お団子をお供え

2015.09.27 (Sun)
 九月の満月の夜。
 エレナは神経をぴりぴりさせながら小屋に帰ってきた。
 街に降りて、薬を売ってきたのだ。
 その後からはジェフがやれやれと続いた。
 エレナは満月の夜の悪夢の恐怖から逃れようと、やけにバタバタと竈に火を起こしていた。
 そんなエレナを尻目に、ジェフは蝋燭を一つ一つ灯しながら声をかけた。
 「なあ、知ってるか」
 「何よ」
 「ある国には、中秋の名月といって、豊穣を感謝して月を愛でて、団子を供える風習があるそうだ」
 「月にお供え?ウケるわね」
 エレナは鼻で笑って一蹴した。
 彼女にとって、満月の夜とは本当に恐怖の対象でしかない。
 まざまざと眼の前に広がる血の海、人々の阿鼻叫喚。なぜそんな夢を毎月毎月見るのか、今の彼女にはわからないが、何か理由があるのだろうとは薄々気付いていた。
 「食うか?」
 「何を」
 「朝出かける前に芋で団子を作っておいた」
 「いつの間に・・・」
 目の前に差し出されたじゃがいもを丸めた団子を見て、エレナはうっかり吹き出した。
 「こんな日は料理したくないんじゃないか?」
 ジェフは先にひょいと団子を取ってかじりながら、エレナにも食べるように勧めた。
 「ただの灯りだと思えと言っても無理だろうが、とりあえず食え」
 「ご親切に」
 エレナはすっかり毒気を抜かれて、ジェフの向かいに腰をかけ、彼の作ったいびつな団子を口に運んだ。
 「しょっぱ!」
 「そうか?」
 ジェフはすでに二つ目の団子に取り掛かっていた。
 「塩、入れすぎ!」
 「気にするな」
 「人の料理に文句つけて悪いけど、あなた料理下手すぎ!塩だって貴重なんだからそんなに豪快に使わないでよ!」
 エレナが何とか咀嚼している団子からは、岩塩の砕けるシャリシャリとした音がしている。
 「じゃあ次の満月にはお前が作ってくれ」
 「何でよりによって満月に」
 「何か楽しみがあった方が、耐えやすいだろ」
 ああ、ジェフはジェフなりに本当に気を使ってくれているのだ。
 エレナは苦笑を浮かべて頷いた。
 「覚えていたらね」
 「俺が事前に言うから大丈夫だ。・・・だがしかし、本当にちょっとのどが渇くな」
 「だから、塩入れすぎなのよ」
 エレナが立ちあがって水差しを取りに行った間に、ジェフは曇りもなく輝いている満月を見上げた。
 ――たまには休ませてやれよ。これやるからよ。
 
 この塩団子で月が満足したのかどうかは定かではないが、その夜のエレナはいつもより酷い目ざめ方はしなかった。
 いつもは自分の絶叫で目を覚ますのだが、その晩はうなされているところをジェフに起こされただけだった。
 エレナは頬を伝う涙を拭いながら、ふふっと笑った。
 「何だ?」
 寝台の横に腰掛けたジェフが、不思議そうにエレナの涙を拭った。
 「お団子、効いたのかもね」
 「かもな」
 「これくらいなら、次の満月の晩、お団子作ってもいいわ」
 「そうしてくれ。俺ものどが乾かない団子がいい」
 エレナは震える手でもう一度涙を拭い、何とか笑顔を取り戻したのだった。





 何てことないお話になりましたが、中秋の名月に寄せて、お団子小噺。
 "if"にしようとは最初から思いませんでした。
 久しぶりにツンデレナに会いたくなって。
 ていうかお話書いたの何か月ぶりだよ!
 クオリティもだーいぶ下がっていますが、読んでくださった方、ありがとうございました。


にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村
スポンサーサイト

トラックバックURL
http://rainy0dusk.blog.fc2.com/tb.php/1051-3abbb5ac
トラックバック
コメント
管理者にだけ表示を許可する
 
back-to-top