赤の紋章 あとがき(2015.2.7 追記)

2013.08.24 (Sat)
はい、というわけで、終了いたしました。新澤りおの『赤の紋章』。
いろいろ不自然な点や矛盾点が見受けられるのですが、
そこは薄目で読んでください(-_-)こんな感じで。

このお話を思いついたのは2002年頃のことでしょうか。
私がまだ現役JKだったころのこと・・・(年がばれる!!)
約10年、胸の内にしまっていた作品で、とても思い入れがあり、
連載が終わってしまった今、とても寂しいものを感じていると同時に、
わずかながら達成感も感じつつあります。



『赤の紋章』というのは邦題で、本当は『Bloody Crest』といいます。
しかもそのまま『血濡れた紋章』にしちゃうとタイトルがすでにネタバレになるので
ちょっとひねりました(これで精一杯)。

エレナの親世代のお話から始まって、結局はエレナとジェフの未来をファリガーナに捧げるということで
民が救われた・・・というお話になりました。
ジェフは本当に、エレナを殺すために人生を歩んできたような人で、
一番かわいそうかもしれません。
まさか自分が王女を愛するようになるなんて想像だにしていなかったことでしょう。

二人の死からある程度たったあと、ジェフはエリオスの生まれ変わりで、
リアーナの生まれ変わりであるエレナを迎えに来たのではないかという憶測が飛ぶようになりましたが、
それはまた別のお話。

一方でエレナ。
リアーナはドニと婚姻を結びましたが、その心はずっとエリオスに向いていました。
エレナが絶対に他の男になびかなったのは、やはり彼女がリアーナの生まれ変わりで、
生まれてくる前からエリオスの魂を求めていたからだとも言われています。つまりジェフ。
ウィル、残念。
運命には逆らえなかったね。

このお話では冒してしまった禁忌に対する贖罪と、
贖罪を続けるための恩寵が与えられたという矛盾から始まりました。
最初から矛盾してたんですね。
それらすべてを還すためには、ファリガーナが最初に命じたとおり、
エレナを最も愛した者の手によって殺されなければならないという残酷な選択肢しか残りませんでした。
エレナの始祖である一族も、敵国であった一族も、
それほどまでに冒しがたい禁忌を破ったのです。
ハムラビ法典みたいなお話になっちゃいましたがこんな話です。


“殺し合いをしても痛みしか残らない。
  どうせ生きているなら愛し合って笑って生きようよ。”


そんなメッセージを汲みとっていただければ幸いです。
物語の感想など、お寄せいただけましたら光栄に思います。
番外編はまだまだ続きます!
これからも新澤りおと赤の紋章の世界をよろしくお願いいたします!




あとがきのあとがき(2015.2.7追記)

えーと、あの、こんなラストでごめんなさい!!
完全なハッピーエンドを期待していた方がいらっしゃいましたら実にすみません。
でもジェフとエレナは最後の最後でやっと思いを通じ合わせましたので。

そして『First and Last』を書くまで、
一番かわいそうなのはジェフだなと本当に思っていたのですが、
上には上がいました。
一番かわいそうなのはウィルでした(T∀T)
彼があんな人であんなことを考えていたなんて、書くまで知りませんでした。
ぜひとも『First and Last』読んでやってください。
ウィルのために。

本編終了後の反省会もしてみました。
よろしければぜひお付き合いください↓



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『最後の章』

2013.08.24 (Sat)
 ジェフとエレナの死と共に、地揺れが止まった。
 不思議に思ったクレストは、玉座の間に引き返した。
 クレストがそこで目の当たりにしたものは、同じ剣に貫かれて倒れている、ジェフとエレナの姿だった。
 血溜まりが二人の周りにでき始めていた。
 ジェフはエレナを守るように抱き締め、エレナは幸せそうに微笑んで息絶えていた。
 大きな赤い紋章は、エレナの胸元で粉々に砕け散っていた。

