火種 1

2013.03.10 (Sun)
 ジェフがサルトゥスに住んで三ヶ月が経とうとする頃だった。
 ある朝、チャドがジェフの元に血相を変えてやって来た。
 「ジェフ!」
 「ようチャド。いい朝だな」
 「うん、おはよう・・・って挨拶してる場合じゃなくて!!」
 チャドは元々大げさな身振り手振りをさらに大きくしながら騒ぎまわった。
 「騎士団が来てる!あんたお尋ね者なんだろう!?隠れないと!」
 「団が?そうか、助かった、チャド。帰ってくれ」
 「えっ、もう!?」
 「俺を隠す為に来たんだろう?隠れるから早く――」
 ジェフは言葉を切った。
 馬の蹄の音がかすかに聞こえる。
 「チャド、こっちだ」
 ジェフは小屋の中に入り、天井の板を開けた。
 自分はそのままそこへ入り、チャドに縄梯子を下ろしてやった。
 チャドは慌ててそれを上り、ジェフの横に身を伏せた。
 「ジェフすごいな。あんな高さの隙間に飛び上がれるなんて」
 「それほどでもない」
 そうは言っても、一般人には難しいことだ。
 ジェフは天井の板を張りなおしながら答えた。
 「ところであんた、何でお尋ね者になったんだい?何か悪いむぐっ――!!」
 「うるさい、黙ってろ、連中が来る」
 すぐそばで蹄の音が止まった。
 ジェフは「黙ってろよ」と小声で言って、チャドの口から手を離し、天井の割れ目から下を覗いた。
 すぐにどんどんとノックの音がした。
 「誰かいるか!」
 さらにノックの音。
 「開けるぞ!!」
 騎士団の人間は三人いた。ドアを蹴破って入ってくると、ジェフの小屋の中を歩いて回った。
 火の気のない暖炉、埃の積もった床に机。
 「人のいる気配はないな」
 「無駄足だったか」
 「行くぞ」
 三人は馬に跨り、もと来た道を戻って行った。
 「やっぱり、俺を探しに来てたのか」
 ジェフは大して驚くこともなく、納得したように呟いた。
 「あの騎士団の人たちが、ジェフの人相書きと懸賞金を書いたビラを配っていったんだよ。だけど、この村の人は誰もあんたを知らないって答えたよ」
 蹄の音が遠くなってから、二人は天井裏から降りてきた。
 「そうか、まずいな」
 「まずいって、なにがまずいのさ」
 チャドは不思議そうに尋ねた。
 「俺は一級犯罪者になってるはずだ。肩入れするものは同罪とみなされる」
 「同罪って・・・」
 「死刑だ」
 「死・・・」
 チャドは言葉を失った。
 「何であんた、そんな落ち着いてるんだ?びっくりとかしないのか?」
 「慣れてる」
 子どもの頃から。
 それからふと気付いたように、チャドはジェフの小屋を見回した。
 「ところで、あんたの小屋、ほんとに人気がないな。鍋とか火とか寝床とか、どうしてるんだ?」
 「ああ、煮炊きなら外でしてるし、寝る場所は今の屋根裏だ」
 「あんた飯食ってるのか!?」
 「食ってるさ。ほら」
 ジェフは懐から干し肉のかけらを取り出して見せた。
 「それだけ?」
 「いまのところ」
 するとチャドは急に血相を変えた。
 「あんたアリス行きだ!みっちり説教されろ!!」
 「何で俺がアリスに説教されなきゃならないんだ?何をチクるつもりだ」
 「あんたがまともに飯を食べてないってこと!よくわかんないけどアリスは栄養学?っていうのにとっても詳しいんだ!あんたの食生活知ったらアリス悲しみのあまり気を失うぜ!?」
 「じゃあ黙ってりゃいいじゃないか。俺が何を食って生き延びてようと関係ない」
 「ほら出た!カルロスチックな発言!!親子そろって何でもかんでも関係ないで済ますなよ!」
 「あのな、俺はオプタリエの外で育った。何でもありの場所だった。早々簡単にへこたれやしない」
 「そういう問題じゃないって!とにかく今日、急だけどアリスのところへ行こう!」

 昼頃までチャドは暖簾に腕押しの説教を続けたが、どうも効力がないと判断したようだった。
 そこで、引きずってでもジェフをアリスのところへ連れて行く決心をした。
 というわけで今、ジェフはチャドに引きずられるようにアリスの元へ向かわされていた。
 「何だろう?」
 村の中心の教会に人だかりができており、掲示物が貼ってあった。
 「あんたの手配書と・・・すごい額だな」
 チャドは何か言いたそうな目でジェフを見上げた。
 「何だ、俺を売ろうってのか」
 「うん・・・ちょっと思っただけ」
 「いい度胸だ」
 「それと、その隣は何だろう?ジェフ、字、読めるよね?」
 「・・・税率上昇の知らせだ」
 「これ以上!?もうたくさんだよ!!」
 「農民は現在の2割増し、三等商人は1.5分増し・・・」
 「もう我慢できないぜ」
 一人の男が、ジェフの隣で息巻いた。
 「あの連中、巻き上げるだけで何も帰って来やしねえ・・・!」
 ジェフには耳の痛い話だった。
 「おれ・・・どうしよう・・・このままだと生活できなくなるかも・・・」
 チャドがしゅんとしょげてしまった。
 「とりあえず、今はアリスのところへ行くんだろ?」
 ジェフなりに気を使って、チャドの思考を方向転換させた。
 「ああっ、そうだ、アリスにみっちり叱ってもらわないと!」
 チャドはすぐに顔を上げ、ジェフの腕をつかんで彼を連行して行った。

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