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Ivy-7

2013.02.26 (Tue)
 アリスは腹部の酷い痛みで目を覚ました。
 もう夜になっていた。
 ランプがうっすらと部屋を照らし出していた。
 「目が覚めましたか」
 「アンナ・・・」
 侍女が物憂げに傍らに立っていた。
 「赤ちゃんは・・・?」
 「旦那様のご命令で・・・」
 「そんなっ・・・!!」
 一気に涙が溢れた。
 「嘘でしょう!?嘘だと言って!!」
 「嘘でこんなことは申し上げません」
 「そんな・・・どうして・・・!!」
 アリスは再び泣き崩れた。
 「お嬢様、もう一つ、ご伝言が・・・」
 アンナは言い難そうに言った。
 「旦那様が、「もうお前は娘ではない」と・・・」
 「アンナ・・・?」
 アリスはすがる思いでアンナを見上げた。
 今は母親よりも親しいアンナだけが、自分の味方のように思えた。
 しかし、アンナは一歩下がり、
 「わたくしもこれで失礼しなければなりません・・・」
 「行かないで・・・!一人にしないで・・・!!」
 アリスはすすり泣きながら訴えたが、無駄であった。
 「旦那様のご命令です」
 アンナは一礼して出て行った。
 アリスはただ一人、暗闇に飲み込まれて行った。

 それから二週間が経ったが、アールの耳には、王族の結婚式が執り行われたという知らせは入って来なかった。
 縁談が持ち上がってから、五日から十日以内に式を挙げるのが王族の常だ。
 当然、アールの心からアリスが消え去ったはずもない。
 アールはアリスの消息をどうしても知りたくなり、伝を頼ってアリスの家を突き止めた。
 
 アリスの家の呼び鈴を鳴らすと、アリスを迎えに来た執事が顔を出した。
 「何か御用ですかな」
 「施療院でアリシアの指導をしていた者ですが、彼女はいますか」
 「この家にそのような方はおられません」
 「嘘だ」
 「嘘、とおっしゃいますと?」
 「あなたはアリシアを迎えに来た方だ。彼女をお嬢様と呼んだ」
 執事はようやくアールを思い出したのか、「ああ」という顔をした。
 「少々お待ちを」
 しばらくすると、アリスの父親が顔を出した。
 「何者だ」
 「アリシアを施療院で指導した者です」
 「そんな女はうちにはいない」
 「ちょっと待ってください」
 アールは扉を閉めようとした父親を強引に止めた。
 「あなたも執事の男性も、なぜ彼女をいない人間のように扱うのです?あの男性は確かにアリシアを迎えに来ました。私は学院の伝を辿ってこの家にたどり着いたのです」
 「・・・何の用だ?」
 父親は訝しげに尋ねた。
 「彼女は今どうしているんですか」
 「・・・まさか貴様か!うちの娘を孕ませたのは!!」
 父親は激昂した。
 「孕ませ・・・!?」
 アールは驚きのあまり、言葉を失った。
 「お前のせいでうちの娘は――!!」
 「アリスは今どこにいるんです!?」
 「あんな屑のような女、縁を切ってやったわ!!貴様の子供ももうこの世にはおらん!下ろしてくれたわ!!」
 アールは反射的に父親を殴っていた。
 「人の命を何だと思っているんだあなたは!!娘の子だぞ!?」
 
 それからアールは、アリスを探して施療院を片っ端から回って走った。
 しかし、どこにもアリスはいなかった。
 夕暮れ時になって、最後に行き着いた施療院で、ようやく手がかりを掴んだ。
 「ええ、いました」
 父親に堕胎させられた、アリシアという娘がいなかったかと尋ねると、医師は肯いた。
 「堕胎させられてから白痴のようになって・・・。毎日一日中食事もせずに泣き通して・・・、かわいそうなことをしましたが、父親や家族に強制的に堕胎させられるのは珍しいことではない。特に貴族の間では秘密裏に行われますからね」
 「それで今、彼女は?」
 怒りと同時に自責の念で胸が痛む。
 アールの心はただアリスを求めていた。
 「それが、二日ほど前に脱走しまして・・・」
 医師は言いにくそうに言った。
 「脱走!?そんな状態でどうやって!?」
 「窓が、開いていました。おそらく窓から飛び降りたのでしょう」
 アールは、以前アリスが本棚をよじ登ったり、子どもの頃から窓から家出をしていたと話していたことを思い出した。
 「どこへ行ったか思い当たりませんか?」
 「さあ・・・」
 アールは途方に暮れた。
 もはや彼女には会えないのだろうか。
 アールはアリスを守れなかった自分を呪った。
 
 『海が見たいわ』

 突然、アリスが以前に言っていたことを思い出した。
 その前に自分は、クレメンティアの丘の話をしていたはず――。
 「どこへ行くんです!?」
 アールは我知らず走り出していた。

 二日間、アールは夜を徹して馬を変えながら走り続けた。
 間違いない。
 クレメンティアには丘は一つしかない。
 アリスはそこにいるはずだ。
 ――間に合ってくれ・・・!!
 アールは祈りに祈り続けた。
 
 アールは久しぶりに故郷の地を踏んだ。
 しかし懐かしさよりも切迫した思いで一杯だった。
 そして――。
 断崖絶壁の丘の上に、捜し求めた金の姿を見つけた。
 ただ呆然と、冷たい地面に座り込み、海を見つめていた。
 かつてあれほど丁寧に手入れをされて美しく流れていた髪の毛ももつれ、痩せこけ、表情もやつれ果てていた。
 アールが駆け寄ろうとすると、アリスはやおら立ち上がった。
 間に合わなかった。
 アールの存在にも気付かずに、アリスは崖から飛び降りたのだった。


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