべての力を失い、剣を地面に突き刺した。
 瞬間、それは土となって大地に還った。
 この島の言い伝えは本物だった。
 ジェフが自分を含む盗賊たちに話して聞かせたように。
 ふと見上げれば、ジェイクが先ほどまで鍔迫り合いをしていた衛兵の剣も朽ちて大地へ還っていった。
 衛兵は何ともいえない表情で、くず折れたジェイクを見下ろしていた。
 「・・・まだ俺を殺したいか」
 ジェイクは衛兵を見上げた。
 「・・・いや・・・。もう、やめよう」
 静まり返った、最後の激戦地となった王城の中庭。
 王妃ディーウィティアが唯一城の中で愛したといわれるそこは、血に染まり、花々は踏み潰されていた。
 そこへ、紋章官一族の末裔を名乗る、クレストという男が、二階の回廊から民衆に語りかけた。
 そして、ジェフと同じように、二千五百年前に招かれた惨劇を話し、この国のすべての災厄は、王家の人間が神との契約を破った、その怒りを買ったものから生ぜせしめられたものだと話した。
 そして最後に、静かに、ジェフとエレナの死を告げた。
 「もう殺し合いはやめよう。それがジェフとエレナの願いだ」
 クレストという男の話が終わると共に、ジェイクが戦っていた衛兵は泣き崩れた。
 「ジェフは・・・、俺がまだ若い頃、騎士団で長官をしていた。尊敬できる上官だった。あの人は逆賊として国を追われた。だがあの人は何も間違っちゃいなかったんだ」
 「ジェフは俺達に多くの望みを与えて、国を変えようとしていた・・・。あんたの言うジェフの様子も簡単に想像がつくよ」
 ジェイクは衛兵の肩にぽんと手を置いて、やおら立ち上がった。
 「どこへ行く」
 「・・・仲間を探しに。エレナを探して城へ入ったはずだ」
 「城内はほとんど王族が守りを固めていた・・・。見つからない限り、望みは――」
 ジェイクはしばらく衛兵を見つめていたが、やがて踵を返して城内へと足を踏み入れた。

 「ウィル!!ウィル!!」
 ジェイクは叫びながら、城内のあちこちを探して回った。
 そして、ある回廊に差し掛かったとき、変わり果てた姿で倒れているウィルを見つけた。
 王族と見られる三人の衛兵が、ウィルを取り囲むように見下ろしていたが、ジェイクはそれに頓着もせずに彼に駆け寄り、 そのぐったりとした頭を抱き起こした。
 「ウィル!!ウィル!!」
 しかし、幾度その名を呼ぼうとも、その瞳が再び開かれることはなかった。
 ウィルの愛刀もまた、彼の身体の下で土へと還っていた。
 「その若者は・・・」
 「俺達が殺した・・・」
 悔恨の念に苛まれている王族が、重い口を開いた。
 「殺し・・・た・・・?」
 ジェイクは絶望に駆られて王族を見上げた。
 「王女を連れて走っていた。だが彼は、王女を先に逃がし、俺達を相手に長い間持ちこたえていた」
 「彼は王女の仲間だったのか・・・?」
 「・・・そうだ」
 ジェイクは溢れようとする涙を必死に押さえ込みながら、ウィルの血に濡れた前髪をかき上げた。
 「こいつはエレナを愛していた」
 「ああ。本気で愛していたと、王女に告げているのが聞こえた」
 「そうか・・・」
 ウィルはようやく、エレナに本気の想いを告げることができたのだ。
 「その若者が、俺達の足止めをしてくれなければ、この国の行く末はおぞましいものに変わっていたかもしれない」
 王族の衛兵の一人も、ウィルの足元に跪き、頭を垂れた。
 「・・・この島からはもう、殺し合いはなくなったんだ」
 エレナが何よりも望んだであろうこと。
 ウィルも間接的ではあるが、彼女の望みをかなえたのだ。
 「ウィルとエレナ、ジェフの葬儀をしたい。手伝ってもらえるか」
 ジェイクは跪いた王族に声をかけた。
 「もちろんだ」
 王族の三人が去っていくと、ジェイクはようやく涙を流した。

 お前は、いつか俺に話したように、エレナを命を懸けで守ったんだな。
 お前たちのおかげで、島からは争いが消えた。
 そしてお前の本物の愛情は、絶対にエレナに伝わったはずだ。
 たとえ、エレナの最期の願いを聞き届けたのがジェフだとしても。
 
 お前の意思は絶対に俺が語り継ぐ。
 絶対に諦めなかったその思いの強さ。
 エレナを手にかけることになるかもしれないと知ったときの絶望。
 そしてやはりそれはできず、エレナをジェフに託す選択をした決断。
 屈辱も絶望も味わっただろう。
 だがそれで終わらせはしない。

 ジェイクは冷たくなったウィルの手を握り締めた。
 「俺達を救ってくれて、感謝の言葉もない・・・。お前の死は絶対に無駄にしない」


 広い墓地に、エレナ、ジェフ、ウィル、そして多くの犠牲者が永久の眠りについた。
 数刻前までは、この世には存在しない、赤いリエンゼルの花がこの国の象徴だった。
 しかし今は、血の穢れのなくなった真っ白その花が、死者に山と手向けられた。
 死者への弔いと共に、清められたリエンゼルが咲き誇り、この国の新たな始まりを象徴していた。

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