盗賊の運命(さだめ) 1

2014.12.12 (Fri)
 ウィルは仕事の暇を見つけては、エレナの元へ行こうかと考えていたが、先日の出来事を思い出すと、どうしてもその足はオプタリエに向かおうとしなかった。
 あの時、手首をつかまれて自分を睨んだ瞳には紛れもなく悲しみが混ざっていた。
 

 「もう耐えられないのよ、置いていかれるのが」

 エレナの失ったものの多さを考えれば、そんな考えに行き着いてしまうのも仕方がないように思えた。
 ウィルはその日何度目かわからないため息をついていた。
 「やめろ、そのため息。辛気臭せえ」
 アーヴィンが、ここ数日落ち込んでいるウィルを見かねて声をかけた。
 「お前もうどうせ振られきってるんだから」
 「振られてねえ!」
 見当違いな意見を述べられて、ウィルはうっかり反論した。
 「いや相手にもされてねえのは火を見るより明らかだぜ?」
 エレナに失恋したとは認めていない。
 が、傷をえぐられるような一言に、ウィルはまたため息をついた。
 「だからやめろっての。女なら他にいくらでもいるじゃねえか。久々に行くか?」
 行くか?と言った先は暗に娼館のことを指している。
 しかしこの日ばかりは、ウィルも他の女のことを考える気になれなかった。
 というより、エレナと出会ってから、ウィルの女遊びの頻度は極端に減った。
 それまで女と見れば見境がなかった、近寄ってくる女を選びもしなかったウィルとしては大変な変化である。
 「何なんだよまったく。そんな気になるんなら行って来いよエレナのところに。ここはもう俺がやっておくから」
 ウィルが力なく握っていた金槌を取り上げると、アーヴィンは背を向けて行ってしまった。
 そうか、それしかない。
 エレナを何としても振り向かせる為にはここで立ち止まったらだめだ。
 ウィルは上を向いて一つ息をつくと、そのまま鍛冶場を後にした。

 エレナの小屋にやってきたウィルは、一瞬ためらってからドアをノックした。
 反応がない。
 ふと後ろの馬小屋を見ると、馬がいなかった。
 大方、街にでも下りているのだろう。
 また明日来よう。
 そう思ったウィルは、何の収穫もなく家路に着いた。
 しかし彼は気づいていなかった。
 エレナが生活の為に飼っていた羊やヤギまでいなくなっていたことに。

 何日たっても、どの時間に訪ねてもエレナがいない。
 そう気付いたのはそれから五日がたってからのことだった。
 エレナの小屋もオプタリエのすぐ近くにある。何か危険なことに巻き込まれたんじゃないか――。
 そんな不安に駆られたウィルは、ずいぶん前にエレナから伝令石をもらっていたのを思い出し、鳥を飛ばした。
 三日ほどして帰ってきた返事を読んだウィルは、へたへたと座り込んでしまった。
 何でも、大陸のゴルドアという国の吟遊詩人の一座に居候しているとのことだった。
 踊り子として舞っているエレナも見てみたいが、ウィルには鍛冶屋としての仕事もあった。
 エレナが安全な場所にいるならいいか――。
 まさかそのままゴルドアへ行ってしまうこともないだろう。
 とウィルは考えたが、エレナはこの頃本気でゴルドアへついて行こうと思っていた。

 
 それからエレナはしばらく帰ってこなかった。
 そんなある日、隣町に住むジェイクが直々にウィルとアーヴィンの元を訪れ、険しい表情で招集をかけた。
 ジェイクはいつもは皆の伝令石を使って招集をかける。
 彼自らが出向いて招集をかけるということはほとんどない。
 何かあったのだろうか。
 ウィルは仕事の手を止めて、ジェイクの招集に応じた。

 
 その夜、盗賊団の集会が開かれた。
 「これは確かな筋から聞いた話だ」
 ジェイクが口を開いた。
 「都で、貴族が――、おそらく王族だろうな。他の盗賊団と組んで、甘い汁を啜ってるそうだ」

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