スポンサーサイト

--.--.-- (--)
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

The Beginning 7

2014.02.16 (Sun)
「この村に入ったらだめだ!」
村の入り口で、カルロスは村の男に足を止められた。
「疫病が蔓延してる」
「もうか?」
カルロスは口元をぼろきれで覆いながら尋ねた。
「もう?」
男は怪訝な顔をした。
「あんたは感染していないならここを離れた方がいい」
それだけ言い残すと、カルロスは村の医者の元へと向かった。
途中、焼け焦げた家を何件も目にした。
感染者や死体を家ごと焼いたのだろう。
通りに人通りは全くなく、閑散としていた。
「医者はいるか」
施療院まで来ると、カルロスは呼びかけた。
やがてふらりと現れたのは、まだ若い男だった。
名をレイと言った。
「・・・生きてる人間がいたのか」
レイは初めて人間を見るような眼で言った。
「疫病の状態は?」
「誰だ?」
「カルロスという。この村で疫病が流行っていると聞いてやってきた」
半分嘘だ。
すべては文献に記されていたことだ。
来るのが遅くなったことをカルロスは悔いた。
「村の半分の人間が死んだ。残りの半分も感染してる」
「死体は?」
「家ごと焼いてる」
「状況を見れる死体はないのか」
「何するつもりだ?」
「いいから教えてくれ」
「見れば後悔するぞ」
「承知の上だ」
レイはカルロスを一軒の家に案内した。
そこには、顔中を腫れあがらせた死体が横たわっていた。
「ある日高熱を出して倒れたかと思うとそのまま息を引き取り、死後、なぜか顔が腫れあがる」

『最北の大地に道化の面が被せられる』

古文書の一文だ。
これを道化の面と呼ぶなら酷いことだ。
「ブレウェだ」
カルロスが呟くように言った。
「何だって?」
「ブレウェという名の病だ。発症してから死に至るまでの期間が短いだろう?」
「どうして知ってるんだ」
「今はどうでもいいことだ。薬草を探すぞ」
カルロスとレイは家を出ながら話した。
「薬草って、治るのか?」
「治るはずだ」
「どんな薬草だ?」
「サリクストという草はあるか?」
「ないよ。初めて聞いた」
「探すぞ。柳の葉に似てる」

サリクストの葉は、その日の夕方に見つかった。
しかし、カルロスの体に異変が起こった。
「これを・・・すり潰して・・・飲ませろ」
カルロスが感染してしまったのだ。
朦朧とする意識の中、カルロスはレイに言った。
「カルロス、ひどい熱だ。あんたまで――」
遠くでレイの声が聞こえる。
しかし、カルロスはジェフとクレスト、デーナ、そしてエリーナの幻影を見ていた。
四人とも幸せに笑っていた。
ああ・・・、俺は果報者だ・・・。
「俺は、俺のことは、いい・・・。早く村人に・・・」
それだけ言うと、カルロスは意識を失った。
レイは摘んできたサリクストの葉を急いで薬研に放り込み、細かくすりつぶし、水で薄めて村中を回った。
すると、今にも死にそうなほどの高熱を出していた村人たちはたちまち目を覚まし、死の淵から生還した。
レイはカルロスにも飲ませなければと、施療院に戻ったが、必要な薬水の半分の量しか残っていなかった。
それでも、最後の一滴までカルロスに飲ませたが、彼は目を覚まさなかった。
「カルロス!カルロス!!」
幾度名を呼ぼうと、カルロスが目を開くことは二度となかった。

その後、村人たちは薬が間に合わずに死んでしまった者たちを皆火葬し、荼毘に付した。
その中にはカルロスも含まれた。
それからというもの、オソからは人の姿が消え、疫病の知らせを受けた国が村を閉鎖しにやってきた。
その中に、ジェフがいた。
ジェフは生き残った村の医者であるレイに詰め寄った。
ジェフにもオソで流行るであろう疫病の予兆は見えていたのだ。
「ここに男が来なかったか。カルロスという男だ」
「・・・ああ、来たよ。俺たちを救ってくれた」
それを聞いたジェフはほっと胸をなでおろしたが、それもつかの間だった。
「今はどこにいる?」
「・・・死んだよ」
「何?」
「感染してしまったんだ・・・あれに。だけど、彼の遺体は自然な姿のままだった。なぜかはわからないけれど」
ジェフは何か重いもので頭を殴られたような気分になった。
カルロスが、死んだ。
父親が・・・。
王族は病気にかからないわけではない。
しかし常人より体力ははるかに優れているため、抵抗力も強い。
それが、なぜ・・・。
まだ50歳になったばかりではなかったか。
あまりにも早すぎる父親の死に、ジェフは茫然と立ち尽くした。
「あんた、カルロスを知ってるのか?カルロスとどういう関係だ?」
「・・・ただの知り合いだ」
精いっぱいの嘘だった。
カルロスが紋章官一族しか知らない方法でこの村を救ったのなら、自分がその息子だと告げるのはあまりに危険すぎた。
「カルロスはどうしてあの疫病のことを知っていたんだろう」
もはやレイの言葉はジェフの耳に入らなかった。

オソの村を閉鎖し、王都へ帰ったジェフの様子がおかしいことに、クレストは気がついた。
「長官?どうかされたのですか」
「いや」
静かな怒りを湛えたその瞳に、クレストは一瞬たじろいだ。
「お疲れでしょうから、よく休んでください」
「ああ、すまない」
ジェフはその場を後にした。
残されたクレストはその背をじっと見つめていた。
なぜだろう、ジェフを見ていると何となく父親を思い出すのは。
あまり記憶にも残っていないその横顔が、クレストの胸を騒がせた。


カルロスの生涯はこうして幕を閉じた。
エリーナを深く愛したカルロスだったが、デーナのことも決して愛さなかったわけではない。
デーナは死ぬまでカルロスの面影を他の男に求め続けたという。
二人の息子たちは複雑に絡んだ運命の糸に捕えられ、やがて互いの素性を知ることになる。




The Beginning


前へ       あとがきへ

本編はこちら
赤の紋章タイトルバナー


にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村
スポンサーサイト

トラックバックURL
http://rainy0dusk.blog.fc2.com/tb.php/321-75ae8669
トラックバック
コメント
管理者にだけ表示を許可する
 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。