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サルトゥスの悲劇 2

2013.03.20 (Wed)
 ジェフはしばらくの間サルトゥスに滞在した。
 「パクス・・・平和・・・べルルム・・・戦争・・・」
 「単語だけ覚えてもだめだぞ」
 ジェフがチャドに言った。
 「だって、めんどくさすぎるんだよ、あんたの一族の言葉!!」
 「正確には俺の一族の言葉じゃない。元は大陸出身の長老の国の言葉だ」
 「今ではあんたの一族しか使えないんだから同じことだよ!!」
 チャドは逆切れしながら再び羊皮紙に顔を戻した。
 「エレナのためだから頑張るけど・・・」
 チャドはブツブツ言いながら、それでも時折こっくりこっくりと舟を漕いでいた。

 一方、ルーカスは、碁盤のおもちゃに絵を彫り、それに古代語を書き込んだ。
 アールとアリスも時間のある限りは古代語の学習に励んだ。
 そしてジェフは。
 「エレナ」
 大嫌いなジェフと二人きりにされたお姫様は大そうお冠で、そっぽを向いたままジェフを見ようとしなかった。
 「・・・・・・」
 ジェフは、子供が苦手だった。
 というより、子供に嫌われる性質だった。
 子供は正直なもので、人相の悪いジェフを見ると泣き出すのである。
 都にいた頃もそんなことがあった。
 以来、ジェフはなるべく子供に近寄らないようにしていた。
 「エレナ、秘密の言葉を教えよう。秘密の言葉だ」
 秘密、という言葉に、エレナは少し興味を見せるような素振りを見せた。
 古文書の一部を開き、ジェフは言った。
 「『満月の昇るとき』・・・繰り返せ。“満月の昇るとき”だ」
 「『満月の昇るとき』」
 さすがだ、とジェフは舌を巻いた。
 「『民の希望もまた上らん』“民の希望もまた上らん”」
 「『民の希望もまた上らん』」

 そうして、一か月が過ぎていった。
 ジェフは再び旅に出る支度をした。
 結局、古代語を一番多く覚えたのはエレナで、大人たちは惨敗だった。
 ジェフはエレナの為に、古代語で本を作った。
 自力で読めるとは思わなかったが、何もないよりマシだろう。
 大人たちに、カルロスがそうしたように、他の誰かに見つかるようなことがあれば燃やせと、そう言い残して。
 「さあ、エレナ、ジェフが旅に出るわ。ご挨拶は?」
 結局、エレナはこの一か月、ジェフとほとんど口を利かなかった。
 「アリス、無理させなくていい」
 ジェフは手で制しながら言った。
 「あら、案外甘いのね」
 そうではなく、あまり強制されて挨拶されても逆に心が痛むからだ、とジェフは心中で思った。
 「気をつけて」
 「ああ。みんなも」
 ジェフは村人たちに見送られ、再び旅路に着いた。

 やがて月日は流れ――。
 再び二年が経ち、エレナが七歳になる頃になった。
 自分は七つで人生の選択をした。
 ジェフはある日、エレナは今どうなっているのだろうと、ふと心に思った。
 ジェフは再びサルトゥスへやって来た。
 常のごとくアールとアリスの施療院へやってくると、建物の横に、革張りの大きな荷馬車が止まっていた。
 そこへ、ルーカスの姿見えた。
 そして。
 「ルークーっ!!!」
 ぼふんっ!!
 エレナと思しき少女が、二階の窓から荷馬車の荷台に飛び降り、ルーカスの胸に飛び込んだ。
 「エレナ!!」
 窓からアリスが顔を出し、悲鳴を上げた。
 「窓から飛び降りちゃダメって言ってるでしょう!!」
 「君も人のこと言えないだろ」
 アールが笑って二階のアリスに声をかけた。
 ああ・・・平和だ。
 ジェフは苦笑しながら、皆の元へ向かった。
 「ジェフ!」
 二階の窓から、真っ先にアリスが気付いて呼びかけた。
 「お帰りなさい!」
 アールとルーカスもジェフの方を向き、相変わらずの歓迎振りを示した。
 「エレナ、挨拶しなさい」
 アールに言われて、エレナは嫌そうな顔をしたが、しかし、
 「『こんにちは』」
 と、古代語で言った。
 ジェフは大いに驚いた。
 まさか本当に覚えているとは思わなかったのだ。
 「『久しぶりだな』」
 ジェフも古代語で返すと、エレナはふいとそっぽを向いてしまった。
 これも相変わらずか・・・。
 ジェフは苦笑しながら中へ通された。

 その夜も相変わらずの面々で食事会が催された。
 今回はジェフは鹿の肉を土産に狩って来ていた。
 エレナが眠りにつくと、アリスが言った。
 「ねえ、私、気になることがあるんだけど。エレナのことで」
 「何だ?」
 「あの子、大体一月に一度、夜中に泣き叫んで目を覚ますのよ」
 「・・・それは、満月の晩じゃないか?」
 ジェフはことりとマグを置きながら尋ねた。
 「ええ・・・そう言われれば、そうかもしれないわ」
 「・・・それは・・・、エレナが王女である証だ」
 「泣き叫ぶのが、どうして王女の証なんだ?」
 チャドが言った。
 「王家の女性・・・王女と王妃のことだが、彼女たちは、以前に話した戦の夢を見るんだそうだ。満月の晩に。マリアンナという三番目の王女は、その夢のむごさに正気を失い、王位に就いてからも狂女王と呼ばれた」
 「そんな・・・毎月そんな夢を見るなんて・・・。エレナは耐えられるかしら・・・」
 「わからない。本人の精神力と、周りの支えがあれば大丈夫だ」
 ジェフは励ますようにアリスに言った。

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