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言の葉の一族 2

2013.03.11 (Mon)
 「若き国王は、王権を奪われることを恐れ、紋章官一族への信頼も忘れ、一族を殲滅するよう勅命を出した。古文書には呪いのかけ方など一つも書かれていない。書いてあれば俺が今王家を呪ってるところだ。あるとすれば、あの紅玉の力くらいだ。紋章官一族には寝耳に水の話だったが、獣のように狩立てられ、半数以上が殺され、残りの半数はオプタリエの外へ逃げ込んだ」
 アリスが痛ましそうに口元を押さえた。
 「オプタリエの外へ・・・?」
 「そうだ。だから俺もあそこで育った。以来、紋章官一族へかけられた嫌疑は消えることなく、今でも逆賊として捕らえるよう、または殺すように勅命が出ている。・・・俺はそれで殺されかけた。俺を殺そうとしたのは、コルニクスの補佐官三人だった。その三人を殺し、俺は追われる身になった。お前たちも、下手な動きをすれば、俺の一族と同じ運命を辿ることになる。だからやめておけ」
 しんと静まり返った教会の中、ジェフだけが息をついていた。
 「あんた、それ、俺たちに話しちゃまずいんじゃないのか」
 「ああ。まずいな」
 ジェフは苦笑した。
 「だがあんたたちを止められるなら、俺の首くらい安いもんだ」
 「・・・それでも俺は納得いかねえ」
 「ルーカス」
 ジェフはなだめるように言った。
 「フリーギダのことも、今回の税のことも何もかも忘れろってのか?どうすることもできねえのか?」
 ルーカスの声には憎しみそのものが宿っていた。
 「だいたい、今の話が本当かどうかもわからねえ。のらくら昔話なんかして、お前も実は政府から放たれた犬なんじゃねえのか?」
 「ルーク、今のジェフの話を聞いただろう」
 アールが割って入った。
 「それに昼間の手配書はどうだ?ジェフが本物のお尋ね者だという証だろう」
 「アール、あんたは」
 ルークはアールに詰め寄った。
 「フリーギダの子供たちの姿を忘れたのか?俺たちが奇病に見舞われたとき、国は何かしてくれたのか?」
 「いいや、忘れはしない。だがここでジェフを疑うのは愚かだ。カルロスも同じことを言っていた。ジェフ、すまない、彼との約束を破る」
 アールは一言ジェフに詫びてから話を続けた。
 「カルロスが旅立つとき、彼も同じ文献の話をして行った。次の予兆があるからと、不思議な話をして行った。そして古い言葉で書かれた書物を私に預けて行った。これを俺の息子に渡してくれと言って。親子揃ってそんなほらを吹くためにこんなところまでやってくると思うか?」
 「それでも俺は連中が憎い!!」
 ルーカスが叫んだ。
 「俺もだ」
 「俺も」
 他の何人かの人間も立ち上がった。
 「さっきも言ったはずだ。お前たちはあまりに非力だ」
 「やってみなきゃわかんねえだろ!!」
 「ならまず俺を殺してみろ。全員で掛かってきたっていい」
 「ジェフやめて!」
 アリスが声を上げた。
 しかし、ルーカスと他の数名は、手にしていたナイフや短刀で、一斉に丸腰のジェフに掛かっていった。
 一瞬だった。
 ジェフは斬りつけられるナイフをかわすこともなく、全員を一気になぎ倒した。
 「わかったか」
 ジェフはルーカスに言った。
 「これが王族の力だ。俺より強い奴などいくらでもいる。丸腰の俺にすら勝てないようなら、命の無駄だ」
 「この野郎!!てめえも王族なんじゃねえかよ!!」
 ルーカスは再びジェフに切りかかっていったが、ジェフは手を下さず、ただ避けるだけだった。
 「王族のもう一つの特徴は」
 ジェフは避けながらルーカスに言った。
 「異様なまでの自然治癒能力だ」
 ザクッ!!
