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火種 2

2013.03.10 (Sun)
 アールとアリスの施療院まで来ると、ちょうど薬草畑の世話をしていたアリスが顔を上げた。
 「あらチャド、ジェフ。どうしたの?怪我でもした?」
 「聞いてくれよアリス!」
 チャドは勝手に柵を越え、薬草畑の奥方に事の次第を話して聞かせた。
 「ジェフが何だって?」
 昼食を取りにアールも往診から戻ってきた。
 「ほらこれ!」
 チャドはまたも勝手にジェフの懐に手を突っ込み、先程の干し肉の欠片を取り出して見せた。
 ジェフはされるがままに、やれやれとそっぽを向いた。
 「この人、こんなものばっかりで生きてるんだって!何とか言ってやってよ!!」
 チャドは息巻いた。
 「・・・ジェフ、あなた生きてる?」
 アリスは不思議そうに尋ねた。
 「一応な」
 「あなた、ここへ来てから痩せたんじゃないの?そうでしょう?」
 「さあな。自分の容姿に興味はない」
 「だからそのカルロスチックな発言やめろって!物悲しくなるだろ!!」
 遺伝だろ、とジェフは肩をすくめた。
 「とにかくあなた、他に何か食べた方が良いわ。ちょうどお昼だし、上がっていって?チャドも」
 「そうだ、ジェフ。私もあんたに訊きたいことがある」
 ちょうどいい、と、アールも頷いた。
 ジェフは食事に招かれてばかりで申し訳ないと思うまもなく、アリスの細い腕のどこにそんな力があるのかというほどの力で引きずられていった。
 柔らかな言葉よりもかなり怒っているらしい。
 やたらと引きずられる日だ・・・。
 ジェフはあれよあれよいうまにアールとアリスの家に引きずり込まれた。

 「だいたいね、人間は三食きちんと食べて成り立つものなのよ!こんな干し肉の欠片を一日一つだなんて!!」
 食事の後、ジェフはチャドの希望通り、アリスにみっちりと説教されていた。
 それを眺めるチャドはどこか清々しそうな顔をしていた。
 ジェフは王族の人間だ。
 一般の人間とは身体のつくりそのものが違う。
 たしかに、干し肉の欠片だけでは少なすぎるが、かといってそれが原因で死んだりはしない。
 と言ってやりたいがそうもいかない。
 「あのな、アリス。さっきチャドにも言ったが、俺はオプタリエの外で育った」
 「オプタリエの・・・?」
 アリスとアールの目が丸くなった。
 「そうだ。だからひもじさにも様々な危険にも慣れてる」
 「でも、今は違うわ。もっと自分を大切にしないといつか――」
 「その辺にしておけ、アリス」
 アールが苦笑混じりに仲裁に入った。
 「私もジェフと話がしたい」
 「何だ?」
 ジェフはようやく説教の嵐から解放されてホッとしてアールを見た。
 「あんたの手配書を見た。すごい額だった。何をしたんだ?」
 今度はそれか。
 秘密を守る為にこれほど苦労したことはない。
 父親がなぜ村人と関わろうとしなかったのか、ようやく理解できた。
 「・・・悪いが、言えない」
 「なぜ」
 「あんたたちはもうすでに危険な状態にある。村人たちは俺を知らないと言ったそうだな?それだけで、俺に肩入れしたことになる。俺と同罪とみなされたら死刑だ」
 その場がしんと静まり返った。
 「だから、何をしたんだ」
 「俺は今夜にもここを出なければならない。長く居すぎた」
 「何だって!?」
 「俺と関わってもろくなことにならない」
 「待て」
 アールが真剣な声で言った。
 「罪人に肩入れするものは同罪と見なす――それくらい、みんな知ってるはずだ。みんなあんたの罪を一緒に被ろうとしてる」
 「だから、それがまずいんだ」
 「村人の思いを無駄にするのか?ルークでさえあんたを知らないと言ったんだ」
 「ルーカスが・・・?」
 「あんたが何をしたにせよ、みんなあんたの味方だ。それに私との約束を忘れたか?」
 「ここでそれを持ち出すのは卑怯だろう・・・」
 「何と言われようと、あんたはここにいるのが一番に私には思える」
 「話したくないことを無理に訊くのはよくないわ」
 アリスが割って入った。
 「とにかくジェフ、あなたがまともに生活できない事情があるなら、毎日ここへ一人分の豆や野菜を持ってきてちょうだい。うちで助けてあげるわ」
 「そんなわけには――」
 「もう一人、その方向で話を進めてる奴がいる。気が合うかどうか分からんが、食事のときだけだ――」
 「おいアール!!」
 そこへ、外から切羽詰ったような大声がした。
 アールが窓から顔を出すと、メルロスが慌てたようにやってくるところだった。
 「どうした?」
 「村の連中が騒いでる。鎮めてくれないか」
 「わかった」
 「あんたは医者じゃないのか?」
 ジェフは不思議に思った。
 酒場での騒ぎを鎮めたのもアールだった。
 「色々な医者さ」
 アールは医療者の紋章、ヘビの紋章が入った濃紺のローブを纏いながら苦笑した。
 アールが出て行った後、アリスが真剣な声でジェフに言った。
 「いいわね?ジェフ。しばらくでかまわないから。少し生活を立て直さないと」
 「・・・ありがとう」

 その晩のことだった。
 ジェフが寝支度をしていると、どんどんと扉がノックされた。
 ジェフは無意識のうちに剣を抜き、裏口からそっと抜け出た。
 そして表口の様子を窺うと――。
 「ルーカス」
 ルーカスが、ローブのフードを目深に被り、佇んでいた。
 ジェフは剣を鞘に収めた。
 「あんた、騎士団にいたんだろう?」
 唐突な問に、ジェフは戸惑ったが、「ああ」と頷いた。
 「反乱を起こしたい」
 小さな火種に火が灯った瞬間だった。

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