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サルトゥスの悲劇 1

2013.03.20 (Wed)
 ジェフが旅に出て五年が経った。
 あれからも島中を旅して歩いたが、相変わらず古文書の謎も最後の章も読み解けずにいた。
 また、城壁内にいる間は相変わらず夜盗や賞金稼ぎの標的になっていたが、ジェフの剣に勝てる者は一人としておらず、ジェフも何とか生き延びていた。
 そしてそろそろ王女も五歳になる頃になった。
 ジェフはサルトゥスの村へ帰ることにした。
 
 西の端側からオプタリエをくぐり、ジェフは再びサルトゥスの地を踏んだ。
 まず向かったのは、やはりアールとアリスの施療院だった。
 扉をノックしてしばらくすると、アリスが顔を出した。
 「まあ!ジェフ!!お帰りなさい!!」
 アリスは狂喜した。
 「変わりないか」
 ジェフは微笑んで、アリスの歓迎を受け入れた。
 「ええ、みんな元気よ。もちろんエレナも。さあ、入って。疲れているでしょう?もうすぐお昼だから、何か食べて行ってちょうだい」
 「ああ。ありがとう。助かるよ」
 旅に出てから、当たり前だがきちんとした食事を取れることは稀にしかない。
 ジェフはアリスの申し出が心底ありがたかった。
 「アールは今、往診に行っているわ。もうすぐ帰ってくるはずだけど」
 階段を上り、いつかアリスの食事療法を受けた部屋に入りながらアリスが言った。
 「そうか」
 「待って。今お茶を入れるわ」
 そのとき、ジェフは膝のあたりに何かがぼふっと抱きつくのを感じて下を見下ろした。
 「エレナ」
 アリスはクスクスと笑いながらエレナに呼びかけた。
 「お父様だと思ったんでしょうね。エレナ、ご挨拶なさい。お客様よ」
 しかし、エレナはジェフを見上げ、非常に嫌そうな顔をした。
 そして、そのまま無言でアリスのスカートに隠れてしまった。
 「・・・まさか、覚えてるのかしら?」
 その様子を見て、アリスがまさか、という顔をした。
 「可能性はあるな」
 ジェフは困ったようにため息を吐いた。
 ジェフは、エレナが二歳のときにも一度サルトゥスに帰ってきていた。
 そのとき、エレナはやはり父親――アールとジェフとを間違えて、ジェフの外套によじ登ってきたことがあった。
 ジェフが何か重い、と思って振り返ると、エレナはゴッと棚に頭をぶつけ、べちゃっと地面に落ちてしまった。
 以来、ジェフはエレナに非常に嫌われていた。
 「何せ生まれが生まれだ。いくつの頃のことを覚えていても不思議はない」
 ジェフは諦めたように言った。
 「エレナ」
 アリスはしゃがんでエレナと視線を合わせた。
 「ジェフよ。覚えてるの?」
 すると、エレナはやはり、こくりと頷いた。
 「すごいわこの子。天才だわ」
 アリスは親馬鹿全開だった。
 「でもこの子、普段は全然人見知りしないのよ」
 ジェフは逆に傷ついた。
 
 昼食時になると、アールが帰ってきた。
 「ジェフ!」
 アールは幾分年を感じさせる風になっていたが、相変わらずジェフを歓迎した。
 「変わりないか」
 同じように挨拶をしながら、ジェフは言った。
 「ああ。でも最近少し年を感じるよ。・・・あんたは荒野に出ても少しも変わらないな」
 アールは苦笑しながら言った。
 その夜は、ルーカスとチャドも招かれ、ささやかな食事会が開かれた。
 「久しぶりだな」
 ルーカスがジェフと握手しながら、ジェフの腕を叩いた。
 「ああ。変わりないか」
 「ああ。何も」
 「そんなことないわ」
 アリスが割って入った。
 「ルーク、隣村のウェトゥムで家具職人の賞を取ったのよ」
 「すごいじゃないか」
 農耕が盛んなサルトゥスの隣村、ウェトゥムでは、工芸が盛んだった。
 「たまたまいい材料が入っただけだ。おい、チャドは?」
 「ジェフ!!」
 チャドがエレナを抱っこしてやって来た。
 「ひっさしぶりだな!!」
 「お前、大人びたな」
 ジェフはエレナの次に成長したチャドを見て驚いた。
 「いやだな、俺だってもう二十四だよ。なーエレナ」
 エレナは意味が分かっているのかいないのか、にこにこと頷いた。
 しかし、ジェフと目が合うと、瞬時に笑顔が消え、ぷいとそっぽを向いてしまった。
 「さあ、支度ができたわ。夕食にしましょう。ジェフ、旅の話を聞かせてちょうだいな」
 
 ひとしきり食事が済み、落ち着いてくると、アリスが言った。
 「エレナったら、もう読み書きができるのよ。さすがね」
 「ああ。私も驚いている」
 アールも頷いた。
 「理解しているのかいないのか分からないが、私たちの医学書を読んでいろいろと言葉を覚えたんだ」
 「ねえ、私思うんだけど」
 アリスが言った。
 「この子に、あなたの一族に伝わる言葉を教えたらどうかしら」
 「何――?」
 ジェフは驚いてマグを置いた。
 「この子も――、来たるべき日が来るんでしょう?」
 王位を継ぐ日が・・・。
 「そのとき、あなたの一族の誤解も解いてもらえるようにしたらどうかしら」
 「それはいい考えだね」
 チャドも賛成した。
 「それは・・・、どうかな。ウェルバの嫌疑はもう何百年も前の話だ。うちに罪がないと誰が言っても、信憑性がなさ過ぎる」
 ジェフは考え込んだが、やがて「だが」と言葉を続けた。
 「王家も古文書は読めたほうがいい。昔は紋章官一族が、その後は聖堂の者が王家に教育をしてきたんだが、言葉が面倒すぎてやめることになったんだ」
 俺も昔古代語を学んだときには先祖にキレたくなった、とジェフは苦い顔をした。
 「どうやって教えるんだ?」
 ルーカスが尋ねた。
 「あんたはまた旅立つんだろう?」
 「・・・・・・」
 
 そんなわけで、大人たちは古代語を猛勉強する羽目になってしまった。
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