セレスティア 1

2015.02.23 (Mon)
 東へ走って行くと、ジェフの言っていたように廃れた倉庫があった。
 四人の男たちは軋む扉をこじ開けて中に身を潜めた。
 「チャド」
 倉庫に入るなりくず折れてしまったチャドを、ウィルは壁に寄りかからせた。
 「しっかりしろ」
 チャドはぐったりとして反応がない。
 片目がつぶれているようだった。
 ジェフとエレナは何をしに城へ入っていったのか――。
 ウィルは為す術もなく時間が過ぎるのを待つしかなかった。
 
 そうしてどれくらい経っただろう。
 ギシッと音を立てて倉庫の扉が開き、男たちはギクッと身をすくませた。
 ジェフとエレナだった。
 「放して!」
 倉庫に入るなり、エレナはジェフに引かれていた手を振り払った。
 明らかに様子がおかしい。
 「エレナ」
 「一人にして!放っておいて!!」
 ジェフが声をかけようとするが、エレナは何かに絶望したように彼を拒絶した。
 「エレナは・・・?どうしたんだ?」
 ウィルはジェフに尋ねたが、ジェフも難しい顔をして、
 「今はまだ言えない。日が暮れるまで、ここにいるぞ」
 と言った。
 「エレナ・・・」
 必死に何かをこらえているような様子のエレナを案じて、ウィルが近寄ろうとしたが、エレナは「来ないで!」と叫んだ。
 「今は一人にしてやってくれ」
 ジェフもエレナに声を掛けるのを諦めたかのようにため息をついた。
 一体どうしたと言うんだ?
 地下牢でジェフを見たとき、あんなに安心しきった顔をしたエレナが、今はまるで別人のようだった。
 「ジェフ、チャドの傷の具合が酷いんだ」
 チャドを見守っていた仲間が言った。
 ジェフはチャドの様子をじっと見てから、
 「薬草を持ってくる。動くなよ」
 と言い置いて倉庫を出て行った。
 ウィルにはわからないことだらけだった。
 二人の間で何があったんだ?
 そして、あれほどの拷問を受けたエレナに傷一つないのはなぜなんだ――。
 ウィルは自分の背の痛みを感じながら、またきつく縛られて皮の擦りむけた手首を見ながら呆然としていた。
 エレナは母親が貴族の出身だと言っていた。
 しかし王族の血筋からは遠く離れいた。それでも運動神経がいいのは隔世遺伝ではないだろうかと言っていた。
 だがそこまで王族の血筋を離れた者に、あそこまでの回復力はないことをウィルは知っていた。
 ウィルは頭を幾度もよぎる猜疑心を振り払った。
 まさか、そんなことあるはずがない。
 しかしエレナが泣いている理由がジェフにあることは一目瞭然だった。
 「エレナ――」
 ウィルは地面に座り込んでいるエレナの隣に座った。
 「お願い、一人にして」
 エレナはこらえきれなくった嗚咽を漏らしながら口元を手で覆っていた。
 「どうしたんだ?ジェフに何かされたのか?」
 ウィルはしばらくエレナの様子を見守っていたが、突然エレナが立ち上がった。
 「どこ行くんだ?」
 ウィルが立ちあがるが否や、エレナは走り出した。
 その腕をウィルがつかんだ。
 「どこへ行くんだ!!外は危険だ!!」
 「放して!!ついてこないで!!」
 エレナはウィルを振り払い、駆け出して行った。
 ウィルもその後を追おうとしたが、仲間たちに止められた。
 「ウィル!お前までいなくなってどうするつもりだ!?」
 「どうってエレナをこのまま一人にしておけないだろ!?」
 「エレナは普通じゃない!お前もあの背中見ただろ!?」
 ぐっとウィルは言葉に詰まった。
 「ジェフも王族なんだろ!?王族のことは王族に任せておけ!!」
 「そんな言い方あるかよ!!エレナは仲間だろ!?」
 「例えそうだとしても、騎士団が俺たちを血眼で捜してる!お前まで捕まったらどうするつもりだ!?エレナが王族の仲間だとしたら連中はあいつを悪いようにはしない!!」
 仲間はウィルの肩に手を置いた。
 「ウィル、ちょっと落ち着け。今ここを出るのは自殺行為だ。もし外に出たエレナが捕まったら、誰がそれを助けてやるんだ?」
 「それでも俺は――」
 と、そこへ、薬草を持ったジェフが戻ってきた。

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