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エレナ 1

2013.04.29 (Mon)
 ジェフは朦朧とする意識の中をさ迷っていた。
 いつかの平和なサルトゥスが見える。
 アールとアリスが笑って手を振り、その傍らにルーカスとチャドがいる。
 アールとアリスの間には、アリスのスカートを握った幼いエレナの姿もあった。
 赤いような光を放つ黒い髪に、真っ青な瞳の少女――。
 
 エレナ・・・。
 どこにいる・・・。

 「エレナ・・・」
 うわごとを言っているのが自分でも分かった。
 「なあに?」
 と返事があるのはきっと蛇の毒のせいで幻聴が聞こえているのだろう。
 「どこへ行った・・・」
 「ここにいるわ」
 と返事があるのはきっと蛇の毒のせいで幻聴が――。
 蛇の毒?
 俺は生きているのか?
 ジェフはぼんやりと目を開けた。
 ジェフはどこか柔らかいものの上に寝かされていた。
 雨の音は聞こえるのに雨が自分に当たっている気配はない。
 「エレナ・・・」
 何だか分からないが、ジェフはもう一度呟いた。
 「だから何よ」
 今度こそはっきり聞こえる。
 幻聴ではない。
 ジェフはガバッと起き上がった。
 途端に頭を殴られたように、ガンガンした頭痛と共に眩暈がした。
 身体も燃えるように熱い。
 「馬鹿ね、急に起きるからよ」
 「・・・・・・」
 ジェフは、誰だか知らないその女性を、自分の手当てをしてくれたらしいその女性を、恐らく何かの方法で自分を生かしてくれたその女性を、まじまじと見つめた。
 「・・・大変失礼だが、誰だ?」
 「今名前呼んでたじゃないのよ、馬鹿ね」
 「・・・・・・」
 まさか。
 「それとも、もうわからないかしら?」
 悪戯っぽく笑うその青い瞳。流れるような赤黒い髪。
 「エレナよ。昔サルトゥスで会ったでしょ?あんたは何も変わらないのね。さすがというべきかしら」
 ジェフは眩暈がした。違う意味で。
 何だってこんなに――こんな形で――。
 どれほど探したか。
 「エレナ――」
 ジェフが感極まってエレナを抱き締めようとしてと動こうとすると、エレナが驚いたようにそれを押し留めた。
 「だめよ、まだ動いちゃ」
 「何してるんだ?」
 眩暈のする頭を押さえながら、ジェフが尋ねた。
 「不本意ながら、あんたの看病よ。あと編み物」
 「そうじゃなくて、ここはどこだ?今はどうして暮らしているんだ?」
 「ここはオプタリエのすぐそばの森よ」
 エレナはそれだけ言った。
 「ほら、もう寝て」
 「俺はなぜ助かったんだ?青蛇に噛まれたんだぞ?」
 「助かったんじゃなくて助けてやったのよ」
 ジェフを寝かせながらエレナが訂正した。
 「父さんと母さんは青蛇の毒に抵抗する抗体の研究をしていたわ。私は両親の論文と研究書を読んで、今それを作るのに成功したのよ。その証があんたよ。生きてるわ。今のところ」
 「お前――、医者になったのか?」
 「まさか。私があの後どうなったか知ってるでしょ。都の医学院になんて行けるわけないじゃない」
 だけど、と、エレナは言葉を切った。
 「その辺の薬師には負けないつもりよ。焼け残ってた父さんと母さんの論文もとても分かりやすかったわ。血が繋がってるのね」
 「・・・・・・」
 そうだ。
 エレナはまだ知らない。自分が憎むべき王家の世継ぎだと――。
 「さあ、おしゃべりはもうお終い。もう真夜中を過ぎてるんだから。病人は寝てちょうだい。ああ、その前にこれを飲んでみて」
 人体実験か――。
 しかし今は文句を言える立場にない。
 ジェフは甘い香りのする温かい飲み物を渡され、一口飲んだ。
 途端に体中が温かくなり、痛みも消え去った。
 ジェフは何も考える間もなく、暖かな眠りに引き込まれていった。

 ジェフが眠ったのを見届けると、エレナは安堵の息を漏らした。
 峠は越えたようだ。
 しかも、王族だけあって回復も早い。
 エレナはそっとジェフの額に手をやった。
 彼の額はまだ熱く、気は抜けないようだった。

 エレナは、あれほど嫌っていたはずのジェフの無事を、どうしてこんなに必死に祈っているのか、その理由にまだ気付かずにいた。

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