 クレストはすべての力を失い、その場に膝をついた。
 そして、父が自分に残した古文書の写しと、ジェフが持っていた古文書の原本と日記とを取り出した。
 ジェフの古文書から、ぱらりと紙切れが落ちてきた。
 埃にまみれていて、かなり読みにくかった。
 「『我々は王家の姫君たちが代々この凄惨な運命を辿ることを良しとしない。しかしこれにより王侯貴族諸侯が自らを律することを忘れぬよう、我らは真実をここに隠す』」
 古文書の最終章が読み解けなかったのは、この紙切れのせいだった。
 ジェフはこれを、トリストティリスの教会で見つけたのだ。
 そして、最後の章を読み解いた。
 「『我らは新たにファリガーナに懇願した。五番目の王女は自由な選択ができるようにと。代々苦しみ生きてゆく彼女らの運命が、せめて幸福のうちに終わるように。しかし王女は民を殺めるであろうと、ファリガーナは告げた。王女自身の罪を贖うには、その命をもって贖う他ないと。どの選択をしても、五番目の王女は愛するものと共に息絶え、全てをファリガーナへ還すだろう。王族を含む全ての民は王女の死をもって過ちに気付き、以後はそれまでの歴史を繰り返さず、平等な力をもってして国を治めるだろう』」
 王女は人を殺めていた・・・。この国での絶対の禁忌を王家の人間自らが破っていた・・・。
 しかし、兄は、王女を愛したのだ。
 かつてエリオスがリアーナを愛したように。
 そして、二人で共に旅立ったのだ・・・。
 クレストは父の古文書を見た。
 もう完全に読みつくしたものだったが、やはり最後の章だけは読み解けずにいた。
 カルロスはクレストを育てる間に、様々な暗号遊びをしていた。
 それからクレストは、父の日記を見て、すぐにその暗号に気がついた。
 「『アライアスへ・・・お前には弟がいる。名をクレスト、本名をアクウィラスという。ウェルバの末裔はお前一人ではない。二人でこの国の物語を語り継げ・・・』」
 クレストはもう、一人になってしまった。
 
 「お前は何か懐かしい気がするよ。何でだろうな」

 いつかのジェフの言葉が甦る。
 あの時はまだ、知らなかったのか・・・。
 王女はなぜ人を殺めたのか、そして兄の人生の中で一体何があったのか、今のクレストには知る術もない。
 ただ分かるのは、自分は王家を守ることに奔走していたのに対し、ジェフと王女はただ一心に民を守ろうとしていたこと。
 今自分がなすべきことは、この国の歴史と物語をもはや隠すことをせず、全てを打ち明けることだ。
 クレストは立ち上がって涙を拭い、民衆の元へ向かった。

 ジェフとエレナの二人が息絶えた瞬間、島の人間たちの胸にも同じ衝撃が走った。
 その心に、二人の死が、まるでガラスを通してみるようにまざまざと見えた。
 二人は、自分たちを救うため、また自らの罪を贖うために命を捧げたのだ。
 全ての人間が、武器を取り落とし、やがてそれはと土となって大地に還った。
 王族はそれまでの力を全て失った。
 全てが終わったのだ。
 「この国の歴史を話そう」
 クレストが、城の二階の回廊から民衆に語りかけた。
 長い話だった。二千五百年前まで遡り、今、エレナの死を告げた。
 「この国の守り神、ファリガーナとは、古い言葉で『海』を表す。五番目の王女は全てを海に還し、王国の終焉を招くであろう・・・五番目の王女、セレスティアは、エレナは、自らも罪を犯した。しかしその命をもって、王権も、我々の恩寵も、罪と罰も、全てをファリガーナに還したのだ。王女は戻らない。だが幸福のうちに死んでいった。・・・もう殺し合いはやめよう。これからは皆平等に国を治めるんだ。それが、ジェフとエレナの願いだ」






 「父さんが語れるのはここまでだよ」
 十年後――。
 クレストは幼い息子を膝に抱き、物語を語り終えた。
 「みんなはエレナを自由にするためにたたかったんでしょう?」
 「そうだよ」
 「どうして自由になって逃げなかったの?みんなの命が無駄じゃない」
 「それは」
 クレストは息子の頭を撫でながら言った。
 「エレナは自分の罪から逃れることはできなかったんだ。そしてこの世には、自分の命と引き換えにしてでも守るべきものがたくさんあるんだよ。エレナはみんなの命を守りたかったんだ」
 こつん、と、息子の額と自分の額を合わせて。
 「お前にもいつかわかるときがくる」
 ふぅん、と、息子は無邪気に頷いた。
 「じゃあ今度は父さんの話を聞かせて!」

