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父親の痕跡 2

2013.03.03 (Sun)
 「誰だ?」
 ジェフはもう一度訊いた。
 カルロスとはジェフの父親、ラクテウスが身を隠す為に使った名だ。
 息子であるジェフにもにももう一つ名前があるように。
 「俺はチャドだ。何年も前に、カルロスに助けてもらったことがある」
 「・・・どうして俺がその男を知ってると思ったんだ?」
 「いや・・・、何となく、似てる気がしたから・・・」
 チャドという男があまりにも怯えた様子で話すので、ジェフは思わず吹き出した。
 チャドはその表情のあまりの変わりように、驚いてぽかんとした。
 「・・・え、何?」
 「いや、なんでもない。ああ、俺はカルロスを知ってる」
 ジェフは笑いながら短刀を腰の鞘に納めた。
 「本当に!?」
 「ああ。カルロスは俺の父親だ」

 「本当にそんなことを訊く為にわざわざ俺をつけてきたのか?」
 ジェフの小屋で、彼はお茶を淹れながら笑った。
 お茶と言っても、野草を干して炒っただけのものだが。
 「だって、あんた怖いんだよ・・・見てくれとか、いろいろ」
 「怖そうな奴の跡をつけるほうが勇気がいると思うんだが」
 ジェフはいたって素朴な疑問を口にしながら、湯気の立つマグをチャドに渡した。
 「つけてたって言うと人聞きが悪いな。声をかけたくてもかけられなくて、まごまごしてるうちにあの有り様になっただけだよ」
 チャドはブツブツ言いながらカップを受け取り、けどやっぱり想像以上に怖かったけど、と付け足した。
 「悪いな。用心深くてね」
 「ああ、その辺もカルロスによく似てるよ」
 チャドは皮肉るように笑った。
 彼は元行商人で、機会があれば様々なところで詐欺を働いていた。
 そして昔、この村にやって来たときに一番初めにカルロスに詐欺を働きかけた。が、ことごとくばれた上に、一晩中長々と説教をされたらしい。
 しかしその後、三日間何も食べていなかったらしいチャドに、カルロスは寝食を与えたらしい。
 それからというもの、チャドは詐欺をやめて、この村で農耕を始めたと言っていた。
 カルロスは死んだと聞くと、彼はがっくりと落胆したため、ジェフはチャドを小屋まで連れて来た。
 「ところでお前、親父に何言って騙そうとしたんだ?」
 ジェフは興味本位で訊いてみた。
 「ああ、よくあるやつだ。ほら、おとぎ話でさ、何でも願いが叶う石ってのがあるじゃないか。あれと同じ魔法を封じ込めた石だって言ったんだよ」
 「・・・それってひっかかるやついるのか?」
 ジェフは呆れたような反面、そのあまりに幼稚な大胆さに驚いて訊いた。
 「ああ、たまにね。昔は、今みたいじゃなかったから、それが嘘だとわかってても、こっちの事情を察してくれて、買ってくれた人もいたよ。俺もほんとガキだったし」
 チャドはクスクスと笑った。
 「・・・そうか。だが残念だったな。親父はそういう方面の知識には強かったんだ」
 なにせあの古文書を暗記していたらしいと聞くからな――。
 本当かどうか知らないが。
 それにしても。と、ジェフはチャドを眺めた。
 こいつも何だか能天気に見えるが、さっきから話を聞いていると、言葉の端々がどこか物悲しく感じる。
 このご時世、辛い経験をしてきた人間はごまんといるだろうが、彼もまたその一人なのかもしれない。
 「だけど、本当にカルロスと一緒じゃなかったのか?」
 チャドがお茶をすすりながら言った。
 「ああ。父親とは二歳のときに生き別れた。俺は十五まで祖父に育てられた」
 「その後は?どうしてたんだ?」
 ジェフはため息をつき、チャドから目を逸らして答えた。
 「・・・騎士団に志願した」
 「騎士団に?あんた騎士団にいたのか?」
 チャドの声が急に険しくなった。
 「ああ・・・。一月前まで長官だった」
 それを聞くと、チャドは驚いて目を丸くした。
 「長官ってあんた、そんな地位にいたのに、何でこんなとこにいるんだ!?」
 「いろいろあってね」
 ジェフリーは肩をすくめてごまかした。
 さすがに、初対面の人間に暗殺されかけただの、自分の先祖はなんたらかんたらとは言えない。
 チャドはしばらくジェフを眺めていたが、おかしそうに笑った。
 「何だ?」
 「ほんとによく似てるよ」
 「何が?」
 「カルロスも、よくわからないやつだった。この村を出て行こうとしていたときも、なぜ出て行くのか、なぜ何十年も放浪しているのか、何度聞いても答えなかった」
 ジェフはひょいと眉を上げただけで、何も言わなかった。
 「なあジェフ。あんた、このままここにいるのか?」
 「さあ、どうかな。しばらくはいるつもりだが」
 「なら、村の仲間に紹介するよ」
 チャドは嬉しそうだった。
 「は?」
 「カルロスの息子がいるなんて、みんな知ったら喜ぶよ!」
 「・・・親父はそんなに人気者だったのか?」
 ジェフは眉根を寄せて怪訝そうな顔をした。自分が父親に会ったときは、少なくとも人好きのする風貌ではないなと思ったことを覚えていた。
 「人気者って言うより、恩人なんだ。俺達の。そりゃたしかに近寄りがたい雰囲気はあったけど、俺たちを、この村を救ってくれたらしい。俺はその頃はまだここにいなかったからよくわからないんだけど」
 褒めているのか何なのかよくわからないが、ジェフは首を振り振り笑った。
 「なら、今夜酒屋にみんな集まる。今夜は月一回の酒の解禁日なんだ。って言っても、酒らしい酒はないけどね」
 「ああ、ありがとう」
 一人でウキウキしているチャドを眺めながら、ジェフはようやく少し冷めたお茶を傾けた。

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