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明けない夜 2

2013.03.02 (Sat)
 ジェフは自室に戻ると、力の限りに机に拳を振り下ろした。
 ――何が王に救われただふざけるな!今生かしてやっているのはどっちだと思っているんだ!!
 国王へはもとより、現在政権を握っているコルニクスにも腹は立つが、それと同時に何もできない無力な自分にも嫌気が差す。
 ――どうしたらいい。どうしたら救える――。
 何度も机を殴りつけているうちに、骨ばった彼の手から血が滲み出した。
 怒りと憎しみに加え、混乱もしていた。
 以前、コルニクスを尾行しているときに聞きつけたことがある。

 「五番目の王女が生まれる日は近い」

 と。
 ――他にも伝承を記した古文書があるのか?それとも、あいつは別なところで伝承を知って、尾行されていることも知りながら俺を謀ろうとしただけか・・・?
 「くそ・・・」

 真夜中。
 「コルニクス様」
 執政官の私邸の一室。
 豪奢な内装の部屋には、数本の蝋燭が灯っているだけだった。
 その部屋の主であるコルニクスの下を、黒い外套に身を包んだ数人の男たちが訪れていた。
 「レヴィナスの嫌疑は如何に・・・?」
 一人の男が、鋭い刃をした短剣の切っ先を撫でながら言った。
 コルニクスは毛皮のかかった、ゆったりとした大きな寝椅子に身を沈め、テーブルに置かれた蜀台の炎をじっと見つめていた。
 「・・・わからぬ。だが、あの男の思想は限りなくウェルバに近い」
 「では、やはりレヴィナスはウェルバの生き残りだとお考えですか?」
 「確証は無いが。だが、殺れ」
 立ち上がって懐から鍵を取り出し、一人の男に渡した。
 「やつがウェルバであろうとなかろうと目障りだ。邪魔な芽は早いうちに摘むのがよい。根絶やしにな」
 コルニクスは額に深い皺を寄せ、不愉快な記憶でも思い出したときのように、不快な表情をしていた。
 鍵を受け取った男は、無言で頭を下げた。
 「忘れるな、相手はレヴィナスだ。決して気付かれず、確実に殺れ。誰にも気付かれるな。血痕も残すな。あくまで奴自身による出奔とするのだ」
 「御意」
 「死体は重石をつけて堀へ棄てろ。そして古文書を何としても探し出せ」
 「仰せのままに」
 男達は揃って頭を下げ、するすると音も立てずに部屋を出て行った。

 午前二時。
 ジェフは、先程殴り続けていた机で調べ物をしていた。
 あの日祖父から受け継いだ古文書は、もう隅から隅まで読み尽くした。ただ、最後の章はいまだに解読できずにいた。
 読めないというより、どちらかというと一部のページが切り取られているようにも見えた。
 どちらにしろ祖父の話では、その章を読み解いた者は未だかつていないということだった。
 しかし、今はそれを調べているときではない。もしかしたらこの中に、もう一冊の古文書について、何か暗号のようになって書かれているのではないかと思ったのだ。
 もちろん、そんなものが本当に存在するのならの話だが。
 落ち着きを取り戻したジェフは、コルニクスは大方、聖堂に残された数少ない資料を読み解いたのだろうと推測した。
 じっと書面を見つめていたそのとき、風もないのに蝋燭の火が微かに揺れた。
 動きを止めて耳をそばだてると、廊下から僅かに衣擦れの音が聞こえ、ジェフは本能的に身の危険を感じた。
 何しろ、コルニクスにあんな質問をされた昨日の今日だ。
 音も無く立ち上がって蝋燭を消し、寝台に適当な枕やマントを詰め込んで、自分は物陰に隠れた。
 こんなもので相手を騙すことができるだろうかと、自分でも訝ったが、月も無い、新月の暗い夜だった。僅かな間、目を眩ますことはできるだろう。
 息を潜めてじっとしていると、やがて、カチリと小さな音がして鍵が開き、ゆっくりと扉が開いた。
 予感が的中したようだ。
 ジェフはそっと剣を握り締めた。
 フードを目深に被り、顔を隠した三人の男がゆっくりと近付いてくる。
 三人の動きをじっと見ていたジェフは、一瞬眉根を寄せた。
 ――ロクスタ――。
 部屋に入ってきた男の一人は、以前ジェフと同じ部隊にいた同僚だった。
 フードを被っていようと、五年間もの間四六時中同じ場所にいたのだから、顔は見えずとも雰囲気でもわかるようになる。
 ――裏切られていたか・・・。
 ジェフと近しかったが為、コルニクスの息がかかったのだろう。
 ロクスタが、物陰に隠れたジェフには気付かず、彼の前を素通りして、他の二人と寝台を囲うように立ち止まった。
 全員がジェフに背を向けた瞬間、血が散った。

 「・・・用意周到なこって」
 ジェフは、返り血を浴びた顔を袖で拭いながら、一人の男が腰紐に挟んでいた黒い布を見つけてため息をついた。
 暗殺のつもりだったのだろう。ジェフも声は出さなかったが、彼らも騒ごうとはしなかった。
 一人目は、騒ぐ暇もなかったかもしれないが。
 しかし、さすがに物音は近くの部屋や階下に聞こえたかもしれない。
 何より、コルニクスに正体がばれてしまったようだ。もうここにはいられない。
 ジェフは手早く必要なものをズタ袋に放り込むと、誰にも気付かれぬよう兵舎を抜け出し、夕方世話をしていた馬に飛び乗った。
 城や兵舎から、松明を持った衛兵たちがすぐに飛び出してきて追跡犬まで放ったが、彼と馬はもう手の届かないところにいた。
 城門の抜け道を破り、城が見えなくなる頃、ジェフはちらりと後ろを振り向いた。
 夕方のクレストの言葉がちらりと頭をよぎった。

 「我々にはあなたが必要なのです」

 ――俺はウィンザのことを聞かせてくれとも言ったな・・・。
 ジェフはまた前を向いて呟いた。
 「悪いな・・・」


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