 長い長い物語が、再び始まった――。

Bloody Crest
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選択 2

2013.08.24 (Sat)
 「エレナ!!」
 ジェフがエレナを抱きとめた。
 「あ・・・あ・・・」
 クレストは自分が何をしたか、震える手で弓矢を取り落とした。
 再び、地揺れが始まった。
 「エレナ!!」
 ジェフはエレナの胸から矢を引き抜いた。
 
 エレナの血は、あっという間に止まってしまった。

 恩寵は還されていない。
 まだ、終わっていないのだ。
 エレナは、弓矢に射抜かれた衝撃と矢に塗られた青蛇の毒の効力で気を失っているだけだった。
 「クレスト!!」
 ジェフが大声で呼んだ。
 「そんな・・・」
 クレストはエレナの横に膝をついた。
 「エレナはまだ生きてる・・・まだ終わってはいないんだ」
 「あなたは何者なんです?」
 「お前の父親は、ラクテウスだろう。カルロスと呼ばれていた男だ」
 「!? どうしてそれを――!?」
 「『俺は、胎違いのお前の兄、アライアスだ』」
 「その言葉――!!」
 クレストは、ジェフの話す古代語に驚きを隠せなかった。
 ジェフは、古文書とカルロスの日記をクレストに押し付けた。
 「『エレナは俺が引き受ける。お前は民に語り継げ。この国で何があったのかを』」
 地面が揺れ、ガラガラと天井が落ちてきた。
 「『ここにいてはあなたも、二人とも死んでしまう――!!』」
 「『彼女を殺さなければ全ては終わらない。そしてエレナを殺せるのは俺だ。行け!!』」
 「『ジェフ・・・!!』」
 「『行け!アクウィラス!!』」
 ジェフに背中を押されて、クレストは走り出した。

 「エレナ・・・」
 ジェフはエレナ頬をそっと撫でて、その名前を呼んだ。
 「ジェフ・・・」
 エレナは目を覚ました。
 「まだ終わっていないのね・・・」
 エレナの目から、安堵の涙が零れた。
 蛇毒に犯されているせいか、もはや虫の息に近かった。
 それと同時に、不安を口にした。
 「私をこの世で一番愛してくれてる人って誰かしら・・・」
 あれほど自分を想ってくれていたウィルは、もうおそらくこの世にいないだろう。
 ジェフはしばしの間黙っていたが、やがてエレナの髪を梳きながら言った。
 「俺だ」
 「え・・・?」
 「お前を、愛してる」
 「そんな・・・だって・・・」
 「信じられないか?無理もない・・・必死で隠してたからな」
 ジェフは苦笑した。
 「どうして・・・」
 「・・・わかってるはずだ」
 「私を・・・殺さなきゃいけないから・・・?」
 ジェフはエレナに口づけた。
 エレナの頬を、涙が一筋伝った。
 「私も・・・あなたを愛してる・・・。ジェフ・・・、私を殺して・・・・そして・・・逃げて・・・」
 「お前一人残して行くわけないだろう。もう二度と見失わないと言ったはずだ」
 ジェフは、エレナの髪を梳きながら優しく言った。
 「私・・・選んでしまった・・・あなたを・・・」
 「ああ。わかってる」
 「わかって・・・?」
 「古文書の最後の章を読み解くことができた。・・・五番目の王女はどんな選択をしても、歴史は繰り返さず新たな道を歩み、彼女を愛した者の手によって、全てが赦されるだろうと・・・書かれていた」
 俺は、エレナを愛し、殺すために生まれ、彼女を愛し、殺すために生きてきたのだ。
 ジェフは唇を噛んだ。
 「・・・私は・・・赦されなくてもいい・・・みんなが・・・生き延びてさえくれれば・・・」
 「・・・大丈夫だ。だが・・・お前には謝らなければならない・・・」
 「謝る・・・?」
 「・・・お前は王女だと、もっと早く言うべきだった」
 「そんなことないわ・・・」
 エレナは弱々しく笑った。
 「何も知らずにあなたと過ごせた時間、私は本当に幸せだった・・・」
 「そうか・・・」
 ジェフは微笑んだ。もう一つ、と、ジェフは後悔の念をにじませた。
 「お前を愛していると、もっと早く、伝えればよかった・・・。成長したお前と出会ってから、日に日にお前を愛する気持ちは強くなっていった・・・」
 「そうね・・・」
 エレナの頬には、涙が幾筋も伝っていた。
 「私は子供は産まないと決めていた・・・だけど、あなたの子なら・・・産みたかった・・・」
 ジェフはぎゅっとエレナを抱き締めた。
 「ジェフ・・・愛してるわ・・・子供のときから、ずっとあなたが好きだった・・・」
 素直になれなくて、ごめんなさい・・・。
 「ジェフ・・・」
 エレナは最期の力を振り絞って、ジェフを抱き締めた。
 「ああ・・・私、こんなにあなたを愛してる・・・」
 どうしてもっと早く素直にならなかったんだろう・・・。
 「もっと早く、言えばよかった・・・」
 「・・・俺もだ・・・」
 ジェフはエレナにもう一度口付け、震える手で剣を構えた。
 自分がエレナを殺さなければ、全ては終わらない。
 今まで何人もの人間を殺めてきたジェフも今、その罰を受けようとしていた。
 その手で人の、エレナの命を奪うことをがどれほど恐ろしいことか、改めて思い知った。
 自分の非力さも――。
 これほどまでに愛した女性を、自ら殺めるなど・・・。
 自分の命などどうなってもかまわない。何を失ってもかまわない。
 しかし、運命からは、どうやってもエレナを逃がしてやることができなかった・・・。
 自由になってほしかった。
 全てを忘れ、どこか遠い地で――。
 しかし・・・。
 「・・・エレナ・・・愛してる・・・」
 そしてそのまま、エレナの身体ごと、自分の心臓を剣で貫いた。
 
