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Ivy-8

2013.02.27 (Wed)
アールは何も考えずに、アリスの後を追って飛び込んだ。
 死んでもいい。彼女をつかまえたい。
 その思いだけだった。 
 
 二人が助かったのは奇跡だった。
 アールは海中でアリスを捕まえると、海面へと浮かび上がった。
 アリスは顔に金髪を散らして意識を失っていた。
 近くの岸壁に身を寄せると、アールは必死に呼びかけた。
 「アリス!アリス!!」
 しばらく呼び続けると、ようやく、アリスはうっすらと目を開けた。
 「・・・アール・・・?」
 「アリス・・・!アリス・・・!!」
 アールは力の限りにアリスを抱き締めた。
 「私・・・死んだんじゃ・・・」
 「死なせるわけないだろう」
 「アール・・・私・・・」
 アリスの声が涙声にになった。
 「アール・・・ごめんなさい・・・!あなたの子を・・・!私・・・私・・・!!」
 「僕に責任がある・・・。本当にごめんよアリス。苦しかったろう・・・辛かったろう」
 「赤ちゃんが・・・私たちの赤ちゃんが・・・!!」
 「守れなくてごめんよ・・・」
 アリスは泣きじゃくり、アールは謝り続けた。
 「違うわ・・・私、あなたに嘘を吐いたわ・・・。私が貴族だとわかっていれば・・・」
 「もういい。僕は君が貴族だろうと王族だろうと君を愛して君を奪っただろう。もう自分を責めるのはやめてくれ」
 「アール・・・私、死にたい・・・」
 アールにしがみつき、振り絞るような声。
 「だめだ。僕を置いていかないでくれ。どうしてもと言うなら、もう一度崖に上って、一緒に飛び降りよう」
 アールは優しくアリスの髪を梳きながら微笑んだ。
 「だめよそんなの・・・」
 アリスは辛そうに笑った。
 「じゃあだめだ。僕にいい考えがある。・・・結婚しよう」
 しかし、アリスは首を横に振った。
 「だめ・・・できない・・・」
 「どうして?」
 「私・・・もう赤ちゃんを産めない体になってしまったの・・・」
 「かまわない。僕はアリスさえそばにいてくれればそれでいい」
 アールはもう一度、アリスをぎゅっと抱き締めた。
 「結婚しよう、アリス」
 「私でいいの・・・?」
 「君じゃなきゃダメなんだよ」
 アリスはようやく一筋の光を見つけたような瞳で微笑んだ。
 アールはとめどなく流れるアリスの涙を拭い、その唇に口付けた。
 「アール・・・愛してるわ・・・」
 アリスはようやく闇から抜け出て、心からの幸せを感じ始めた。

 それから二人は、アリスの体力が回復するのを待って、旅に出かけた。
 サルトゥスという村には、施療院がないと聞き、二人で開業することにしたのだ。
 旅に出る前の晩、アリスは家の二階にある、弟の部屋に小石を投げた。
 「姉さん!」
 音に気付いた弟が窓から顔を覗かせ、押し殺した声で驚きの声を上げた。
 「待ってて、今行くから!!」
 弟も姉と同じように、二階の窓から飛び降りてきて、アリスを抱き締めた。
 「姉さん」
 「リクニス」
 「姉さん、身体は大丈夫なの?」
 「ええ、もう大丈夫よ。私には最高のお医者様がついててくれるから」
 アリスは一緒に来ていたアールを振り返った。
 「じゃあ、この人が――?」
 リクニスの表情が一瞬こわばったのを見て、アリスは静かに言った。
 「そうよ。でも私たちは深く愛し合っているわ。だから彼が悪いとか、そんなこと思わないで。私は今、とても幸せなんだから」
 「どうして?あんなことがあったのに」
 「ええ、確かに辛いわ。でもそれを一緒に乗り越えてくれる人がいるから、私は幸せなのよ。今は分からなくても、いつかあなたにも分かるときがくるわ」
 「・・・でも、父さんたちもいつか報いを受ける日がくると思うよ。昔から姉さんに酷いことばかりして・・・」
 「もう済んだことよ」
 アリスは優しく弟の髪を撫でた。
 「これからどうするの?」
 「彼と一緒に旅に出るわ。どこかで開業するつもりよ」
 「そうか・・・。寂しくなるよ」
 「リクニス」
 アリスはリクニスの頬を包み込み、額と額をこつんと合わせて言った。
 「はなれていても、私はいつもあなたの味方よ。あなたと一緒に育って、私は幸せだったわ」
 貴族としての意識が高いアリスの家では、躾もひどく厳しくされてきた。
 リクニスは父親から叱られたときなど、いつもアリスのところへ行き、優しく慰められていたのだ。
 「僕も幸せだったよ」
 それからリクニスは顔を上げて、アールを見た。
 「姉さんを頼みます」
 「ああ。命の限り、彼女を守るよ」
 そして、姉弟は別れ、別々の道を歩き始めた。

 二人は半月ほどかけて、サルトゥスの村に足を踏み入れた。
 この村には、本当に医者がいなかった。
 街道からも外れているので、薬商もほとんど通らず、女性にして薬師であるアリスは人々の尊敬の念を集めた。
 二人はいたく歓迎され、村人たちと、隣のフリーギダという村の住人たちが二人の結婚式も執り行ってくれた。
 アールはアリスに花冠をかぶせ、再びここに誓った。
 「命の限り、君を守り抜く」
 アリスもそれに応えて誓った。
 「命の限り、あなたのそばを離れません」
 ここに二人は固い絆で結ばれ、苦楽を共にし、やがて大きな運命に巻き込まれることになる。

 それはまた、別のお話――。
   アイビーの花言葉―――死んでも離れない。
(完)

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