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五番目の王女 1

2013.03.14 (Thu)
 馬を乗り継ぎ、ジェフは王都に着いた。
 夜間、聖堂に忍び込むと、見張りの騎士たちに少し眠ってもらった。
 月明かりを頼りに史書を取り出し、その中を読んでみた。
 この歴史書にだけは、王家の間で起こったことの真実のすべてを絶対に書き記すことになっているはずだ。
 そこに記されていたのは、王妃ディーウィティアの死と、そして――。

 ジェフが出て行って一ヶ月が経った頃、アリスは薬に使う海草を採りに海辺へ出てきた。
 かつてから憧れていた海が、アリスは今でもたまらなく好きだった。
 そのとき、どこかから赤ん坊の声が聞こえてきた。
 ――こんな寒い日に赤ちゃんを連れてこんなところへ出歩いたら風邪を引いてしまうわ。
 アリスはそんなことを思いながら岩場へと足を踏み入れた。
 そして、愕然とした。
 赤ん坊の声は、小さな棺の中から聞こえてきていたのだ。
 「何てこと――!!」
 アリスは洋服が濡れるのもかまわずに、ざぶざぶと海に入り、棺を取り上げた。
 「どういうこと――!?」
 必死で棺をこじ開けると、生まれたばかりの赤ん坊が盛んに泣き声を上げていた。
 一体いつからここにいるのだろう。
 桐の棺に入れられていたおかげで濡れてはいない。
 しかし、どの道早く手当てをしなければ死んでしまう――。
 アリスは採取した海草も何もかも放り出し、すぐに馬に飛び乗り、アールの元へと急いだ。

 「アールっ!!」
 アリスはガタンッと施療院の扉を開けた。
 「どうしたんだ?」
 アールは立ち上がり、そしてアリスの腕の中で泣いている赤ん坊を見た。
 「その子は?」
 すぐに手当ての用意をしながらアールが尋ねた。
 「わからない。海辺に棄てられていたの。棺に入れられて」
 「棺に?」
 「お願い、アール、この子、助かるかしら?」
 アリスは必死にアールに縋った。
 「・・・大丈夫だ。どこも怪我もしていないし、体温も正常だ。奇跡だ――」
 「よかった・・・」
 「アリス、君も着替えておいで。風邪を引いてしまう」
 「アール、お願い、この子、見ていてね」
 「ああ、大丈夫だよ」
 アリスが二階へ上がっていくと、ちょうどルーカスが修理し終えた棚を持って入ってきた。
 「赤ん坊?」
 「ああ。棄てられていたらしい」
 「人のすることじゃねえな・・・」
 やがてガタガタと音を立てながら、アリスが戻ってきた。
 「あら、ルーク、調子は、どう?」
 息を切らしながら、アリスはルーカスに挨拶した。
 「俺は大丈夫だがお前がどうしたんだ、そんなにあわてて」
 「この子、棄てられていたの。海辺で見つけたのよ」
 アリスはすぐに母乳の代わりになる薬を調合し始めた。
 この国は薬学医術が発展しており、その中でもアリスは指折りの薬師だった。
 「さあ、できたわ」
 まだ熱い薬を人肌に冷ましながら、アリスは赤ん坊の元へやって来た。
 赤ん坊を腕に抱き、何とか薬を飲ませようとするアリスの姿は、まさに母親のそれであった。
 「アリス、その子をどうするつもりだい?」
 アールが微笑みながら尋ねた。
 「え・・・っと・・・私・・・」
 そのとき、赤ん坊がこくんと一口、薬を飲んだ。
 「やったわ!!この子飲んでくれたわ!!」
 アリスは子供のようにはしゃぎ、それを見ていたアールとルーカスまで笑顔になった。
 「いい子ね・・・よしよし・・・」
 「アリス」
 アールが声をかけた。
 アリスは不安そうにアールを見た。
 「その子に行く場所がないなら、ここを家にしてあげたらどうだろう」
 「本当に!?」
 アリスは過去に子供を堕胎させられて以来、子供を産めない体になっていたのだ。
 「アール、私・・・!!」
 アリスは顔中の笑顔で喜んだ。
 「同席した縁だ。ルークにその子の名付け親になってもらうのはどうだろう」
 アールが提案した。
 「ええ!もちろんいいわ!!」
 「おいおい、そんな急に・・・」
 ルーカスも嬉しそうに笑っていた。
 「女の子か?」
 「ええ、そうよ」
 そしてやがて、ルーカスは赤ん坊の額に手を当てて、
 「エレナだ」
 と呟くように名をつけた。
 「エレナ・・・いい名前ね」
 
 このときは誰も知らなかった。
 この赤ん坊が世界を動かす力を持って生まれた、五番目の王女だと。

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