 全ての罪を自分が負うというエレナの願いは聞き入れられたのだ。

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選択 1

2013.08.17 (Sat)
 エレナはボロボロと涙をこぼして目を開いた。
 「私を愛してくれている人に・・・殺してくれと、頼めと・・・?」
 「そうです。そう契約しました。・・・ですが、そなたにも人を殺めた罪があります。生きて償ってもらう為に、別の選択肢を与えましょう。この国の民全ての命を取るか、そなたの最も愛する人間の命を取るか、選択しなさい」
 「そんな・・・!!」
 「どちらかを選べば、どちらかが滅びます」
 「そんな・・・!!もうやめてください、そんなこと!!私一人が全ての罪を負います!!子孫代々でもなく、私が!!」
 ファリガーナは微笑み、消えていった。


 ガクンッとエレナは現実に戻った。
 もう誰も死んで欲しくない。
 誰にも――。
 そのときエレナの目に入ったのは、ジェフに狙いを定めて弓矢を引き絞るクレストの姿だった。

 考える間もなかった。

 もうやめて――。

 エレナは、祈りの座から飛び降り、ジェフの前に飛び出した。
 何も考える間もなく、選んでしまった。
 ジェフを――。
 心から愛した人を――。

 青蛇の毒の塗られた矢は、真っ直ぐにエレナの胸を打ち抜いた。

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赤の紋章 4

2013.08.17 (Sat)
 「嫌です!!」
 リアーナは半狂乱になって叫んだ。
 「この子には何の罪もございません!!あるとすれば夫を止められなかった私に責めがあります!!どうか、どうかこの子だけはお許しください!!お救いください!!」
 絶叫するような声。命の恩人が、息子もろとも自分を残して目の前で死んでいったのだ。
 リアーナももはや正気を保ってはいられなかった。
 「それではそなたの命を、そなたをこの世で一番愛するものの手で殺めてもらいなさい」
 ファリガーナの目は、リアーナを抱き締めている男、エリオスへ向けられた。
 彼もまた、密かにリアーナを愛していたのだ。
 「・・・できない」
 エリオスは苦悶の表情を浮かべて答えた。
 するとリアーナは顔を上げた。
 「あなたは私を愛してくれていたのですか・・・?」
 「・・・そうだ」
 「なぜ」
 リアーナは泣き崩れた。
 「なぜ言ってくれなかったのです!!私もあなたを愛していました!!あなたを・・・!!」
 リアーナは赤ん坊を抱き締め、声を上げて泣いた。
 愛するものをその手で殺める辛さが、どれほどのものか。彼女は愛した男にそれを背負わせることもできなかったのだ。
 やがてリアーナは顔を上げ、ファリガーナを見つめた。
 「謹んでお願い申し上げます。一族の全ての罪は、私がこの身にに引き受けます。何度でも生まれ変わって、罪を償い続けます。一族全員で罪を償います・・・!!ですからどうか、この子と一族を、滅亡からお救いください・・・!!」
 リアーナの魂を込めた叫びは、神々の胸に響いた。
 そしてアスターが言った。
 「しかと聞き届けた。そなたの望み、叶えよう。そなたらをこの地の王となさん。民を守る為、その身体を特別に強くし、老いを止めよう。そしてそなたらは王として、一心に民の幸福のみを祈り続けるのだ。さすれば再び争いの起こる日は来まい。法を定め、統治するのだ」
 すると、今度はファリガーナが口を開いた。
 「しかし、そなたらの心が私欲に走り、民の心を思うことを忘れかけたとき、島のどこかで神の怒りが起こりましょう。民が病や飢えで命を落とすことがあれば、そなたらの罪は一層深くなることでしょう」
