自由の船 3

2015.02.22 (Sun)
 「ウィル、ウィル」
 ウィルはエレナの声で目を覚ました。
 気がつくと、後ろ手に手を縛られ、檻のような荷馬車にくくり付けられて揺られていた。
 エレナも同じように手を縛られていた。
 「ここは――。どうなったんだ?」
 「私のアルフェンドラの知り合いがチャドを誘っているのを立ち聞きしていて、それを密告したのよ・・・」
 謝っても謝りきれない、と、エレナは涙を流した。
 仲間たちはまだ気を失っている。
 朝日が差し込んできていた。
 見れば、チャドは顔から血を流しているし、ジェフがいない。
 「あいつは・・・、ジェフは?」
 「わからないわ。ジェフはまだ海にいたけど、私とチャドは先に岸に上がったの。そこを捕まって・・・」
 「・・・俺たちは、たぶん騎士団の本部に連れて行かれるんだろうな」
 「ええ、そうだと思うわ」
 「俺たちの仲間で逃げ切れたやつはいないみたいだな・・・。望みはジェフだけだな」
 「馬車に乗せられる一瞬前、馬を繋いでいたところを見たんだけど、一頭もいなかったわ・・・」
 エレナは必死に身を捩って縄を解こうとしていたが、固く縛られたそれは解けることはなかった。
 「やめろ。ただでさえお前濡れたままで体力使ってるんだから」
 ウィルは気遣わしげに言った。
 「でも私のせいで・・・」
 「お前のせいじゃない」
 それだけがウィルに言える慰めの言葉だった。
 「私のせいよ。もっと気をつけるべきだったわ・・・」
 エレナとしても、まったく予期していなかったのだろう。アルフェンドラの話をするとき、いつも楽しそうに話していた。
 その仲間に裏切られたということになる。
 そのとき、不意に馬車が足を止め、騎士団の人間が降りてきた。
 「おい、うるさいぞ」
 そして全員に猿轡を噛ませ、黙らせた。
 こうして彼らは水も食料もほとんど与えられず、長い時間をかけて騎士団の本部に連行されて行った。

 
 騎士団の本部へ着くと、目隠しをされて地下牢へ連れて行かれ、それぞれが鎖で繋がれた。
 それから長時間に及ぶ尋問が始まった。
 「どうやって船を建造した!?発案者は誰だ!?」
 しかし、誰も答えようとしなかった。
 そこで、鞭打ちが始まった。
 全員が服の背中を裂かれ、一人ずつ、その拷問を受けていった。
 「発案者は誰だ!?即刻答えよ!!」
 何度鞭で打ちすえられようと、誰も口を割ろうとしなかった。
 そこで、エレナが男たちの前に引きずり出された。
 「やめろ!!」
 ウィルが叫んだ。
 「相手は女だぞ!!」
 「ならば答えよ!!発案者は誰だ!?どうやって船を建造した!?木材はどこから仕入れた!?」
 尋問官は容赦なくエレナを鞭で打ちつけた。
 エレナの背が弓なりに反り、白いシャツに血がにじむ。
 それでもエレナは声も上げず、口を割ろうともしなかった。
 答えれば、想像を絶するほど多くの人間に危害が及ぶ。
 決して答えるものか。
 この命が果てようとも――。
 エレナは唇を噛んで、延々と続く拷問に耐えていた。
 「やめろ!!」
  ウィルは叫び続けた。
 そのとき――。

 ガタガタガタッ!!

 地下牢の階段を、衛兵が血を流して転がり落ちてきた。
 ジェフだった。
 助かった――。
 エレナはジェフの姿を見た途端、ぐったりとくず折れた。
 ジェフは一斉に斬りかかってきた衛兵たちを一瞬でなぎ倒し、牢の扉を開けた。
 「ここを出るぞ。早く!!」
 一人ずつ鎖を外してやりながら、ジェフが怒鳴った。
 「エレナ、立てるか?」
 「ジェフ・・・」
 エレナはぐったりと顔をあげた。
 エレナの背中から流れた血は腰にまで流れていた。
 しかし、破れた服の隙間から見える背中の肌は滑らかで、傷一つついていなかった。
 「エレナ――どうして――傷が・・・!」
 その背中を見たウィルが唖然とした。
 「その話は後だ。行くぞ!!」
 ジェフはエレナに外套を羽織らせ、肩を貸し、皆を率いて地上へ出ようとした。
 そのとき――。
 「ジェフ――」
 唖然とした表情の執政補佐官がそこにいた。
 「生きていたんですか」
 「クレスト、そこをどけ」
 ジェフはクレストと呼んだ補佐官に剣を突きつけながら言った。
 クレストも剣を抜いた。
 「お前と争いたくない」
 クレストは、今は気丈に立っているエレナに目を向けた。
 そして――。
 「王女・・・!!」
 王女?
 何を言っているんだ――。
 ジェフ以外の全員が耳を疑った。
 「どけ!!」
 ジェフはクレストを突き飛ばし、地上へ出た。
 夕暮れ時だった。
 捕らえられていたのは全部で五人。
 ウィルを含む四人の男たちにジェフは言った。
 「ここから東へ走れば抜け道がある!!その先の倉庫へ先に行け!!」
 「あんたとエレナはどうするんだ!?」
 ウィルが言った。
 「城に用がある。今は話してる暇はない!行け!!」
 「城に用って――ジェフ!?」
 当惑するエレナの手をつかみ、ジェフは何も言わずに反対方向へ走り出した。
 ウィルはその後を追うこともできず、ジェフに言われたとおり、仲間を率いて東へと向かった。

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