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塩の谷 2

2013.03.06 (Wed)
 ジェフは後ろ手で静かに扉を閉めた。
 彼らが自分に反感を抱き、憎悪するのも仕方がない。
 農民が生活にすら苦しんでいる間、都では毎日のように宴が開かれ、酒も食べ物も浴びるように消費されているのだ。
 その現状を、彼一人ではどうすることもできなかった。
 今夜にもここを出よう。それから先は、しばらくふらふらするしかない。
 と、これからのことを考えながら歩き出そうとしたとき、すごい勢いで酒場の扉が開いた。
 ジェフが驚いて振り向く間もなく、誰かががっしりと彼の腕をつかんでまた酒場の中に引っ張り込んだ。
 「何だ――」
 「いいのかそれで」
 アールが厳しい顔をして酒場の中の村人に問い掛けた。
 ジェフを引き戻したのも彼らしい。
 「何なんだ――?」
 ジェフは唖然としたようにアールを見たが、アールの方はジェフには言葉を返さずに話を続けた。
 「さっきも言ったが、彼は私たちの恩人の息子だ。この中にも、自分自身がカルロスに助けてもっらた者や、家族が助けられた者もいるだろう」
 アールが酒場の中を見渡すと、何人かが気まずそうに目を背けた。
 「私の妻もカルロスに助けられた。カルロスがいなければこの村は崩壊していただろう。その恩人の息子を村から追い出して、いいのか?」
 「俺が自分で出て行くといったんだから、追い出したことにもならないだろう」
 ジェフが口を挟んだが、アールはそれを無視して続けた。
 「最近の夜盗や盗賊の話もみんな聞いているだろう。もし、彼が、家を失って放浪しているうちに、そういう連中に殺されてしまっても、なんとも思わないのか?――私は嫌だが」
 夜盗や盗賊ごときに殺されるほどヤワではない――。ジェフは思わず突っ込みたくなったが、また流されるのだろうと察して黙っていた。
 「俺も、嫌だ・・・と思う」
 チャドが隅から、ルーカスを見ないように見ないようにと目を逸らしながら声を上げた。
 「だって、ジェフは、ここに来てから何も悪いことはしていない・・・よ?」
 恐る恐る、チャドはルーカスの顔色を横目で覗き込んだが、思い切り睨まれて慌てて目を逸らした。
 「これで二票だ――ジェフを追放するべきではないと思っているのは私だけではないようだ。ジェフがここに住むのに反対する者は、今ここで意見を言え」
 アールがきっぱりと言った。
 「おい――」
 ジェフが思わず口を挟んだ。
 「あんたも、ここに住みたいのか住みたくないのかどっちなんだ」
 口髭を生やした恰幅のいい男がジェフに尋ねた。
 「どっちって――」
 「あんたがここにいたいと思うならいればいい。ここは俺たちの土地じゃないんだ。誰も誰かに許可をもらって住んでるわけじゃない」
 口髭の男はみんなに「だろう?」というように肩をすくめて見せた。
 「ありがとうメルロス」
 アールがその男に礼を述べ、ルーカスに向き直った。
 「いいな、ルーク」
 ルーカスはしばらく何も言わずに座っていたが、やがて立ち上がって店を出て行った。ジェフの横を通るときにすごい顔で睨みつけて行ったが。
 「よし、いいぞ」
 アールがほっとしたようにジェフに言った。
 「え?」
 「あれはあいつのOKサインだ」
 「おい!あんたカルロスの息子だって!?知らなかったぜ、一緒に飲まねえかい!」
 アールの言葉にかぶせるように、陽気な声が響いて、酒場の中はまた騒がしくなった。
 いままでの険悪な雰囲気はどこへ行ったのか。
 「基本、こんな感じだ、ここは。誰しもそうだろうが、ここの人間はもめごとを嫌う。陽気な連中が多い」
 アールが賑やかな店内を見渡して、穏やかに言った。
 「ルークがみんなにとって特別なんだ。ルークはああだが、ここいる者は、誰もあんたを追い出したいとは思っていない」
 「村人全員がここにいるわけじゃないだろう」
 ジェフが渋い顔をすると、アールもくつくつと笑い返した。
 「言っただろう、ここの連中はそんなに冷たい人間じゃない」

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