スポンサーサイト

--.--.-- (--)
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

焦り 1

2014.12.26 (Fri)
 サディアスの死から三週間が経った。
 ウィルの勤める工房はその頃繁忙期を迎えていて、ウィルはなかなかエレナに会いに行くことができなかった。
 しかも、それまで三日に一度はドルアレスに下りてきていたその姿を見せなくなった。
 また都へ行ったのか?
 しかしアルフェンドラという吟遊詩人の一座はゴルドアへ帰ったんじゃなかったのか?
 
 「私も、明日久しぶりの仕事よ」

 ・・・襲った馬車に王族が乗っていたとか。
 ウィルはいつかのように不安に駆られていた。
 ようやく仕事にキリをつけると、エレナの小屋へと向かった。
 馬はいる。
 この様子なら小屋にいるはずだ。
 少し安心しながらドアをノックすると――。
 長身の男が顔を出した。
 「誰だ」
 と、ウィルは言った。
 どこかで見たことがあるような気がする。
 しかし今はそれどころではなかった。
 「お前こそ誰だ」
 男はいたって冷静に同じ質問を返してきた。
 そこへ、エレナが姿を見せた。
 「ウィル」
 ウィルは安心すると同時に激しい嫉妬にも似た怒りを覚え、大声を出した。
 「しばらく姿を見せねえから心配してきてやったら男なんか連れ込みやがって!!」
 「この人――」
 エレナが何か言おうとしているが、ウィルは聞く耳を持たない。
 もうなりふりなど構っていられない。
 エレナは自分の小屋に人を泊めたことなどなかったのに。
 何で俺じゃないんだ。
 「てめえも人の女に手え出しやがって!」
 「いつ誰があんたの女になったのよ!!」
 ウィルの言葉にカチンと来たのか、エレナがさらに大声を出した。
 「この人がジェフよ!前に話したでしょう!?」
 「何でそいつがこんなところにいるんだよ!!」
 「拾ったのよ」
 エレナは「まったく・・・」と長い髪をかき上げた。
 「仕事相手がこの人で・・・、怪我してたから助けてやったのよ。今日にも洗いに行くわ」
 洗いに行く、とは資金洗浄のことだ。
 つまりなぜかジェフが王族への献上品を積んだ馬車に乗っていたということらしい。
 「何の話だ?仕事相手?」
 話についてきていないのはジェフだけだ。
 困惑したように呟いた。
 「そういうわけだから」
 エレナが急に冷たい声を出してジェフを見上げた。
 「あなたとも今日でお別れね」
 そうだそうだ、出て行け。
 ウィルは内心すっきりしながらエレナの言葉を聞いていたが、ジェフが困ったような、慌てたような声で言った。
 「ちょっと待て」
 「私も忙しいのよ。あんたの相手ばっかりしてられないわ」
 「こいつは盗賊だ。単身のな」
 事情が飲み込めないらしいジェフに、ウィルは勝ち誇ったように言ってやった。
 「あんたは国を追われたのに、どうして国の紋章が入った馬車に乗ってたんだ?」
 「その話は後よ。ジェフ、出て行って」
 「・・・それは困るな」
 さてさて、とジェフがどこか不敵な笑みを見せた。
 「俺はお前を探して十五年も放浪して歩いた」
 十五年も?
 つまりエレナが両親と生き別れてからずっと?
 ウィルは困惑し、焦りを覚えた。
 エレナも困惑しているのは同じことのようだった。
 「なぜ・・・?」
 「それはお前がおう・・・」
 そこまで言って、ジェフは突然言葉を切った。
 おう・・・何だって言うんだ?
 「私が、何よ」
 「とにかく」
 ジェフは開き直ったようにエレナに向き直った。
 「俺は二度とお前を見失うわけにいかないんだ!!」
 がつん、と、ウィルは頭を殴られたように感じた。
 エレナの瞳が一瞬揺らいだからだ。
 エレナが自分に対してこんな表情を見せたことはない。
 一時の沈黙が流れたが、我を思い出したようにエレナがその沈黙を破った。
 「やめてよ、気持ち悪い」
 これは本心じゃない。
 ウィルにはなぜかそれがわかった。
 しかし、エレナを奪われるという焦りのほうが勝っていた。
 「いや、そういう意味じゃなくて――」
 ジェフは「しまった」という表情をしたが、あの言葉がすべてを語っていた。
 「てめえ、やっぱりエレナに気があるんじゃねえかよ!!人の女に!!」
 「だから誰があんたの女なのよ!」
 「ない!!」
 二人が同時に叫んだが、そのジェフの言葉に、エレナは悲痛ともいえる声を出した。
 「ならもういいでしょう!?私は今は王族専門の盗賊よ。ここにいればあなたにも危害が及ぶ。だから出て行って」
 ウィルたちがあのとき記録を抹消したとは言え、ジェフは賞金首なのだ。
 エレナが本気で心配しているのが伝わってきた。
 しかし、ジェフは剣に手をかけ、
 「いやだと言ったら?」
 と、真剣な眼差しをエレナに向けた。

前へ       次へ

本編はこちら
赤の紋章タイトルバナー

にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村
スポンサーサイト

トラックバックURL
http://rainy0dusk.blog.fc2.com/tb.php/701-7127ef6a
トラックバック
コメント
管理者にだけ表示を許可する
 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。