 そして、ファリガーナは一輪の花を摘み取った。
 リエンゼルという、世界中で死者に手向けられる真っ白な花だ。
 それをおびただしく流れた長老の血に浸し、赤く染めた。すると、見る見るうちに花は石となり、手の平ほどの大きさの首飾りができた。
 「これを贖罪の印として、王位を継承したものが代々身につけなさい。その他の者が王位欲しさにこれを奪うようなことがあれば、恐ろしいこととなるでしょう」
 リアーナがそれを受け取り、首にかけた。
 「これをもって、そなたをこの地の王となさん」
 アスターがそう言った瞬間、島全体が目も眩むような真っ白な閃光に包まれた。
 誰も彼もが、何も見えなかった。
 やがて光が収まると、王族以外の者が持っていた武器以外はみな朽ち果て、土に還った。
 波は荒れ狂い、王族の船以外の船はみな沈んでしまった。
 そしてリアーナが一心に祈った。
 「争いをやめてください」
 その声は、島中の人間全ての心に染み渡り、全てのものが武器を落とし、我に返り、自分たちの招いた惨劇を嘆いた。
 やがて全ての者たちは和解し、リアーナの許へと仕えるようになった。
 この大事件は、大陸の国にも伝わり、禁じられた島は神々に守られた島として知られるようになり、以後、どんな強国もこの島に攻め入ろうとはしなかった。
 リアーナとその一族――王族は、戦の傷を癒し、王国の設立に向けて尽力した。
 彼女は女王と呼ばれ、エリオスは、神々との会話をじかに見聞きしたものとして『言の葉の一族』――ウェルバ一族と呼ばれ、紋章官になった。
 また、王族の中でも、武芸に優れ、戦の折にはその通り道に死肉漁りの鳥がついて回るようになり、コルニクス一族と呼ばれ、護民官として騎士を民衆から募り、騎士団を結成した。
 この二つの一族は、やがて女王から執政官になるよう求められ、文武互いに協力しながら国を治めた。
 最後まで長老の一族に忠実であり、生き残った五家は、王族と呼ばれた。
 こうして、ベルスの王国の統治が始まったのだ。

 リアーナは毎月、満月の夜、戦の惨劇をまざまざと夢に見て目を覚ました。
 それが、戦の惨劇を忘れぬようにという神からの警告であり、呪いでもあった。
 リアーナは次第に精神を蝕まれていった。
 女王の息子が成人すると、彼女は首飾りを息子に引き継ぎ、自分は白痴のようになって早死にした。

 それ以来、王家に嫁いだ女性は、満月の夜に泣き叫んで目を覚ますようになり、ほとんどの者はみな、最期は物狂いのようになっていった。
 王家の婚姻の儀では、国王の血を葡萄酒に混ぜて杯を空け、そうすることで身体中の血が王家の血に変わるのだ。
 老いは止まり、文武に優れるようになる。
 たとえ女性であり稽古を受けずとも、体術、剣術に優れ、その国を守るべく特別な力を得る。
 そして彼女らは、一人だけ子を産むのだ。
 その王位継承者が生きている限り、彼女らは二度と子を身篭ることはない。
 彼女らはみな王家に嫁ぐ運命にあり、リアーナの生まれ変わりだとも言われている。

 時は過ぎ、約二千年が過ぎたが、大きな戦はこれまでに一度もなかった。
 その頃、初代の女王から数えて三番目の王女が生まれた。
 名をマリアンナと言った。
 彼女は生まれたときから物狂いのようで、剣が鳴る、人が泣く、と言って、常になかなか眠れなかった。
 そしてあるときこう叫んだ。

 「五番目の王女は全てを海に還し王国の終焉を招くであろう。五番目の王女はすべて海に還すべし」

 と。

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