ベルスの真実

2015.02.26 (Thu)
 「俺は・・・、この国の逆賊として現在でも殲滅の命が下されている紋章官一族の生き残りだ。これは俺の一族がこの国の終焉が来るまで語り継がなければならない事実だ。
 この島は、かつては神々の領域にあった。そこへ、二千年以上も前、現在の王族が流れ着いた。この島の守り神――、ファリガーナは、この島に人間が住めるよう最高神に直訴した。最高神はファリガーナから一族にある条件を課し、それを人間が守ることができればこの島を開くことを許した。そこで女神は、この島で人間が互いに傷つけあい、麗しい大地をその血で汚さぬことを条件とした。現在の王家の長老は、喜んでこれを誓った。しかし、王族と他の一族との間で争いが起きてしまった。神々は怒り、この島を再び閉じようとした。しかし長老が命を捧げ、また初代の女王もその命を懸けてその罪を購うことを契約することで島の人間の命を守った。王族の人間以外が持っていた武器は皆朽ち果て、海はうねって王族の物以外の船は海へと沈んだ。これは大陸での方が詳しく語り継がれている・・・。お前達もおとぎ話程度には聞いたことがあるだろう。
 以来、王族はこの国を守るために不老長寿の力と驚異的な身体能力、自然治癒力を与えられた。そして王位継承者は代々、民の幸福のみを一心に祈ることでこの国を守ることになった」
 だが、と、ジェフは言葉を切った。
 「王族が民を忘れかけると、各地で災厄が起きる。日照り、飢饉、地震、疫病・・・。それを忘れさせないのが、俺たち紋章官一族の務めだったが、現在の執政家――、コルニクス一族に陥れられ、国を追われることになった。一族の半数は殺され、残った半数はオプタリエの外へと逃げ込み、やがてその数は次第に減っていった。
 おかげで現在、この話を語れるのはごく少数の人間だけだ。そして今では、王家も王族も民を思うことを忘れ、この地に再び惨劇を招くようになった。・・・エレナ自身も、人を殺したことがある。あいつは正当な王位継承者だ。他の人間には何人も王位を継ぐことはできない」
 「なぜだ?」
 「王妃の死後、二人の後妻が娶られたが、二人とも子を生さなかった。正当な王位継承者は一人しかいない。その一人が生きている限り、王家は二度と子を授かることはない。エレナは、王女セレスティアは、生まれたと同時に死んだとされてきた。実際は、出産によって死んだ王妃の死に耐えかねた国王の狂気によって、古文書の文言どおり海へと流された。生きたまま。それをサルトゥスのアールとアリシア夫妻が見つけ、七歳まで育てていた。しかしサルトゥスを襲った悲劇で二人は命を落とし、エレナは現在に至る」
 「古文書の文言って何だ・・・?」
 ジェイクが言った。
 「“五番目の王女はすべてを海に還すべし”。狂女王、三番目の女王であるマリアンナの予言だ。そしてエレナが五番目の王女だ」
 元から静かだったその場がさらに静まり返った。
 「“その者を最も愛したる者の剣によってすべてが赦される”・・・。これも古文書の一文だ。ファリガーナは初代の女王にそれを要求した。彼女を最も愛している者に自分を殺してくれと頼み、その罪を背負わせる苦しみを味わい、罪を購えと。しかし初代の女王、リアーナを愛した男はそれを拒否した」
 当然だろう。
 彼女とその一族の罪を背負うだけならまだしも、なぜ彼女まで殺めなければならないのか。
 ウィルはその男の気持ちが痛いほどよくわかった。
 「・・・エレナは、無意識に誰より民を想っている。おそらく、あいつを愛している男に自分を殺してくれと頼むだろう」
 ジェフの目はウィルに注がれた。
 できない。
 そんなこと、絶対にできない。
 ウィルは震える拳を握り締めた。
 何があっても守ると決めたのに、殺すだと――?
 「エレナは、そんな残酷な運命から逃れられないのか?」
 「・・・おそらく。だが俺は、あいつを逃がしてやりたい。何もかも忘れて、どこか遠く離れた地へ――」
 しかし、ジェフなら、彼女の為なら彼女自身を殺めるだろうと思った。
 ウィルにはそんな真似はできなかった。
 「俺もだ」
 「俺も」
 盗賊たちはそんなウィルに気付かず、口々に言った。
 「同じ盗賊でも、孤児院に寄付する為に盗賊なんて真似してるなんて話、聞いたことねえ」
 「ああ。天使がいるとしたらあいつだ」
 「みんなであいつを解放してやろう」
 男達は立ち上がった。
 「ほら」
 ジェイクが、ウィルに彼の愛刀を手渡した。
 「・・・できるか?」
 ウィルは剣を受け取ったが、何も言うことができなかった。

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