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エレナ 4

2013.05.05 (Sun)
 「おい、女相手に手ぇ出そうってのか?」
 ウィルも剣に手をかけた。
 「ウィルあんた、私と打ち合って一度でも勝ったことがあるの?」
 エレナも剣を手にした。
 エレナとジェフはウィルを無視して、お互いを睨み合ったまま動かなかった。
 そして――。
 「バッカじゃないの!?」
 エレナが剣を放り出した。
 「回復した本気のあんたと私が打ち合って、私が勝てるわけないでしょう!?」
 そうでもないと思う――。
 ジェフは喉元まで出かかった言葉を何とか飲み込んだ。
 「じゃあ、いてもいいんだな?」
 「好きにすれば?その代わり撒き割りとか水汲みとか他にもいろいろコキ使うんだから!!」
 急に子どもじみたエレナに、ジェフは吹き出した。
 「あんたここにいてエレナをどうしようって言うんだ?」
 ウィルが警戒するように言った。
 「どうもしない。話があるだけだ」
 「ならさっさと済ませて――」
 「無駄よ、ウィル」
 エレナはため息を吐いて腰掛に腰を下ろした。
 「この人は言の葉の一族よ。口で勝とうたって無理よ」
 負けてる。全然負けてる。
 口ではエレナには絶対に敵わないと、ジェフは本能的にそう思った。
 
 その日、ウィルは恨めしそうに帰って行った。
 「あのウィルって男」
 ジェフが暖炉に薪をくべながら言った。
 「お前に気があるんだな」
 「どうだか。そこら中の女に手出してるし。それに、だったら何よ」
 エレナは暖炉の前に腰を掛け、小さな靴下を編んでいた。
 「いや。お前もいい年だし、落ち着いたらどうかと思っただけだ」
 「私は結婚しないわ。子供も産まない」
 「なぜ?」
 エレナの冷めた言葉に、ジェフは驚いた。
 「明日をも知れない身で、子供を守れないわ・・・。親を失う気持ち、わかるでしょう」
 「なら盗賊なんて危険な真似するのは――」
 「あのね」
 エレナはイラついたように顔を上げた。
 「たらたら説教するんだったら出てってもらうわよ、本当に」
 ジェフは「わかった」と手を挙げた。
 「なら、興味本位で聞く。なぜ盗賊なんて危険な真似してるんだ?しかも王族専門と言ったろ?」
 「王族に恨みがあるんでしょうね」
 エレナの言葉はやたらとトゲトゲしていた。
 「それにしたって、お前が王族への献上品や金をそう身につけてるとは思えない」
 「それは・・・、明日分かるわ。今日は結局行けなかったから」
 「どこへ?」

