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The Beginning 5

2014.02.15 (Sat)
さらに何年かが過ぎた。
二人の息子たちはどうしているか、無事に育っているどうか、カルロスは片時も忘れはしなかった。
しかし王族の豪遊が激しさを増すと同時に、国中で災害が相次ぎ、彼も多忙を極めた。
二人の息子のことは気がかりであったが、彼は自分に課せられた使命を果たすことだけに専念した。

あるとき、カルロスは旅の道中で騎士団の本隊と出くわした。
おたずね者であるわけでもないが、殲滅の命が下されている一族の身としては避けたい集団だった。
ひっそりと姿を消そうとしたそのとき、信じられない声が聞こえた。
「レヴィナス!ジェフリー・レヴィナス!!」
振り向くと、若い騎士が、隊長のもとへと向かうところだった。
レヴィナスとは、カルロスの母親の旧姓だ。
カルロスは、いわば偶然に、エリーナとの息子を目にした。
数年前に行き会ったガルシアの話では、ジェフも紋章官一族として生きる選択をしたとのことだった。
それがまさか、騎士団に志願しているとは――。
もし、正体がばれれば殺される。
それを承知で騎士団に身を置いているのだろう。
ジェフの表情は硬いまま、周りと一線を引いているようにも見えた。

カルロスはジェフに話しかけることもなく、野宿の準備をしていた。
あいつはきっと、いつか追われる身になるだろう。
そんな予感があった。
そのとき、自分がしてやれることは――。
弟のことも告げていない。
兄弟で、この国の運命をたどっていけたら・・・。
一人で背負うより、はるかに心強い。
カルロスは何も書かれていない羊皮紙の本を取り出すと、日記をつけ始めた。

一方、置き去りにされたデーナは、毎日泣き明かして暮らした。
酒に浸り、クレストの面倒も見なくなった。
そして、旅籠に男を連れ込んでは、カルロスの面影を探すように、狂ったように男を求めた。
やがて一人の男がデーナのもとに入り浸るようになり、男は邪魔もののクレストを毎日殴り、蹴り飛ばし、さんざん痛めつけ続けた。
クレストは容姿がデーナと似ていたため、デーナは置き去りにされた自分とクレストが重なり合って見え、余計にクレストに触れようとしなかった。
そんな中でも、クレストは心身共に健全に育ったが、12歳でようやく紋章官一族として生きることを決め、家を飛び出した。
そのあとは、方々を旅してまわり、様々な下働きをして食い扶ちを稼ぎ、騎士団への志願が許可される15歳までを過ごした。
15歳の秋、クレストはベルス西部の騎士団の分隊に配属された。
そこで剣術を学び、優れた頭脳を持ってして頭角を現し、10年後、本部に異動になった。
西部から旅をして、王都にある騎士団本部に入隊した当日、クレストは信じられないものを見た。
先輩騎士が、長官に対し、物怖じすることなく激しい口調で何かの問題について議会への審議を申し立てていたのだ。
「もうよい、レヴィナス」
低く冷たい声がしたと思ったら、クレストは慌てて頭を下げるように言われた。
コルニクス執政官だった。
「西部からの新入りを見てやれ。それがお前の仕事だ」
レヴィナスと呼ばれた騎士は、息を切らしてコルニクスを睨みつけていた。
その横顔に、クレストは何か懐かしいものを覚えた。
しかし、レヴィナスがつかつかと自分の方へやってくると、畏怖の念の方が強く現れ、慌てて頭を下げた。
「着いて早々こんなで悪いな。ジェフリーだ」
先輩騎士は、クレストに手を差し出した。
「クレストといいます。よろしくお願いします」
お互いが異母兄弟であるとも知らず、二人は固く握手して挨拶を交わした。
「俺が、しばらくお前の剣術の稽古をつけてやる。西部と本部では差があると聞くからな。どちらが上か楽しみにしている」
「いえ、自分はそんなに強い方では――」
「謙遜するな。噂は聞いてる。西部では主力部隊の一人だったんだろう?うちでも頑張ってもらうぞ」
「は、はい!」
ジェフの人を包み込むような人柄に、クレストは畏怖の念を抱くとともに尊敬の念も覚えた。

ある冷え込みの厳しい冬、カルロスはサルトゥスの村にいた。
次の災害が予言されているのはこの村だった。
犠牲者が出るまで待つのは辛いことだが、今はそれしか手立てがなかった。
ある日、サルトゥスからほんの少し北へ出た時だった。
「おい」
数歩離れたところで、カルロスは男に声をかけられた。
振り向くと、そこに立っていたのは、数年前に見かけた自分の息子だった。
しばらく、お互いに何も言わず立ち尽くしていた。
「その様子だと、あんたが親父だな?」
ジェフが先に口を開いた。
あまり人好きのする風貌ではない容姿が、二人ともよく似ていた。
「ジェフか?」
「そうだ」
「・・・そんなに若いのにそこまで苦労を背負いこむなよ」
ジェフの眉間のしわを見て、カルロスは気の毒そうな声を出した。
「誰のせいだと思ってるんだ!!」
ジェフは思わず怒鳴り声を上げた。
しかし、表情は緩み、ほんの少し笑顔も見せた。
「立ち話も難だ、こっちだ」
カルロスは先に立ってサルトゥスの村に入り、森の奥の小屋に息子を誘った。
「ここは?」
「うちの一族に残された隠れ家の一つだ」
暖炉に火を入れながら、カルロスは答えた。
「どうやって俺を見つけた?」
「起こるはずの災害が事前に食い止められた場所をたどって行った。次はここだろう」
ジェフはガタつく椅子を勧められ、それに腰かけながら言った。
「よくわかったな」
「お陰さまでな」
ジェフは懐から古文書を取り出して、軽く振って見せた。
「騎士団にいるんだが――」
「知ってる」
「知って――?」
ジェフが目を見開くと、カルロスはおかしそうに笑った。
「数年前だ。偶然見かけた」
「どこで?」
「さあ、どこだったかな。移動中だったから村の名前まで覚えていない。だが、お前の名前とレヴィナスの姓を呼ぶ声が聞こえて、立ち止った。・・・俺に似て気の毒だな」
「声をかければよかったのに」
「お前な、旅の道中の見知らぬ人間に声なんかかけられたらどうするつもりだ?」
ん?と言われて、ジェフはああそうかと納得した。
「俺たちは、できるだけ分散している方がいい。生き残る確率も高い」
生き残る――。
この国が終焉を迎えるまで、決して途絶えさせてはならない血。
生き残ることも、紋章官一族にとっては大切な使命だった。
「今は長官になった。何とかして国王をどうにかしようとしてる」
「長官・・・よっぽど腕が立つんだな」
カルロスは頼もしげに息子を眺めた。
「ガルシアのおかげだ。ガルシアが出て行った後、何度夜盗やらに襲われたか分からない」
そのたびに、ジェフは剣を揮ってきた。
夜盗に――。
カルロスの脳裏に、エリーナが殺された夜のことが思い出される。
「あんたのせいじゃない」
ジェフが、静かに言った。
「おふくろがが殺されたのは、あんたのせいじゃない。少なくとも俺は、あんたのせいだなんて思っていない」
その言葉が、長年カルロスを縛りつけていた呪縛から解き放ってくれたかのように、彼の心の何かが融けて行くのを感じた。
しかし、エリーナとジェフから目を離した自分のことは、いまだに許せなかった。
「俺の後輩に、クレストという若い騎士がいるんだが」
ジェフが無理に話題を変えようとして言った。
しかしその言葉に、カルロスは言葉を失った。

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