 ジェフはルーカスの振り下ろした短刀の前に腕を出した。
 血がボタボタと床に流れ始めたかと思うと、次の瞬間にはその出血もおさまっていた。
 「どうだ。お前は確かに俺の腕を切ったはずだろう」
 ジェフは袖を捲くり、ルーカスに見せてやった。
 血で汚れてはいるものの、そこには傷跡らしいものは少しも見当たらなかった。
 「こんな人間にお前がどうやって勝てる!命を無駄にするな!!」
 ジェフが大声を出した。
 その凄みは圧倒的で、その場を支配した。
 「それでも俺は死んでもかまわない!!」
 「お前がよくても他の者たちはどうなる!?遺された子供たちは!?年老いた親を抱えた者たちだっているだろう!!」
 「もうやめて!!」
 アリスが二人の間に割って入った。
 「こんなことして何の意味があるの?ジェフ、あなたもあなたよ!どうして――」
 「どけアリス!!」
 ルーカスはアリスを押しのけた。
 「お前はこいつらが憎くないのか!?こいつらだけこんな恩寵を授かって、俺たちはべたべたと地べたで暮らしてるんだ!」
 「ルーカス」
 狂気じみたルーカスの声に、アールが冷静な声を出した。
 「お前、薬を飲むのをやめたな?」
 「だったらどうした!!薬なんかで憎しみが抑えられるとでも思ってるのか!!アリスだって分かってるはずだ!!薬なんて役に立たないときがあると――お前たちだって王族に子供を」
 バシッ!!
 アリスがあらん限りの力を込めてルーカスの頬を打ったのだ。
 「そうよ!薬で抑えられないものもあるわ!!だけど私たちの子がいなくなってしまったのはジェフのせいじゃない!!彼がただ王族の生まれだからと言って、それだけでジェフまで憎まなければならないの!?あなたが一日中物も食べずに人を殺すことだけ考えてるなんて、そんなのフィオナとルーサーが喜ぶとでも思ってるの!?」
 「アリス、もういい」
 アールがアリスの肩をぎゅっと抱いた。
 アリスはボロボロと涙を流し、ルーカスを睨んでいた。
 ルーカスは我に返ったような表情で、自分が今何を言おうとしたかを知った。
 「すまない・・・」
 「とにかく」
 ジェフが息をつきながら皆に言った。
 「馬鹿な真似はやめてくれ。どう考えても無謀すぎる」
 俺の一族と同じ道を辿るな、と、ジェフは言った。
 そのとき、ドサッと音がして、ジェフはそちらを振り向いた。
 ルーカスが倒れていた。
 「大丈夫だ」
 アールがすぐにやってきて、彼の脈を取りながら言った。
 「このところ、こいつはずっと食べ物を口にしていなかった。あんたと同じだ」
 「なぜそんなことに?」
 「ルーカスにはフィオナという妻がいた。フリーギダから嫁いできた娘だった。飢饉があってから、フィオナは実家を手伝う為に里帰りしていたんだが・・・、あそこで命を落とした。弟のルーサーも死んだ。それ以来、精神的に非常に不安定になった・・・。こいつは人一倍、王族を憎んでる」
 「いい機会だから入院させましょう」
 アリスが涙を拭いながら言った。
 「まともに食べるようになるまで帰さないんだから」
 「食事療法の相方ってこいつか」
 若干びくつきながらジェフが尋ねた。
 「すまないがこの近所の誰か、荷車を貸してもらえないか。ルークを運ぶ」
 アールがルーカスに外套をかけてやりながら声をかけた。
 「いや、俺が運ぼう」
 ジェフが進み出た。
 「体力使わせたのも、興奮させたのも俺だ」
 「だが、結構距離あるぞ」
 大丈夫か?と、アールはジェフを見上げた。
 「今見てただろ」
 力だけはある、と、ジェフはルーカスを肩に担ぎ上げた。

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