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剣戟

2014.12.04 (Thu)
 「細いな」
 先日作っておいたロングナイフと対になるようにしつらえた剣を見て、アーヴィンが言った。
 「この間入った館に、宝剣があっただろ?俺もああいうのが作ってみたくなったんだ」
 「実戦向きじゃねえな」
 「さすがに銀やら宝石やらは俺じゃ手に入らないけど、綺麗だろ?飾り物くらいにはなる」
 ウィルは鍛え上げたばかりの剣を満足そうに見やった。
 それから工房の軒先に、ナイフと共に飾り置いた。
 ウィルの鍛えたナイフと剣は、まるで主人を待つかのように、何年もの間ひっそりと軒先に飾られていた。
 
 そして数年が経った、ある日だった。
 曇り空の下、ウィルがいつものように鍛冶仕事に勤しんでいると、女が一人、店の軒先に立った。
 女は軒先のロングナイフを売ってくれるように言った。
 「あんたみたいなお嬢さんに、こんなものが必要?」
 ウィルは怪訝な顔をして、手を拭きながら女の前に立った。
 女は何も言わずに銀貨の入った袋を手渡した。
 ウィルは中身を改めると、女に向き直った。
 「俺、ウィル。ここの職人だ」
 「エレナよ」
 女が初めてウィルを正面から見据えた。
 その青い瞳を見た瞬間、ウィルは何か抑えがたい衝動に駆られた。
 どこかで似たような感覚を感じたことがある。
 しかしどこだか思い出せない。
 エレナと名乗った女は、そんなウィルに気付かず、同じく軒先に飾られている細身の剣を指差した。
 「あの細身の剣、またお金持ってくるから売らないでとっておいて」
 ウィルは不意に現実に引き戻され、再び怪訝な顔をした。
 「おいおい。ナイフや剣は、持ってるだけじゃ意味がないんだぜ?」
 「私には使いこなせないと?」
 美しい顔立ちとは似つかわしくない、背筋も凍るような声に、ウィルも一瞬たじろいだ。
 しかし、すぐに気を取り直してエレナに向き合った。
 「・・・いいぜ。あんたがそこまで言うんなら、お手並み拝見といこうじゃないか。俺だって女と手合わせするのなんか初めてだ」
 ウィルはエレナに剣を渡し、広場に出た。
 「おい、ウィル、ここでも一番の凄腕のあんたが、そんな小娘相手に手合わせかよ」
 どこかから楽しげなやじが飛んでくる。
 「うるせえ!こいつのの身のためだ!剣を持つってことがどういうことか教えてやらねえと!!さあ、どこからでもいいぜ」
 しかしエレナは剣を構えるというより持ったまま、微動だにしなかった。
 剣を持つこと自体が初めてなのだろう。
 ウィルは推測した。
 しかし、彼女から放たれる凄まじい殺気に、ウィルは一瞬飲み込まれそうになった。
 「そっちが来ないんなら、こっちから行くぜ」
 ヒュッ!
 エレナはその一太刀をひらりとかわした。
 「なっ」
 ――俺の太刀をかわした・・・!?
 カン!キン!!キン!!
 先ほどまでただ剣を持って立っているだけの姿が嘘のように、まるでこれまで何年も剣術の稽古を積んできた者のように、エレナは信じられないほど巧みな剣捌きを見せていた。
 何より、流れるようなエレナのその俊敏さに、ウィルはついていけない――。
 キンッと音がして、ウィルの剣は遠くへ弾き飛ばされ、ヤジが飛んでいた広間は静まり返った。
 エレナは静かに、ウィルの首筋に剣先を当てていた。
 「は・・・はは・・・」
 仲間内でも最も強いウィルが、女に負けた――。
 「これでもまだ、私がこの剣を手にするのに理由が必要?」
 その場を威圧する、威厳に満ちた声。
 「お手上げだ」
 ウィルは両手を挙げて見せた。
 「その剣は、あんたの元にありたいようだ。だからあんたにやるよ。だが条件がある」
 「条件?」
 「うちの盗賊団に入ること。それが条件だ」
 「なっ」
 突然の誘いに驚いたのか、エレナはたじろいだ。
 「うちは、騎士団や王族専門の盗賊だ。平民の村は襲わねえ。あんたの力が入れば、うちはますます強くなる」
 しばらくの後、エレナは思案から覚めたようにウィルを見上げた。
 「・・・いいわ。分け前はきっちりもらえるんでしょうね?」
 「ああ。皆平等に」
 交渉成立だな、と、ウィルが手を差し伸べた。
 エレナが彼の手を取ったと同時に、ウィルはその手を思い切り引っ張り、エレナを自分の腕の中に閉じ込めた。
 「ついでに俺の女にしてやってもいいんだぜ?」
 エレナは目にもとまらぬ速さで剣を構えなおした。
 「今の話、なかったことにするわよ」
 「わかった悪かったよ」
 ウィルは慌てて後ずさった。
 「でもいつか、絶対口説き落として見せる」
 ウィルが特定の女にこれほど執着したのも、これが初めてだった。

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