出国を禁ず

2015.01.02 (Fri)
 その二日後、ジェイクからウィルのもとに伝令用の鳥が飛んできた。
 盗賊としての会合・・・ではなく、エレナが寄付をし続けている孤児院の出身者が造っている船の帆が完成したとの報せだった。
 ウィルたちの盗賊団の知り合いに、たまたまその船の建造に携わっている者がいた。
 この国を出たい気持ちは痛いほどよくわかる。
 しかし海を渡るだけの金がない者のためだ。
 大陸に向けて出航するであろうその船の建造に、ウィルたちも手を貸すようになっていた。
 エレナもこの報せを知りたいだろうと思い、次の朝ウィルはオプタリエに向かった。
 
 ドアをノックすると、すぐにエレナが顔を出した。
 が、その奥にジェフの姿も認められた。
 「あいつまだいたのか」
 思わず忌々しげな声が漏れた。
 「どうしたの?こんな朝早くに」
 「帆ができあがった。見に行かないか?」

 三人は馬でオプタリエを抜け、入り組んだ入り江の洞窟にやってきた。
 「ここは?」
 馬の手綱を棒にくくりつけながらジェフが尋ねた。
 「船を造っているの」
 「船?」
 エレナが船について説明していると、一人の身体の大きな男が歩いてきた。
 「エレナ」
 「久しぶりね、アダム。帆ができたんですって?」
 「ああ。ようやくだ。出港できる日も遠くない」
 アダムは大きな帆を運んでいる数人を顎でしゃくってから、ジェフに視線を移した。
 「そいつは?」
 「私の知り合いよ。大丈夫、喋ったりしない人だから」
 「なんだ、お前にもついに男ができたのかと」
 にやりとしたアダムの腕を、エレナが思い切りひっぱたいた。
 正直、ウィルも引っぱたいてやりたい気分だった。
 エレナは、 「船の様子を見てくるわ」 と言って、ジェフから離れた。

 ジェフは、船の見学をしているエレナを眺めていた。
 そんなジェフの様子を見ていて、ウィルはジェフに詰め寄った。
 ジェフはおそらく、自分がエレナを目で追っていることにすら気付いていないのだろう。
 「本当に、エレナとは何もないのか?」
 「?ああ」
 「・・・・・・」
 ウィルは、嫉妬心に駆られるのを必死にこらえた。
 「あいつは、必要以上に人と馴れ合おうとしない。俺ともそうだ。結婚もしないと言っていた。愛した者が死んでいくことに耐えられないからと言って・・・」
 あんなに子供好きなのに、とウィルは言った。
 「それなのにあんたは、なぜこんなにエレナと親しいんだ?あんな顔をしてるエレナは初めて見た」
 「なぜと言われてもな・・・」
 ジェフが返答に困っているときだった。
 「大変だ!!」と、誰かが走りこんできた。
 「国から新しい勅令が出た――」

 その一報を聞いて、真偽を確かめるべくエレナとジェフが近くの町に向かった。
 ウィルはあの二人が仲良く連れ立っているところをこれ以上見ていることに耐えられなかった。
 「ベルスの民は何人も出国を禁ず?」
 駆け込んできた仲間が口にした内容を、ウィルはオウム返しに繰り返した。
 「制札にそう書いてあった。冗談じゃねえ、これじゃ俺たちのやってることが違法じゃねえか」
 「でもここは隠されてる。知ってる奴にしか見つからない」
 「早いとこ船を完成させて、すぐにでも大陸に出航するべきだな」
 アダムが言った。
 その言葉に、そこにいた全員がうなずいた。

 その日は、夜遅くまで造船作業が続き、ウィルやジェイクもそれを手伝った。
 「ウィル」
 不意に、ジェイクが顔の汗を拭きながらウィルに声をかけた。
 「さっきから何も喋ってねえけど、大丈夫か」
 「・・・ジェイク」
 ウィルも袖で汗を拭きながら、海を見つめた。
 「俺さ、決めたことがあるんだ」
 「決めたこと?」
 「エレナを守る。何があっても」
 「・・・お前・・・」
 ジェイクはため息をついた。
 「エレナとお前ってどっちが強いと思ってんだよ」
 「そういう問題じゃない」
 ウィルは冷静にジェイクを見返した。
 「もう、決めたんだ。あいつを世界で一番愛してるのは俺だっていう自信がある。だから、本気で惚れた女くらい、この手で守りたい」
 「・・・・・・」
 「って、なんか宣言したくなったんだ」
 そう言って、ウィルは照れ笑いを浮かべた。
 「この船もそうだが、俺達はいつ命を落としてもおかしくないようなことばかりしてる。いつかあいつも本気でやばいときが来る気がするんだ。そのとき、俺はそばにいてやりたい」
 「・・・それ、俺じゃなくて本人に言ったらどうだ?」
 ジェイクも笑いながら言った。
 「もう言ったよ。何度も。そのたびにお前と同じように、俺とあいつとどっちが強いと思ってんだ言ってって流されてさ。・・・それに今は、あのジェフってやつもいる。エレナを渡したくない」
 ジェイクは何とも返答のしようがなかった。
 ジェフがエレナを想い、エレナもジェフを思っているだろうことは傍目にも明らかだった。
 それでも、ウィルの意思には一点の曇りもないようだった。
 「なら、やってみろよ」
 「やってやるよ」
 そう言うと、ウィルは再び造船の手伝いを始めた。

       次へ

にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村
スポンサーサイト

トラックバックURL
http://rainy0dusk.blog.fc2.com/tb.php/703-8535f9fc
トラックバック
コメント
管理者にだけ表示を許可する
 
back-to-top