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塩の谷 1

2013.03.05 (Tue)
 皆殺しってどういうことだ?
 国が飢餓に喘ぐ民を見棄てたこと、それにも皆殺しという言葉が当てはまるだろう。
 だがルーカスの声は、そういったことを言っているのではないようだった。
 そもそも地方の市民が、国庫に食糧があるということも知らないだろう。
 「ヘタクソな芝居すんじゃねえぞ、ふざけるな!!フリーギダの農民を見棄てた挙句に、お前たち国が、あの谷に貴族の獣を放したんだろう!!獣にやるような餌がないからな!!」
 ジェフは愕然とした。
 岩塩の産地として栄えたあの一帯の民が、飢餓の苦しみにさらされた挙句、獣に食い殺されたと?
 それを、国が?
 そんな事実は、少なくとも彼が城塞内にいた頃にはなかった。
 ――いや・・・、俺が知らなかっただけなのか?
 「俺たちはな、フリーギダの連中と何十年も何百年も交流してきた!!俺たちからは作物を、フリーギダからは塩を分け合った!!あの飢饉の時だって俺たちは必死であそこへ食糧を運んでいた!!お前たちは何をした!?」
 ルーカスの声は、一言ごとに大きくなっていた。
 「あの谷にいた子供たちがどんな姿だったのか、お前たちは目にしたのか!?」
 何ということだ――。
 ジェフはあまりの衝撃に、しばらく言葉を失ってしまっていた。
 もし彼が言っていることが真実なら、恐ろしいことだ。
 夜な夜な貴族の館へ忍び込む夜盗の仕業などとは比べ物にならない。
 ジェフは我を取り戻すと、ようやく口を開いた。
 「・・・すまない」
 「謝って済むことか!何百という人が死んだんだ!!」
 「本当に、すまない・・・。今初めて聞いた話だ」
 ジェフの思いもかけない言葉に、店中の視線がジェフに突き刺さった。
 この嘘吐きの責任逃れの国の犬め――。
 彼らの視線がそう物語っていた。
 「嘘をつけ!」
 怒りのあまり、ルーカスはついにジェフを殴りつけた。
 「ルーク、ちょっと――」
 チャドが心配そうに、しかし恐ろしそうな声を上げた。
 しかしそれでも治まらず、ジェフの胸倉を掴んでそのまま壁に叩き付けた。
 ジェフは何の抵抗もせず、ただルーカスを見据えた。
 「それは――、獣が放されたのはいつのことだ?」
 「いつのこと?もう一月も前だ!!」
 一月――。
 ちょうどジェフが城を追われ、都を離れた頃のことだ。
 「俺はその頃にはもう、城塞にはいなかった」
 「また嘘をつくのか!」
 「本当だ。一月前、俺は騎士団から追われ、当然都からも追い出された。馬で城を出たが、途中で徒歩に変えた。徒歩でここまで一ヶ月で着くのは無理だ」
 ルーカスは、自分より背の高い男を相手に、物怖じすることもなくジェフを睨み続けていた。
 「・・・だが、そんな悪魔のような仕業を止めることができなかったのは、本当に申し訳ない」
 ここでお前たちに殺されても仕方がない、と、ジェフは静かに告げた。
 「そうか、殺してもいいんだな」
 ルーカスは目だけが笑っていない、ゾッとするような笑顔になって、手近にあったナイフを掴んだ。
 「ルーク、よせ!」
 店の戸口の近くに立っていた金髪の男が大声を出した。
 「アール・・・」
 チャドが驚いて言った。
 「フリーギダのことは、その男一人が計画したことでも実行したことでもないはずだ。しかも本人は知らなかったそうじゃないか・・・」
 アールと呼ばれた男は外套の散らかったテーブルを避けながら、ルーカスの近くまでやって来た。
 「聞けば、そいつはカルロスの息子なんだろう?俺達の恩人の息子だ」
 「何の恩人だ・・・」
 昼間、チャドもそんなことを言っていたが、どういう意味だったのだろうとジェフは思った。
 「そうだ。あんたの父親は数年前、私たちが見たことも聞いたことない疫病から、この村を救ってくれた」

 “黄金の季節、麦の里の民に雪が舞うだろう”

 ジェフの脳裏に、古文書の一文がよぎった。
 彼がカルロスを見つけ出すことができたのも、その古文書の言葉を追ったからこそなしえた業だった。
 紋章官一族として生きることを決めたカルロスは、予言を頼りに国中で起こるさまざまな災厄から民を守る為、村から村へと放浪して歩いていたことは知っていたが、こんなにも恩人扱いされていることは知らなかった。
 「・・・ニクソランダと言っていたか?」
 ジェフが問うと、店中が気味悪げにざわめき、ルーカスも眉根を寄せてジェフを見た。
 「ああそうだ。二度と聞きたくない言葉だ。どこにも前例がない奇病だった。ついでに言っておくが、私は医者だ。あの時村人たちは、 ある日突然倒れたかと思うとそのまま息を引き取り、その遺体には雪が積もったような結晶ができた。カルロスは薬草になる野草を探してくれた。そのお陰でこの村は救われたんだ。私もあんたの父親に助けてもらった」
 「だがこいつはカルロスではない!!」
 ルーカスが言った。
 「そうだ。カルロスではない」
 アールは落ち着いてルーカスを見据えた。
 「だが、恩人の息子を殺すのが、恩人への恩返しになるのか?」
 ルーカスはぐっと詰まったが、言葉を返した。
 「それでもこいつらは、都で俺たちの払った税を使ってのうのうと暮らしている!我慢できるのか!?」
 「彼はもう騎士団の人間ではないそうじゃないか。それに、この男が私たちに何か危害を加えたとか、何か罪があるのか?」
 誰も何も言わなかった。
 しかし、ルーカスだけはやはり我慢できないように怒鳴った。
 「ならばこの村を出て行け!二度と戻ってくるな!」
 「・・・そうだな、分かった。そうしよう」
 ジェフリーは静かに頷いた。
 「――せっかくの日に、不快な思いをさせて悪かった」
 そしてそのまま、誰とも目を合わせることもなく酒場を後にした。

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