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Ivy-6

2013.02.25 (Mon)
 アリスは一晩悩みぬいた。
 学校を辞めさせられ、薬師ではあっても医者への道ももはや閉ざされてしまった。
 さらに親と縁を切られたら、アールからも引き離された今、アリスに寄る辺もない。
 すべては夢だったのだろうか。
 医者になり、自立した人生を送ることも、愛したアールとの幸せな日々も、何もかも。
 やはり自分は貴族の子であって、親の意思に従い、家系の繁栄の為に身を捧げるしかないのだろうか。
 何度も何度も繰り返し考え、悩みぬいたが、アリスにはもはやどうすることもできなかった。
 
 次の日――。
 アリスは晴れ着を着せられ、カルダ公を迎えるよう言いつけられた。
 金の髪は結い上げられ、その美しさはまさに貴族のそれであった。
 しかし、アリスの心は呆然とし、何も考えられなかった。
 そして、やがてやって来たのは――。
 「これはこれは。今日はより美しくていらっしゃる」
 先日酔って施療院にやって来た、あの男だった。
 今日は王族らしく正装で、いかにも紳士らしく見えた。
 カルダは恭しくアリスの手を取って口付けようとしたが、アリスは顔を引きつらせてサッと手を引っ込めた。
 そこで父親が慌てて割って入った。
 「申し訳ありません閣下。娘は少し、緊張しているようで――」
 「ええ、そうでしょうとも」
 カルダも笑顔を崩さずに、朗らかに応えた。

 二階のサロンで、ひとしきり儀礼どおりのやり取りが行われ、カルダとアリスの二人が残された。
 父親は去り際に、くれぐれも無礼のないようにと念を押して行った。
 「まだ緊張しておいでですか」
 一言も口を利かないアリスに、カルダは優しく問い掛けた。
 「え、ええ・・・」
 ぎこちなく微笑み、アリスは肯いた。
 「私もです。先日はお恥かしい姿を晒してしまい――、大変な失礼をいたしました」
 「いえ・・・」
 「しかしあの日、私はあなたの美しさの虜になった。その瞳の何たる聡明なことか。私は未来の花嫁を見つけたのです」
 自信たっぷりに、カルダは続けたが、アリスの耳には遠く感じられる言葉ばかりだった。
 「あなたも、なぜあのような汚い仕事をしようと思ったのです。お遊びのつもりだったのでしょうが、薄暗く陰気な場所に篭ってしまえば、あなたの美しさも半減してしまう。その証拠がどうです、今日のあなたの美しいことと言ったら言葉にならぬではありませんか!私の妻となった暁にはより――」
 「何ということを・・・」
 カルダの言葉はアリスの震える声で遮られた。
 「私は遊びで医者を目指していたわけではありません。心から医者になりたいと思い、あの場所にいたのです。汚いなどと――」
 一言ごとに、アリスの意思が戻って来るようだった。
 「あなたのような方が医者など!そもそも女の医者など聞いたこともない!」
 「私は――、私は――」
 昨夜の侍女の言葉が脳裏をよぎる。
 『この縁談が上手くまとまらなかったら、お嬢様とは縁を切るとも旦那様はおっしゃておいででした』
 それでも。それでも・・・アール・・・!!
 「今回のお話はわたくしには身に過ぎたことです。なかったことにしていただけませんか」
 アリスは冴え冴えとした目でカルダを見、静かな声で言った。
 「何を――」
 アリスの脳裏に、アールの笑顔が蘇る。
 彼は今、自分のことをどう思っているのだろう。
 裏切られたと思っているのだろうか。
 そうではない。そうではないのだ――。
 はやくアールに説明しなくては。
 「失礼します」
 アリスが部屋を出て階段を降りようとすると、カルダが彼女の腕を掴んだ。
 「三流貴族の娘を嫁にもらってやろうというのだぞ!ありがたいと思わないのか!!」
 「いやっ――」
 すごい力で腕を締め上げられ、アリスは彼の手を振りほどこうと暴れた。
 「お前のように施療院で婿探しをしている娘が大勢いるのは知っているぞ!あんな薄汚い仕事をしていたような女でも妻にしてやるというのに貴様は――」
 カルダの罵声に、何事かと両親も飛び出してきた。
 そのときだった。
 「放してっ!!」
 「そうか、ならばどこへなりと行くがいい!!」
 叫び声と共にカルダはアリスを突き飛ばし、アリスは階段を転がり落ちた。
 「アリス!!か、カルダ公、娘が何か失礼を――」
 父親があわててカルダに駆け寄ろうとしたが、アリスがひどく苦しみだしたので、アリスの具合を見に行った。
 「アリス?」
 「痛い・・・」
 アリスは腹部を抱えて苦しみだした。

 急いで馬車が出され、施療院へ駆り出された。
 その間もアリスは苦しみ続けた。
 施療院へ着き、診察を受けると、医師が言った。
 「お嬢様は、ご懐妊されています」
 アリス本人も、驚きに目を見開いた。
 ――私、アールの子を・・・!!
 「そんな・・・」
 母親が息を呑んだ。
 「この馬鹿者!!」
 苦しみ続けるアリスの頬を、父親はあらん限りの力を込めて打ちつけた。
 「この牝犬め!!親不孝者!!誰だ!?どこの馬の骨にたぶらかされた!?」
 アリスの肩を揺さぶり、顔を真っ赤にして怒鳴りつけた。
 「お父様、お嬢様は危険な状態にあります」
 医師が諌めようとしたが、父親の怒りは納まらなかった。
 「下ろせ!!そんな子供は下ろしてしまえ!!」
 「嫌!!嫌です!!私が愛した方の子です!!」
 アリスは苦しみながらも、身を捩って拒否した。
 「とりあえず、お嬢様もご両親も落ち着いて話しましょう。お嬢様、少し眠っていただきますよ」
 医師が睡眠剤を染み込ませた布をアリスの口元に持ってきた。
 アリスは恐怖に身を竦めた。
 意識など失ったら何をされるか分からない。
 「嫌です!!やめて!!お父様やめてください!!お母様!赤ちゃんを助けて!!私をアールの元に返して!!」
 この父親なら本当にやりかねない。
 アリスは必死になって身を捩った。
 「大丈夫です。すぐに目が覚めますよ」
 「嫌です!!嫌!!嫌あっ・・・アール!アールっ!!」
 白い布が口元に押し当てられ、アリスは絶望と共に意識を失うのを感じた。


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