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The Beginning 1

2014.02.09 (Sun)

月夜の晩、貴族の館が並ぶ界隈をひっそりと歩く若い男がいた。
名をカルロス。またはラクテウスと呼ぶものもいる。
一つの館の窓の下に来ると、カルロスは二階のある窓に向かって小石を投げた。
「カルロス」
やがて嬉しそうに顔を出したのは、彼よりほんの少し年上の女性だった。
「エリーナ」
エリーナと呼ばれた女性は、すぐに姿を消し、裏口の戸から姿を見せ、カルロスに抱きついた。
カルロスは彼女に口づけ、幸せそうにエリーナを抱きしめた。

二人は街の外れの教会にやってきた。
ここなら誰もいない。紋章官一族の末裔であるカルロスも人目につかない。
「あれから怪我は、していない?」
エリーナが心配そうに尋ねた。
「ああ、大丈夫だ」
少し前、ガルシアと剣術の稽古をしている時、うっかり腕をもがれそうになったことがあったのだ。
とはいえ、カルロスも王族の人間。
怪我などすぐに治ってしまうが、彼より王族の血の薄いエリーナにとって、怪我というものはやはり怖いものであった。
「また、出かけるの?」
エリーナが心配そうに言った。
「・・・ああ。だが、今回はここで少しゆっくりできる」
「本当?」
エリーナは嬉しそうな声を上げた。
カルロスはガルシアとともに、この国の災害の予兆を読み取り、方々をめぐっていたのだ。
そしてその途中に出会ったのが、このエリーナという女性だ。

一年前。
カルロスがエリーナの家の付近に走った地割れを調べている時だった。
「何を、なさっているんです?」
夜半、若い女性が、不審げな声を上げた。
「別に。この地割れを見ているだけですよ」
カルロスはそっけなく答えた。
たったそれだけの会話が、二人の出会いだった。
「こんな時間にご婦人が一人でうろつかれるのはよくない。家までお送りしましょう」
「いえ、お気遣いなく。家出してきたものですから」
「家・・・」
つんと澄ました声に、カルロスは言葉を失った。
「最近は夜盗が多い。悪いことは言わない。早く帰るんだ」
「嫌です。もうあの家とは縁を切りたいんです」
カルロスは厄介なものに捕まったものだと内心ため息をついた。
「名は?」
「エリーナ」
「エリーナ、帰った方がいい。危険だ」
「あなたこそ、何をしているの?こんな時間に」
エリーナはつかつかとカルロスのそばにやってきて、同じように地割れを覗き込んだ。
「だから、見ているだけだ」
「見てどうするの?こんなもの」
カルロスはため息をついた。
「どうしようと、あなたには関係ない」
カルロスが立ち上がったその時、運命のいたずらか、古代語の書かれたメモの欠片がエリーナのすぐそばに落ちた。
「何、これ・・・」
「見るな!!」
カルロスはハッとして叫んだが、遅かった。
乱雑に使い慣れた風に書かれた古代文字が、エリーナの目に飛び込んできた。
文献の資料の中でしか見たことのない、古代文字。
扱えるものは、聖堂の聖職者か、あるいは、逆賊として殲滅の命が下されている、とある一族――。
カルロスが聖職者ではないだろうことは一目瞭然だった。
カルロスはエリーナの手からメモをひったくった。
「あなた・・・」
「お嬢様だ!いたぞ!」
エリーナが何か言いかける前に、通りの向こうから声がした。
エリーナはハッとしたように、カルロスに言った。
「お願い、私を匿って」
「何?」
「言ったでしょう、私はあの家には帰りたくないの!!」
「バカを言うな。どこへ連れて行けというんだ」
「どこでもいい!人に見つからないところへ!!」
しかし、エリーナを追ってきた執事たちに追い付かれてしまった。
「お嬢様、帰りますぞ!」
「嫌!放して!!」
「さて、あなたはお嬢様をどうなさったのですかな。もしお嬢様に何か危害でも加えようとしていたのなら――」
一人の執事がカルロスに向き直った。
「おい、俺はただの通りすがりに彼女と会っただけだ」
「その人に何かしたら私が許さないわよ!」
エリーナは両脇から腕を抑えつけられていたが、眼光鋭くカルロスに向き合っている執事に怒鳴った。
執事は肩を竦め、
「それでは」
と、もと来た道をエリーナとともに歩きだした。
馬車に乗せられたエリーナは、素早くカルロスのメモに書き置きを残した。
そして、馬車の窓からカルロスに向かってメモを放ったと同時に、馬車は走り去ってしまった。
カルロスは残されたメモを拾い上げた。

“リアトリス通り53番地”

カルロスは、おかしな女もいるものだと苦笑して、メモを懐にしまった。

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