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The Beginning 3

2014.02.11 (Tue)
現在――。
「次の一件が片付いたら、俺と来てくれないか」
エリーナは言葉を失った。
「そばにいてほしい。エリーナ」
「カルロス・・・」
エリーナは感極まって、両手で顔を覆った。
そんな彼女を、カルロスはそっと抱きしめた。

その半年後、エリーナは家に書き置きを置いて、カルロスとともに旅に出た。
ある町の外れにある、ウェルバ一族の隠れ家の一つが二人の新居だった。
そこで二人は幾度も愛し合い、やがて新しい命を授かった。
エリーナが身ごもっている間は、カルロスはどこへも旅に出ず、常に彼女とともに在った。
季節が夏から秋に移り変わった頃生まれたのは、元気な男の子だった。
「紋章官一族には名前が二つ必要だ。通り名をエリーナ、付けてやってくれないか」
「・・・ジェフ。ジェフリーよ。古代語の名前は?」
「・・・アライアス」
「意味は?」
「鷲の眼光だ」
死と隣り合わせに生きてきたカルロスの知らない幸せに包まれた、温かな日々だった。

しかし、そんな日々にも終わりが来ようとしていた。
ある夜、カルロスが買い物をして家のドアを開けた直後に飛び込んできた光景は、全身から血を流して倒れているエリーナの姿と、泣き叫んでいるジェフの姿だった。
「エリーナ!」
純粋な王族ではないエリーナは、傷の治りも常人より少し早い程度だ。
剣で斬り付けられた傷が幾筋も見えた。
「どうした!?何があったんだ――」
「夜・・・盗・・・後・・・ろ・・・」
エリーナが弱々しい声で言った時には遅かった。
重い一太刀がカルロスに浴びせられた。
しかし、カルロスは常人ではない。
すぐに剣を抜き、夜盗を斬り殺した。
「エリーナ」
カルロスはエリーナを抱き上げた。
傷が深く、一向に癒える気配がない。
「ジェフ・・・は・・・」
「無事だ。すまない・・・俺がついていなかったから――」
「カル・・・ロス・・・」
エリーナはカルロスの目を見つめたまま微笑み、冷たくなっていった。
「エリーナ・・・エリーナ!!」
カルロスはエリーナを抱きしめたまま、叫び声のような声を上げて泣いた。
生まれて初めて味わう喪失感だった。
この先もエリーナととジェフと三人で、貧しいながらも幸せな家庭を守って行くつもりだった。
ほんの数分自分が出かけたせいで、カルロスの中のすべてが失われたようだった。

数週間後。
エリーナを葬ったカルロスがジェフを連れて向かった先は、自分の父、ステファノスの元だった。
妻を喪ったカルロスからは若さが失せ、喪失の悲しみが色濃く残った。
オプタリエを抜け、さびれた町へと足を踏み入れた。
「親父」
小屋のような貧しい家の扉を開けると、カルロスは安楽椅子に腰かけた父親に声をかけた。
「帰ったか・・・」
そこまで言って、ステファノスの目に飛び込んできたのは、カルロスに抱かれて眠っている幼子の姿だった。
「俺の子だ」
「エリーナの子か?」
「そうだ」
何度か父の元へも顔を出していたカルロスは、エリーナのことを話して聞かせていたのだ。
しかし、彼女が一緒ではないこと、何より息子の変わりように、ステファノスは悟った。
「エリーナは、幸せにできたか」
「・・・俺のせいだ」
カルロスは扉を閉めながら、涙を噛み殺した。
「俺がほんの少し家を開けた間に、夜盗に殺された」
俺が連れ出しりしなければ、俺と一緒にさえならなければ、エリーナは今も生きていた。
カルロスの声にならない言葉を読み取ったように、ステファノスは重苦しい沈黙を破った。
「その子を守るのが、お前の役目じゃろう」
「ああ」
カルロスは、眠っているジェフをそっと寝椅子の上に横たえた。
「名はジェフだ。ジェフリー。二歳になる」
エリーナがつけた大切な名。
「古代語ではアライアスと名付けた。親父、ジェフを、頼む」
ステファノスは驚きもせず、静かに言った。
「では行くのじゃな」
「ああ。・・・ここへは戻らない」
カルロスは、ジェフの頭を優しくなでた。
もう、失いたくない。
ずっと、迷っていた。
紋章官一族の末裔として生きる覚悟はとうに済ませていた。
しかし、自分の使命を果たすのに幼子を連れて歩くわけにはいかない。
どんなに我が子に恨まれようと、憎まれようと、安全な父の元へ預けることに決めた。
このオプタリエの外の無法地帯が安全かと言われれば、そうとも言い切れないが、何よりステファノスの剣の腕がある。
老いてなお、カルロスは彼から一本を取ることができなかった。
「古文書はどうするつもりじゃ」
「中身は写しを取った。親父に返す。この子が七つになる時に、俺と同じ選択をしたら、渡してやってくれ」
カルロスは懐から黒い革表紙の古文書を取り出し、父に渡した。
「ここへはときどきガルシアに報告に来てもらう。俺は・・・」
ジェフと会えば、エリーナのことを思い出し、また、愛息と別れ難くなるだろう。
何より、母親を死なせてしまった自分には、ジェフに会わせる顔がなかった。
カルロスは言葉を切り、外套を羽織り直した。
「ジェフを頼んだ」
それだけを言い残すと、すべてを振り切るように、振り返ることなく、夜闇へと消えて行った。

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本編はこちら
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