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満月の晩に

2014.09.08 (Mon)
 「月が綺麗だな」
 何気なく呟いたジェフの言葉に、エレナは震える声で返した。
 「・・・見てるだけならね」
 今日は満月。
 エレナが必ず悪夢を見る夜だ。
 消え行くろうそくの心もとない灯りの中で、今のエレナは酷く弱々しく見えた。
 いつもの強情で強気な彼女とは似ても似つかない。
 完全に怯えているようだった。
 「・・・怖いか」
 「・・・慣れてるわ」
 何とか保たれた強気な言葉とは裏腹に、エレナはぎゅっとジェフに抱きついた。
 「・・・早く朝になればいい・・・」
 ポツリと零された本音。
 なぜ自分が満月の晩に悪夢を見るのか、その理由はわからない。
 けれど、毎月毎月自分の悲鳴で飛び起きるような生活を送っていれば、満月が嫌いになっても致し方ない。
 「エレナ」
 恋人に名を呼ばれて彼を仰げば、突然抱きしめられ、口付けられた。
 「・・・何?」
 深い口付けからようやく開放され、エレナは困惑して問いかけた。
 「・・・眠らなければいい、という案はどうだ?」
 ジェフはエレナの頬に手を添えて、その青い瞳を覗き込んだ。
 「眠らないでどうしろっていうの?一晩中編み物でも――」
 エレナの言葉はジェフの唇によって途中で遮られた。
 息が苦しくなって、空気を求めて口を開けば舌を甘く絡め取られる。
 ジェフの手が、エレナのシャツの紐に伸びた。
 その刹那、ジェフの言葉の意味がわかった。
 エレナは反射的にジェフの手を押しとどめて後ずさった。
 「・・・嫌か」
 「そうじゃない・・・けど・・・」
 「エレナ・・・」
 ジェフは優しい微笑と共にエレナに囁いた。
 エレナは完全に硬直して、ジェフが自分の髪に口付けていることにも気づかなかった。
 一歩、また一歩と後ずさる。
 しかし、その一歩も無限には続かない。
 寝台にぶつかって、エレナは思わず顔を上げた。
 もう逃げ場はない。
 ジェフはゆっくりとエレナを寝台に横たえた。
 「・・・怖いか、俺が」
 エレナはかわいそうなくらいに震えていた。
 それでも、彼女は必死に首を横に振った。
 事実、エレナはまだ男性を知らない。
 そんな中で、エレナは必死に考えた。
 初めての相手がジェフでよかったと。
 そう思ったら、エレナは自然に微笑んでいた。
 その微笑の艶やかなこと。
 「いいんだな」
 エレナの髪を梳きながら、ジェフは最後に確認した。
 エレナは答える代わりに半身を起こしてジェフに口付けた。
 
 薄いカーテン越しに、満月の光が、重ねあわされた二人の肌を白く浮かび上がらせた。

 ジェフに抱かれながら、エレナはカーテンの隙間から満月を仰ぎ見た。
 いまだかつて、満月がこんなに美しいと思えたことはあっただろうか。
 そして、この人をこんなに愛おしいと思えたことがあっただろうか。
 その満月の晩は、エレナにとって忘れ得ぬ晩になった。

 明け方、外がすっかり白んでくる頃、エレナは短い眠りから覚めた。
 ジェフがずっと自分を抱きしめて、赤子をあやすようにその髪を梳いてくれていたことがわかった。
 「身体は大丈夫か」
 「・・・ええ。あなたはずっと起きていたの?」
 「お前の寝顔を見逃すのが惜しくてな」
 エレナはくすくすと笑って、ジェフの胸元に擦り寄った。
 「ありがとう、ジェフ・・・。こんなに穏やかに満月の翌朝を迎えられたのは初めてよ」
 「夢も見なかったか」
 「ええ・・・」
 でも、と、エレナはふと顔を曇らせた。
 「次の満月の晩も・・・、あなたは隣にいてくれる・・・?」
 ジェフはきょとんとしてエレナを見下ろした。
 エレナでもこんなかわいらしい質問をするのか。
 「・・・俺は、どこへも行かない。お前だけのそばにいる。満月の晩だけといわず、いつでもな」
 エレナは顔中の笑顔でジェフを見上げた。
 ジェフも微笑み、その額に唇を落とした。
 満月の晩に





お久しぶりの『赤の紋章』“if”シリーズ!
中秋の名月の晩に書きました。
ほとんど満月なので、エレナには辛い時期だろうと思ったら神降臨。
20分で書けました。

もしジェフとエレナが恋仲だったら、
体の関係になるのはいつなんだろうどんな状況なんだろうと時々考えていたんですが、
ジェフもたぶん無理強いはしないし(当然か)、
エレナが弱ってるときに支えてあげるような感じなのかなと思ったらこうなりました。
珍しく不安要素の(あんまり)ない、ほのぼのしたお話になりました。

少しでもお楽しみいただけましたら光栄です。
感想などいただけたら嬉しく思います。

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