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五番目の王女 2

2013.03.16 (Sat)
 ジェフがサルトゥスの村へ戻ってきたのは、村を出てから二ヵ月後のことだった。
 戻ったことを告げようと、アールの元へやって来た。
 「アール」
 「ジェフ!無事だったんだな」
 ジェフとアールは握手して再会を喜んだ。
 「ああ。だがまたすぐに出なきゃならん」
 「どうしたんだ?何があった?」
 「王女は生きてる」
 「何の話だ?」
 「聖堂にもぐりこんで史書を読んで来た。生誕の鐘と弔いの鐘が鳴ったあの日、王妃は確かに死んだ。だが、生まれた王女は生きたまま海へ流されたと書いてあった」
 「・・・・・・」
 アールは、まさかと思いながら、ジェフの話を聞いていた。
 「もちろんこれは極秘中の極秘だ。公には王女は誕生と共に死んだとされている」
 そこへ、アリスがやって来た。
 「あら、ジェフ!お帰りなさい!」
 嬉しそうにジェフを歓迎するアリスのその腕には、赤ん坊が抱かれていた。
 「・・・この子は・・・?」
 深海のような青さを湛えた瞳の赤ん坊。
 ジェフは嫌な予感がした。
 「海辺に棄てられていたの。それで、私たちで育てることにしたの」
 「・・・いつのことだ?」
 「一月前よ。かわいいでしょう?エレナっていうの」
 ジェフとアールは顔を見合わせたまま、しばらく動くことができなかった。

 「それじゃあ、エレナが王女だというの?」
 施療院の中へ入って、アリスにも説明した。
 「わからない。だが可能性が高すぎる。試す方法はひとつしかない」
 「どうするの?」
 「・・・・・・」
 ジェフは懐からナイフを取り出した。
 「なっ、何をするの!?」
 「ほんの少し、傷をつける。王家の子ならば痕は残らない」
 「そんな!王家の子じゃなかったら!?普通の子だったら、ただ痛い思いをするだけじゃない!!それにこの子は女の子なのよ!?傷が残ったらどうするの!?」
 「アリス。国の滅亡に関わることなんだ」
 「アリス」
 アールがアリスを抑え、ジェフは赤ん坊の腕にうっすらとナイフを滑らせた。
 「やめて!!」
 途端にエレナと名づけられた赤ん坊は大泣きし始めたが、その皮膚は滑らかなまま、傷跡ひとつ残らなかった。
 「そんな・・・!」
 アリスはエレナを抱き上げて後ずさった。
 「この子をどうする気!?」
 「アリス」
 「この子はもう私の子よ!私の子をどうするつもり!?」
 アリスの目には今や狂気が宿っていた。
 「“五番目の王女はすべて海に還すべし”・・・」
 ジェフは呟いた。
 「海へ還すって・・・またこの子を海に棄てるつもり!?」
 「いや、違う」
 ジェフは考え込むように座り込んだ。
 『王家と共に国は栄え、王家と共に国は没する』
 『その者を最も愛したる者の剣によってのみ救われる・・・』
 ジェフの頭の中を、古文書の言葉がいくつもよぎる。
 「・・・その子には、限りなく重い使命が課せられている」
 この子供の生死で、国の存亡が決まる・・・。
 今この子供を殺したら?
 この国は少なくとも拷問のような圧制から逃れられるかもしれない。
 しかし、どう没するのかが分からない。
 民全てが死んでしまっては本末転倒だ。
 『五番目の王女はすべて海に・・・』
 わからない。意味が、わからない。
 「せめて」
 アリスが声を上げた。
 「せめてこの子が成人するまで、育てさせて」
 懇願するように、アリスは訴えた。
 ジェフには何も言うことができなかった。

 ジェフは一旦、小屋へ戻った。
 そして、古文書を開いた。
 『その者を最も愛したる者の剣によってのみ救われる』・・・。
 民衆の国への不満が高まった今、王政を終わらせたいと願う人間はどれほどいるのだろう。
 王家を憎しみによって殺してしまえば、この国は滅亡する。
 平和に全てを終わらせたくば、王家の人間――最後の世継ぎが、自分を最も愛した者に殺してくれと頼み、その者がその手で世継ぎを殺めなければならない。
 あの子供が言葉を覚えるのはそう遠くないだろう。
 そのときに、意味も分からぬままアリスに向かって「自分を殺してくれ」と言わせろと?
 そもそもそんな残酷な運命になってしまったのは、初代の王家が――。
 ジェフは眉根を寄せたまま、祖父の言葉を思い出していた。
 
 “その目でこの国の歴史を追い、この国を守る為自分に何ができるか、一生その責めを負うのだ”

 こんな形で歴史の節目に遭遇しようとは、ジェフ自身想像だにしていなかった。
 『五番目の王女はすべて・・・』
 これも意味が分からない。
 五番目の王女は何かを海に還さなければならない。
 ――何かって何だ?
 ジェフは古文書の最後の章を開いた。
 この章だけが読み解けない。
 全てはこの章に隠されている気がした。
 
 全ての始まりの地へ戻ろう――。

 ジェフは決心した。
 何かあるとは思えないが、何もしないよりましだ。
 王女のことは、一旦アールとアリスに預けるほかないだろう。
 もう一度王都へ連れ戻しなどすれば、そのまま王女は首をはねられるだろう。
 あの王女だけはなんとしても生かしておかなければならない。
 
 ジェフは旅支度をして、アールとアリスの元を訪れた。
 「俺は少し、旅に出る」
 「どこへ?」
 アリスが言った。
 「オプタリエの外だ」
 「オプタリエの――!?危険すぎるだろう!!あんたは自分の首にいくら掛かってるか知ってるだろう!あそこは夜盗や盗賊の巣窟だ」
 「わかってる。だがどうしても行かなきゃならない。・・・王女のことだが」
 ジェフがその名を口にすると、アリスはごくりとつばを飲んだ。
 「任せていいか?結論が出るまで、何としても生きていてもらわなければならない」
 「結論て、何の結論だ?」
 「・・・王家の世継ぎは代々、残酷すぎる運命を背負って生まれてくる」
 「残酷すぎる運命・・・?どんな運命だ・・・?」
 「・・・言えない。だが俺はその子供にそんな運命から逃がしてやりたいと思ってる」
 「いいえ、教えてちょうだい」
 「知らないほうがいい。アリス」
 ジェフは断言した。
 「エレナが王女だということは、絶対に内密にしてくれ――」
 ガタンッ。
 部屋のすぐそばで、物音がした。
 アールが急いで扉を開けると、木のおもちゃを持ったルーカスと、チャドが立っていた。
 「聞いたのか?」
 ジェフが立ち上がった。
 「エレナが・・・王女・・・?」
 安らかに眠っている赤ん坊を凝視して、ルーカスが呟くように言った。
 アリスは反射的にエレナを抱き上げた。
 「ルーク、落ち着いて」
 ルーカスの頭の中をいつかのジェフの言葉が駆け巡った。

 “王家を滅ぼせば国も滅亡する”

 ――この子供を殺せば、この国の王政も終わるんじゃないのか・・・?
 ルーカスの手が震え、自作のおもちゃが床に転がった。

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