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The Beginning 4

2014.02.12 (Wed)
あれから8年が経った。
カルロスは度重なる死線を潜り抜け、また自らの贖罪でもあるかのように、民の命を救い続けた。
ウィンザという街で休息をとっている時、カルロスは重苦しい夢を見た。
目が覚めた時、はっきりと覚えていたわけではないが、自分のよく知る誰かが血を流して倒れる夢だった。
それが誰なのか、カルロスにはまだわからなかった。
そのとき、泊っていた旅籠の扉を誰かがノックした。
「誰だ」
「デーナです。朝食のご用意ができました」
若い女性の声がした。
旅籠の娘だった。
「わざわざすまないな」
カルロスは扉を開け、礼を述べた。
「いえ」
デーナは頬を染め、カルロスを見つめた。
デーナは朝食の乗った盆を手に、部屋に入ってきた。
「今日はどうなさるご予定で?」
「もう一日、ここで過ごす」
わずか数日ほど前、カルロスは誰も知らぬうちにこの村を襲おうとしていた盗賊たちと剣を交えた。
一人で十人ほどを相手にしただろうか。
そこをたまたま通りかかったのがデーナだった。
返り血を浴びたカルロスの姿が強烈に彼女の中に焼き付いた。
デーナは剣を握ったカルロスに恋慕の情を覚えていた。
「まだ何か?」
部屋を出て行こうとしないデーナに、カルロスは問いかけた。
「いえ・・・。あの、おたずねしてもいいですか?」
「何だ」
「どうしてあそこに盗賊がいるとご存じだったんですか?あんな道、村人でも知らないのに」

『風の通り道の民に死神が訪れる』

古文書の一文だ。
実は西ウィンザか東ウィンザか、カルロスにもわからなかった。
一か八かで西ウィンザを選び、馬車の痕などから先日の道を見出したのだ。
デーナは木の実を摘みに通りがかったと言っていた。
しかしカルロスは何とも言いようがなかった。
伝承のことに触れたくはなかった。
「俺も、たまたま通りがかっただけだ」
不自然に続いた沈黙ののち、デーナがゆっくりとカルロスに近づいて行った。
「何を隠しているの?そんなに疲れた顔をして・・・」
優しく囁かれ、カルロスはふいにエリーナの姿を思い出した。
デーナはカルロスをじっと見つめたまま、背伸びをしてカルロスに口づけた。
瞬間、カルロスの中で何かが弾けた。
今まで鬱積していたものを拭い去るように、デーナを抱いた。
デーナも喜んで彼を受け入れた。
「私のそばにいて・・・」
彼女の囁きに、狂気が宿っていることなど、カルロスには知る由もなかった。

カルロスはデーナに引きとめられ、ウィンザに滞在した。
まだ災害の予兆もなかった。
久しく満ち足りて、カルロスはデーナを愛した。
またデーナも、毎日のようにカルロスに愛を囁いた。
しかし、デーナにはいつかカルロスが去っていくのではないかという不安に付きまとわれた。
夜毎カルロスのもとを訪れては、自分に繋ぎとめるようにその身体を彼に捧げた。
そして、デーナはやがてカルロスの第二子を身籠ることとなった。

カルロスはその事実を告げられた時、驚くほど冷静だった。
あの重苦しい夢を見て以来、なぜかジェフには兄弟が必要だと思うようになっていた。
カルロスはデーナに言った。
「俺には妻がいた。エリーナという娘だった。だが俺が目を離した隙に、夜盗に殺されてしまった。・・・お前を死なせはしない。デーナ」
デーナはカルロスが既婚者であったことに驚きを隠せなかったが、今は自分に思いを向けてくれていることを喜んだ。
しばしの間、二人だけの幸福な時間が過ぎ、デーナも不安に駆られることはなくなっていった。
ジェフと同じく秋に生まれたのは、デーナとよく似た男の子だった。
ベルスの慣習に従って、デーナはその子にクレストと名付けた。
一方、カルロスは紋章官一族として、クレストにアクウィラス、力強き翼という名を与えた。
そしてクレストが言葉を覚え始めると同時に、一族に伝わる様々な暗号遊びをしながら古代語を教えた。

クレストが七つになるころ、デーナが不思議に思ってカルロスに尋ねた。
「いつもクレストと何を話しているの?外国語?」
カルロスは、デーナに自分が紋章官一族の末裔であることをまだ話していなかったのだ。
紋章官一族の背負う暗い運命に彼女を巻き込むことを恐れ、話さずにいたのだ。
しかし、もはや隠しておくわけにもいかないだろう。
カルロスは自分の出生を話して聞かせた。
デーナは衝撃を受け、いつか自分を襲っていた不安が的中したことを知った。
彼は、そう遠くないうちに自分を置いてどこかへ行ってしまうのだろう。
「嫌!!嫌よ!!」
半狂乱になって、デーナはカルロスに縋りついた。
「お願い!どこへも行かないと言って!!私のそばにいて!!」
「デーナ、俺は――」
「お願い!!行かないで!!」

以来、デーナはカルロスから片時も離れることはなかった。
故に、クレストに七つの選択をさせる機会を見つけることができなかったが、デーナの母が病気で倒れたとの知らせを聞いて、ほんの一時、彼女がカルロスのもとを離れたことがあった。
「クレスト、よく聞け」
その機に乗じて、カルロスはクレストに話した。
「お前は、紋章官一族――ウェルバの末裔だ」
「紋章官?」
幼いクレストはきょとんとして父の言葉を聞いた。
紋章官一族の歴史、殲滅の命――、すべてを話して聞かせた。
「お前は今日、ここで、選ばなければならない。常人として生きるか、俺のように言の葉の一族の末裔として生きるか」
しかし、クレストは決断することができなかった。
七つという幼さと、安全で幸せな家庭が、彼の中に紋章官一族の血に火をつけることができなかったのだ。
「これは、古文書の写しだ」
カルロスはジェフのもとを去る時に持ち出したそれを、クレストに渡した。
「お前がいつか、紋章官一族として生きることを決めた時、これを解読しろ。何年かかってもかまわない」
ずっしりと重たい古文書を受け取りながら、クレストは泣きそうな顔をしていた。
「父さん、どこかへ行くの?」
「・・・いい子でいるんだぞ」
カルロスは、答える代りに微笑んで息子の頭を撫でた。
しかし、カルロスには、クレストが自分と同じ道を歩むだろうという確信があった。
何がそうさせたのかは彼にもわからない。
カルロスは最後に言った。
「務めを果たせ」

その晩、カルロスはデーナとクレストを残し、ウィンザを後にした。

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本編はこちら
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