 次の日――。エレナはジェフの乗ってきた馬車と馬を使って、オプタリエの外へ抜け出した。
 王家の紋章だけは隠してあった。
 「どこへ行くんだ?」
 「資金洗浄」
 二人が着いた先は、古ぼけた小屋のような店だった。
 エレナは店先で、店主と何か話していたが、やがて店主を伴って店から出てきた。
 「おや、今日は一人じゃないんだね」
 いかにも胡散臭そうな男だった。
 店主は馬と馬車の中身を丸々値踏みした。
 店主の計算が終わると、エレナとジェフは再び店の中に入っていった。
 「今回は、これくらいかな」
 そう言って、店主は金貨の入った袋を二つ並べた。
 途端にエレナがナイフを抜き取り、ドンッと机に突き刺した。
 「これっぽっちなわけないでしょう」
 「ったく、あんたには敵わないよ。だが、うちも財政難なんでね――」
 店主は笑って、もう一袋、銀貨の入った袋を手渡した。
 「そんな大金、どうするんだ?」
 二人は店を後にすると、馬に乗って、もと来た道を戻り、海のほうへ走り出した。
 「今度はどこへ行くんだ?」
 馬に乗りながら、ジェフが尋ねた。
 「着いて来るの?来ないの?」
 ジェフは肩をすくめ、エレナについて行った。
 やがて着いた先は、大き目の教会のような場所だった。
 「教会・・・?」
 エレナは荷袋と先程の金を持つと、つかつかと歩き始めた。
 ジェフは何も言わずについていった。
 階段を上り、エレナは一つの部屋にノックして入っていった。
 「神父様」
 「エレナ!」
 書き物をしていた神父は顔を上げ、エレナを歓迎した。
 そして、ジェフに気がついた。
 「そちらの方は?」
 「私の知り合いです。ジェフといいます」
 「ジェフです」
 「どうも・・・この方は・・・」
 「大丈夫。何も心配ありません」
 そう言うと、エレナは持っていたものを、金を含めて全て神父に手渡した。
 「またこんなにたくさん・・・。あなたはまた・・・」
 「いいんです、私のことは」
 神父が袋の中を改めると、手作りの子供服やおもちゃが入っていた。
 「あなたは本当に、危険なことはしていないんですね?」
 「知らなくていいんですよ、そんなことは」
 エレナは微笑み、部屋を後にした。
 「ここは・・・」
 ジェフが言いかけると、「そうよ」と、エレナが頷いた。
 「ここは孤児院よ」
 「なぜお前がこんな施しを?」
 長い回廊を歩きながら、ジェフが言った。
 「昔――」
 エレナは小さな声で話し始めた。
 「あの日・・・、私たちがすべてを失ったあの日よ。あの日、人攫いに攫われた私は、同じような境遇の子供たちと同じ荷馬車に乗せられたの。私は運よく縄をほどいて逃げることができた・・・。だけど、他の子を助けることができなかったの。必ず助けると言ったのに、その約束を守れなかった・・・。あの子供たちがどうなったか、私にはわからない。
 だけど、せめて今、同じ孤児であるここに住む子供たちが、少しでも平穏に暮らせればいいと、そう思っているだけよ。・・・彼らを助けられなかった罪滅ぼしにもなればとも思ってるわ・・・」
 そして二人が中庭に出たとたん、子どもたちがわっとエレナを歓迎した。
 「エレナ!!」
 一人の女の子が、エレナの膝のあたりに抱きついた。
 「ベラ」
 エレナも少女を抱き締めた。
 「また大きくなったわね。あなたに似合うスカートを作ってきたんだけど、合うかしら」
 「本当!?」
 「ええ。あとで神父様にもらってちょうだい。名前をつけておいたから分かっていただけると思うわ」
 「エレナ」
 次にやって来たのは、若い女性だった。
 「久しぶりね、ジュリア」
 「ええ。元気?」
 「ええ。相変わらずよ」
 「こちらの方は・・・?」
 「ジェフよ。私の知り合い」
 「初めまして」
 ふっくらとした金髪の可愛らしい女性だった。
 エレナは木の陰に隠れた男の子に声をかけた。
 「ブルーノ、隠れてちゃダメよ。またいじめられるわよ」
 ジェフは、ブルーノと呼ばれた少年に見覚えがあった。
 「あっ!あいつ!!」
 思い出した。
 ジェフが蛇に噛まれたときの、木登り少年だ。
 ブルーノはすごすごとエレナの元にやってきて、エレナに耳打ちをした。
 「えっ」
 エレナが声を上げた。
 「じゃあ、きちんとお礼を言わなきゃ」
 「・・・ありがとうございました」
 ブルーノはぺこりと頭を下げると、さっと走って行ってしまった。
 「あの子を助けて青蛇にやられたのね」
 「ああ」
 「村の子供たちにいじめられて、木の上まで逃げていったそうよ」
 「それであんなところに・・・」
 「ありがとう」
 「何でお前が礼を言うんだ?」
 「・・・何となく」
 エレナもまた、ふいっと向こうへ行ってしまった。
 「あの方は」
 気がつくと、ジェフのそばに神父が立っていた。
 「いつもああして、ここへ贈り物を下さるんです」
 エレナを見つめるその視線は、どこか悲しげでもあった。

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