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赤の紋章 4

2013.08.17 (Sat)
 「嫌です!!」
 リアーナは半狂乱になって叫んだ。
 「この子には何の罪もございません!!あるとすれば夫を止められなかった私に責めがあります!!どうか、どうかこの子だけはお許しください!!お救いください!!」
 絶叫するような声。命の恩人が、息子もろとも自分を残して目の前で死んでいったのだ。
 リアーナももはや正気を保ってはいられなかった。
 「それではそなたの命を、そなたをこの世で一番愛するものの手で殺めてもらいなさい」
 ファリガーナの目は、リアーナを抱き締めている男、エリオスへ向けられた。
 彼もまた、密かにリアーナを愛していたのだ。
 「・・・できない」
 エリオスは苦悶の表情を浮かべて答えた。
 するとリアーナは顔を上げた。
 「あなたは私を愛してくれていたのですか・・・?」
 「・・・そうだ」
 「なぜ」
 リアーナは泣き崩れた。
 「なぜ言ってくれなかったのです!!私もあなたを愛していました!!あなたを・・・!!」
 リアーナは赤ん坊を抱き締め、声を上げて泣いた。
 愛するものをその手で殺める辛さが、どれほどのものか。彼女は愛した男にそれを背負わせることもできなかったのだ。
 やがてリアーナは顔を上げ、ファリガーナを見つめた。
 「謹んでお願い申し上げます。一族の全ての罪は、私がこの身にに引き受けます。何度でも生まれ変わって、罪を償い続けます。一族全員で罪を償います・・・!!ですからどうか、この子と一族を、滅亡からお救いください・・・!!」
 リアーナの魂を込めた叫びは、神々の胸に響いた。
 そしてアスターが言った。
 「しかと聞き届けた。そなたの望み、叶えよう。そなたらをこの地の王となさん。民を守る為、その身体を特別に強くし、老いを止めよう。そしてそなたらは王として、一心に民の幸福のみを祈り続けるのだ。さすれば再び争いの起こる日は来まい。法を定め、統治するのだ」
 すると、今度はファリガーナが口を開いた。
 「しかし、そなたらの心が私欲に走り、民の心を思うことを忘れかけたとき、島のどこかで神の怒りが起こりましょう。民が病や飢えで命を落とすことがあれば、そなたらの罪は一層深くなることでしょう」
 そして、ファリガーナは一輪の花を摘み取った。
 リエンゼルという、世界中で死者に手向けられる真っ白な花だ。
 それをおびただしく流れた長老の血に浸し、赤く染めた。すると、見る見るうちに花は石となり、手の平ほどの大きさの首飾りができた。
 「これを贖罪の印として、王位を継承したものが代々身につけなさい。その他の者が王位欲しさにこれを奪うようなことがあれば、恐ろしいこととなるでしょう」
 リアーナがそれを受け取り、首にかけた。
 「これをもって、そなたをこの地の王となさん」
 アスターがそう言った瞬間、島全体が目も眩むような真っ白な閃光に包まれた。
 誰も彼もが、何も見えなかった。
 やがて光が収まると、王族以外の者が持っていた武器以外はみな朽ち果て、土に還った。
 波は荒れ狂い、王族の船以外の船はみな沈んでしまった。
 そしてリアーナが一心に祈った。
 「争いをやめてください」
 その声は、島中の人間全ての心に染み渡り、全てのものが武器を落とし、我に返り、自分たちの招いた惨劇を嘆いた。
 やがて全ての者たちは和解し、リアーナの許へと仕えるようになった。
 この大事件は、大陸の国にも伝わり、禁じられた島は神々に守られた島として知られるようになり、以後、どんな強国もこの島に攻め入ろうとはしなかった。
 リアーナとその一族――王族は、戦の傷を癒し、王国の設立に向けて尽力した。
 彼女は女王と呼ばれ、エリオスは、神々との会話をじかに見聞きしたものとして『言の葉の一族』――ウェルバ一族と呼ばれ、紋章官になった。
 また、王族の中でも、武芸に優れ、戦の折にはその通り道に死肉漁りの鳥がついて回るようになり、コルニクス一族と呼ばれ、護民官として騎士を民衆から募り、騎士団を結成した。
 この二つの一族は、やがて女王から執政官になるよう求められ、文武互いに協力しながら国を治めた。
 最後まで長老の一族に忠実であり、生き残った五家は、王族と呼ばれた。
 こうして、ベルスの王国の統治が始まったのだ。

 リアーナは毎月、満月の夜、戦の惨劇をまざまざと夢に見て目を覚ました。
 それが、戦の惨劇を忘れぬようにという神からの警告であり、呪いでもあった。
 リアーナは次第に精神を蝕まれていった。
 女王の息子が成人すると、彼女は首飾りを息子に引き継ぎ、自分は白痴のようになって早死にした。

 それ以来、王家に嫁いだ女性は、満月の夜に泣き叫んで目を覚ますようになり、ほとんどの者はみな、最期は物狂いのようになっていった。
 王家の婚姻の儀では、国王の血を葡萄酒に混ぜて杯を空け、そうすることで身体中の血が王家の血に変わるのだ。
 老いは止まり、文武に優れるようになる。
 たとえ女性であり稽古を受けずとも、体術、剣術に優れ、その国を守るべく特別な力を得る。
 そして彼女らは、一人だけ子を産むのだ。
 その王位継承者が生きている限り、彼女らは二度と子を身篭ることはない。
 彼女らはみな王家に嫁ぐ運命にあり、リアーナの生まれ変わりだとも言われている。

 時は過ぎ、約二千年が過ぎたが、大きな戦はこれまでに一度もなかった。
 その頃、初代の女王から数えて三番目の王女が生まれた。
 名をマリアンナと言った。
 彼女は生まれたときから物狂いのようで、剣が鳴る、人が泣く、と言って、常になかなか眠れなかった。
 そしてあるときこう叫んだ。

 「五番目の王女は全てを海に還し王国の終焉を招くであろう。五番目の王女はすべて海に還すべし」

 と。

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