鍛冶職人と盗賊

2014.12.04 (Thu)
 サルトゥスで見かけた少女のことは、いつの間にかウィルの記憶からすっかり消えてしまった。
 それよりも王族や貴族への恨みが常に彼の心を占めた。
 十二歳になったウィルは、先輩の鍛冶職人、アーヴィンから剣術を教えてもらうようになった。
 いつか復讐してやる――。
 そんな思いが、ウィルに剣を持つ決意をさせた。
 もともと剣術にかけて才覚のあったウィルは、十五歳を迎える頃には師であるアーヴィンを超えるようになっていた。

 十八歳になり成人する頃には、端正な顔立ちが映え始め、街の女たちが彼を放っておかなくなった。 
 ウィルも悪い気はせず、来るものは拒まず、多くの女性と関係を結んだ。
 「いいよなあ、ウィルは」
 アーヴィンがぼやき声を上げた。
 「娼館になんて行かなくたって、女が勝手に寄って来るんだもんな」
 鍛冶職人としても剣士としても腕が立ち、女たちからの人気は増すばかりだった。
 ウィルも年齢と共に調子に乗るようになり、時には人妻にすら手を出すようになった。
 それでもウィルの心は満たされず、常に何かを、誰かを探していた。

 二十歳になる頃、ウィルは盗賊の一団への誘いを受けた。
 「盗賊?」
 「そう。農民の村は襲わない。狙うのは貴族や王族の館だけだ。俺たちは今仲間を探してる。お前の剣は誰もが認める腕だ。入らないか?」
 アーヴィンに誘われ、ウィルの心に深く入り込んでいた復讐心が顔を出した。
 「・・・殺すのか?」
 「殺すのは自分か仲間の命が危ないときだけだ。目的は殺しじゃねえ」
 ウィルは思案した。
 復讐はしたい。
 家族全員の命を奪った王族や貴族に。
 しかし、同じことをして奴らと同じところまで身を落とすと思うと、虫唾が走る思いだった。
 「わかった」
 ウィルは了承した。
 「お前が入るとなりゃ、カシラも喜ぶぜ」
 アーヴィンは嬉しそうに伸びをした。
 「カシラは誰なんだ?」
 「ジェイクだ。隣村の。知ってるだろ?」
 「うっ」と、ウィルは言葉に詰まった。
 「何だよ」
 「俺、あいつの妹に手出したことがある」
 「バカか黙ってろ!!」

 ウィルの盗賊団の仕事は、最初は慎重だったものの、貴族や王族の館の衛兵に戦闘能力がほとんどないことがわかると、次第に大胆になっていった。
 それでも、今のところ身内では一人の死傷者も出さずに済んでいた。
 襲われる方の衛兵はたまったものではないが。
 殺したことはないが、ひどい打ち身をお見舞いすることは多々あった。
 強奪した金品を金に換え、ウィルたちは次第に余裕ある生活を送り始めた。
 
 ある夜忍び入った館で、ウィルは壁に飾られている宝剣を目にした。
 柄には銀細工が施してあり、サファイアが嵌め込まれていた。
 それを見たウィルは、自分もああいった剣を鍛えたいと思った。

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