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雪華の舞う日に

2014.12.05 (Fri)
 二千五百二年、冬、サルトゥス地方の農村部。

 ――寒いな~。
 ある早朝、チャドは寝床の中でごそごそと寝返りを打った。
 昨夜暖炉に細々と燃えていた火はすでに消えようとしていた。
 ――・・・寒い。
 寒すぎる。
 これじゃ凍えて死んでしまう。
 チャドは頭までかぶっていた毛布から思いきって半身を起こした。
 そしてやけに窓の外が明るいことに気付き――。
 「わぁっ、雪だ!」
 チャドは寒さも忘れ、寝台から飛び降りた。
 外はうっすらと雪が積もり、空は青く晴れ渡っていた。
 いそいそと冷たい服に着替えると、チャドは村の外れの施療院へと向かった。
 

 ――寒いな・・・。
 ルーカスはぼんやりと目を覚ました。
 外がやけに明るく静かだ。
 不思議に思って身を起こすと、白銀の世界に変わった景色が目に飛び込んできた。
 「雪か・・・」
 この様子なら午後には融けてしまうだろう。
 ルーカスはいつもよりも多めの服に身を包み、施療院へと向かった。

 ――冷えるな・・・。
 旅慣れたジェフでさえ、その日は寒さに目を覚ました。
 森の奥にある小屋の屋根裏。
 暖炉に火を入れて人気を残すわけにはいかないので、彼の小屋は極寒だ。
 屋根があるだけでもありがたいが、と、ジェフは屋根裏から一階の床に飛び降りた。
 そして、窓に目を向けると、森の木々が砂糖をかけたように白く染まっていた。
 冷えると思えば・・・。
 ジェフは埃の積もった床に足跡を残さぬよう気をつけながら、施療院へと向かった。

 「おかあさま!おかあさま!!」
 アリスは二歳になった娘の声に目を覚ました。
 隣で眠っていたアールもうっすらと目を開けた。
 「まだ夜が明けたばかりじゃない・・・もう少し眠っていなさい」
 眠そうな声でエレナの頭を撫でたが、エレナの声はますます大きくなるばかりだった。
 「おかあさま!おそとがしろいの!」
 そう言えば、今朝はなんだかよく冷える。
 アリスはそっと半身を起こし、外を見た。
 「まあ、雪だわ・・・」
 「ね!?まっしろでしょう?」
 「雪よ、エレナ」
 「ゆき?おいしい?」
 「食べちゃだめ。お腹をこわすから」
 くすくすと笑いながら、アリスは寝台から起き上がり、アールを揺り起こした。
 「アール、雪よ」
 「雪・・・?サルトゥスも雪が降るのか・・・?」
 アールも寝ぼけ眼で起き上がり、外を見た。
 「都で見て以来だな。冷えるな・・・」
 暖炉に薪をくべた三人の親子は、それぞれ服に着替え、外に出た。
 「あっ!いたいた!おはようみんな!」
 ちょうど、チャドとルーカスが商店街の方からやって来た。
 「チャド!」
 エレナが嬉しそうに、彼の膝の辺りに抱きついた。
 「ルーク、おはよう」
 エレナはルーカスにもにっこりと挨拶した。
 「おはよう、エレナ」
 「二人とも早いのね」
 「こう寒くっちゃ寝てられないよ」
 けらけらと笑うチャドの横で、エレナは新雪に足跡をつけて遊んでいた。
 「あしあと、たくさん!」
 「ほら、エレナ」
 手先の器用なルーカスが、雪を集めて小さな雪だるまを作り、エレナに渡した。
 「わあっ!かわいい!」
 両手で受け取ったエレナははしゃぎ声を上げた。
 「たいせつにするね、ルーク」
 「すぐ融けちまうぞ」
 「とける・・・?」
 「雪はね、エレナ」
 アリスがしゃがんでエレナと目線を合わせた。
 「お日様が昇って暖かくなるとすぐに融けて消えてしまうのよ」
 「しろいのなくなっちゃうの・・・?」
 「そうね、今日のお昼にはなくなってしまうわね」
 しょんぼりとしたエレナの手が、ぎゅっと雪だるまをつかみ、雪だるまの下半身が壊れてしまった。
 「あっ・・・」
 雪はこんなに脆く儚いものなのか。
 「手がかじかむぞ」
 しょんぼりとしたエレナの頭に、声が降ってきた。
 「あら、おはよう、ジェフ」
 母の声に、エレナはぱっと顔を上げて、さっとアリスのスカートの後ろに隠れた。
 ジェフはもう一つ小さな雪だるまを作り、エレナに渡してやった。
 「ルーカスの物より上手くはないだろうが」
 「・・・ありがとう」
 ぼそぼそと礼を言うと、エレナはそれっきり下を向いてしまった。
 「あんたも早いな、ジェフ」
 アールが言った。
 「荒野の旅人にもこたえる寒さか」
 ルーカスがそう言うと、ジェフは苦笑を浮かべた。
 するとそのとき、ふわっとジェフの目の前に雪華が舞った。
 降っているのではない。
 どこかから風に流されて飛んできただけ。
 「エレナ、ご覧なさい」
 アリスがエレナの頭を撫でると、エレナの顔に、冷たい雪の一片が舞い落ちた。
 「きゃぁっ、つめたい!」
 うち仰いだ空は青く澄み渡っているのに、不思議な光景だった。
 「どこかから舞ってきているのね。そろそろ暖炉の火が大きくなる頃だわ。みんな上がっていって?冷えてしまうわ」
 チャド、ルーカスがアリスの後に従い、施療院に入っていった。
 ジェフもそれに続こうとしたが、エレナが動かない。
 「エレナ?おいで」
 アールがエレナに声をかけると、エレナはじっと雪だるまを見つめていた。
 「おうちにはいったら、これ、なくなっちゃうの?」
 「そうだね」
 アールはしゃがんでエレナと目線を合わせた。
 「この辺りでは雪はめったに降らないから。でもルークとジェフにもらったそれはエレナの思い出の中にずっと残しておけばいい。そうすれば融けない」
 二歳の記憶がいつまで残るか不思議だが、王家の娘であるエレナのその頭脳に、アールは思いを託した。
 「ほんとう?」
 「目をつむって、雪だるまを思い出してごらん」
 エレナはぎゅっと目を閉じて、雪だるまを思い浮かべた。
 「ね?消えないだろう?」
 「うん!」
 「さあ、おいで。体が冷たくなってしまうよ」
 アールはエレナを抱き上げ、施療院の中に入っていった。
 その手にはしっかりと雪だるまが握られていた。
 ジェフはその後について施療院に入ろうとしたが、一瞬だけ、エレナが自分を見て微笑んだように思えた。
 が、エレナはすぐにふいっとまたそっぽをむいてしまった。
 この村に帰ってきた初日、思いもかけず彼女を外套から振り落としてしまったのが相当痛かったんだろうな。
 ジェフは苦笑して、今度こそ友人たちの後に続いた。
 
 今はまだ、平和――。




 雪国生まれ雪国在住の新澤。憧れの台詞があります。
 それは、
 
 「わぁっ、雪だ!」

 っていうアレ。
 毎年3メートルも積もるので、雪にはほとほと嫌気がさしているんですが、こういう台詞が言えるくらい、心の余裕を持ちたいものです。
 今回はチャドに言ってもらいました。
 子どもエレナにしようかと思ったんですが、そうそう雪の降る場所ではないので、エレナは雪を知らないだろうと。
 となるともうチャドしかいませんでした(笑)。
 2014年、新澤生息地の初雪の日に寄せてお送りいたしました。


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