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2013.07.02 (Tue)
ジェフがエレナと暮らすようになってからしばらくたったある日。
ジェフの前にエレナが立ちはだかった。
その目はじっとジェフの髪の先を見ている。
エレナはやおら手を伸ばすと、ジェフの髪を一筋とってくるくると弄び始めた。
「・・・何だ」
「・・・切りなさいよ、うっとうしい」
「お前より短い。アールもこんなものだったろう」
「父さんは結っていたわ。あんたも結ってあげましょうか」
「結構だ。お前こそその長さでうっとうしくないのか」
腰まで伸ばされた、エレナの赤黒い髪。
「私の髪は売り物だからいいのよ」
「売り・・・髪を売ったことがあるのか」
「ええ」
エレナはジェフの髪をもう一度すっと梳くと、ふいっと向こうへ行ってしまった。
「あの時は、仕方なかったのよ」
エレナは糸車を回しながら話し始めた。

数年前――。
エレナは街へ買い物に出ていた。
そのとき、泣いている子供を抱え、物乞いをしている女性が、必死に村人に声をかけているのに気がついた。
「お願いします。どうかこの子に薬を与えてください――。お願いします――」
「どうしたんですか」
エレナはいてもいられず駆け寄った。
「昨晩からおなかが痛いと言って泣きやまなくて――」
エレナはそっと子供の額に手を当てた。
熱い。
どうしよう。
エレナは自分を食わせるにも精一杯の生活をしていた。
盗賊の真似ごとをして稼いだ金も、すでにない。
ふと、エレナの視界に質屋が飛び込んできた。
何でもいい。何か金になるものがあれば――。
エレナは一旦その場を後にし、質屋へと向かった。

「そうは言ってもねえ」
質屋の主人は、エレナが持っていた櫛を眺めながら言った。
「これ以上は出せないよ」
エレナの前に置かれたのは、小さな銅貨が二つ。
薬どころか何も買えない。
「他に何か、何でもいいの。私に売れるものがあれば言って」
「・・・お嬢さん、綺麗だねえ」
質屋の主人はそう笑うと、エレナに手を伸ばしてきた。
「身売りはお断りよ。それ以上近づいたらあんたの腕を切り落としてこの店の金全部持って行くわ」
エレナはキンッと音を立てて抜刀した。
「そんなつもりじゃないよ」
主人は慌てて手をひっこめた。
「髪が、さ。あんまり綺麗で」
「売れるの?」
「ああ。金貨二枚出そう」
エレナは何の迷いもなく、肩のあたりからその美しく流れる髪をバッサリと切ってしまった。
そんなエレナに、主人は大そうぎょっとした。
「約束よ」
エレナは髪を差し出した。

エレナは物乞いの女性の元に戻ると、
「これを」
と言って、水薬を渡した。
女性は、エレナの髪がなくなっていることにひどく驚いていたが、薬を受け取ると、盛んに泣いている子供にそれを飲ませた。
「二、三日、その薬を飲ませ続けてください。熱も収まるはずです」
「あ・・・ありがとう・・・。あの、あなた、その髪は・・・?」
「気にしないでください。邪魔だったから切っただけです」
「そんなこと」
あるはずがなかった。
エレナの髪はよく手入れされ、髪の美しさが女の誇りでもあったこの時代に、邪魔だから切るなどと言って、肩から無造作に切り落としてしまうことなどありうるはずもなかった。
「本当に、どうお礼を言ったらいいか――」
「いいんです。どうぞお大事に」
エレナはそう言うと、その場を後にした。

それ以来、エレナはどこへ行くにも自分で調合した解熱用の薬を持ち歩くようになった。

現在――。
「そんなこともあったわ」
「お前、・・・人が好すぎるにもほどがあるんじゃないか?」
ジェフは関心半分、呆れ半分で言った。
「髪くらい、どうせ伸びるもの。ある程度まで伸びたらどうせ切るんだし」
そう言うエレナの肩からは、再び長く伸ばされた髪がさらさらと零れ落ちる。
「お前はもう少し・・・自分を大切にしろ」
ジェフがため息混じりに言うと、エレナは「はいはい」と安請け合いした。
カラカラと糸車が音を立てる中、ジェフはしばしゆらゆらと揺れるエレナの髪に魅入っていた。


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