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明けない夜 1

2013.03.02 (Sat)
 三十年後――。

 「レヴィナス長官!レヴィナス長官!!」
 王都の騎士団本部の兵舎で、若い騎士が一人、部屋から部屋へ回って長官を探していた。
 「長官!!」
 食堂を覗いたが、探している姿はどこにもない。
 「またジェフか、クレスト」
 酒を飲んでいた非番の騎士が、苦笑を浮かべて振り返った。
 「ここにはいねえぜ」
 「今度は何やらかしたんだ?ジェフの奴」
 一緒にいた仲間たちも笑いながら尋ねた。
 「いつものことさ」
 クレストは食堂の隅々まで一応眺め回しながら応えた。
 「ジェフの縦横無尽ぶりにはときどき肝を冷やすが、あんなにいい上官は他にいねえぜ?」
 「ジェフが執政官に盾突くと溜飲が下がるよなぁ」
 「しっ、聞かれたらどうするのさ」
 クレストは慌てて遮ったが、仲間たちは杯を挙げた。
 「我らの長官に!」

 ここまで探していないとなると、あとは――。
 クレストは厩にやって来た。
 「長官」
 くたびれきった声で呼びかけると、ジェフは馬の世話をしながら、振り向きもせずに「何だ」と言った。
 「コルニクス執政官が」
 「お呼びか」
 ジェフはニヤッと笑ってようやく振り向いた。
 「放っとけ」
 「放っとけって、私が危ないじゃないですか!!」
 「冗談だ」
 藁を束ねながら、ジェフは静かな声で尋ねた。
 「なあ、俺の言ってることは間違ってるのか?」
 「・・・・・・」
 クレストは返す言葉を失った。
 「国で飢饉があったとき、物資を届けるのは誰の役割だ?」
 「・・・我々です」
 「フリーギダで飢饉があったとき、俺たちはどこにいた?何をした?」
 「・・・・・・」
 「なぜ俺たちは民が飢えに喘いでいるときに動けなかったんだ?動かしてもらえなかったんだ?」
 「それは――」
 「俺たちの存在意義が分からなくなるときがある」
 ジェフはため息をついた。
 「我々は、王族をお守りする為に――」
 「民の痛みも分からずに何が王族だ!」
 ジェフが突然大きな声を出したので、馬が驚いて嘶いた。
 ジェフは馬の首をさすってやりながら「すまない」と言った。
 「お前に当たっても仕方ないよな」
 「長官のお気持ちはわかります。ですが、あなたにもお立場というものがおありでしょう」
 「民が救われるなら俺の首くらい安いもんだろ」
 「そういうわけには行きません。我々は皆あなたを慕っています。こんなに素晴らしい上官は他にいないと皆言っています」
 「おだてても何も出ないぞ」
 ジェフは肩をすくめた。
 「冗談ではありません。我々にはあなたが必要なのです」
 クレストの真剣な表情に、ジェフはやがて息をついた。
 「お前、生まれはどこだ?」
 「は・・・ウィンザの西・・・ですが」
 急な問いに、クレストは戸惑いながら答えた。
 「お前はなんか懐かしい感じがするよ。何でだろうな」
 ジェフはよっこらしょと水桶を片付けた。
 「今度ウィンザの話を聞かせてくれ」
 ジェフはひらひらと手を振りながら厩を出て行った。
 取り残されたクレストは、
 「わからない方だ・・・」
 と、ジェフの馬に呟いた。

 厩を出たジェフは、この世で最も嫌いな場所へ向かった。
 コルニクス執政官の執務室だ。
 嫌々扉の前までやって来ると、嫌々ため息をついて、嫌々扉をノックした。
 「レヴィナスです」
 「入れ」
 ジェフはもう一度ため息をついて、嫌々扉を開けた。
 「お呼びでしょうか」
 冷たい灰色の目をした執政官が一人、執務室の机に座っていた。
 「座れ」
 コルニクスは革張りのソファを顎で差したが、ジェフは拒否した。
 「いえ、ここで」
 「では単刀直入に訊くが、昼間のあれは何だ?王に対しあのような発言をするなど」
 「王の行いが禍を招いているのは確かではありませんか?」
 「王のどの行いだというのだ」
 「民が飢饉に喘いでいるときに豪遊三昧――。あれでは民に示しがつかぬではありませんか」
 「その話ならば昼間に聞いた」
 「ならば私は王に諫言したまでです」
 「王に諫言など!!」
 コルニクスは大声を出した。
 「お前のどこにそんな権限があるというのだ?」
 「民を思い統治するのが王の勤めではありませんか」
 「この国の平穏の為の祈りならば毎朝の祈請の儀で一心に祈っておられる!お前も毎朝同席しておろう!それにお前のような青二才に何が分かる!」
 コルニクスは立ち上がった。
 「お前はこの国の伝承を知らんのか。王家と我らコルニクス一族が民の為血を流したお陰で今の国があるのだぞ。王族に生かしていただいているお前に何を言う権利がある!!」
 コルニクスは突然、話を切り替えた。
 「ウェルバ一族を知っているか」
 「騎士団にいるなら誰もが知っている一族です」
 ジェフは一瞬たじろいだが、何とか表情を崩さずに答えた。
 「ならばわかっておろう。数百年前に滅んだ一族だ。お前と同じような思想を持っていた。王を侮辱し王権をその手に納めようとした逆賊だ」
 コルニクスはジェフの周りを歩き回り、その表情を窺いながらゆっくりと話した。
 「お前もあまり陛下に無礼を働き続けると、逆賊の嫌疑をかけられるぞ」
 「私は逆賊ではありません」
 この男の一族がウェルバ一族を陥れたのだ――。
 今尚ウェルバ一族が殲滅の命にあると言うのは本当のようだ。
 「私には関係のない話です。それでお話が終わりでしたら私はこれで失礼します」
 ジェフはコルニクスを振り切り、一礼して部屋を出て行った。


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