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あとがき

2014.07.22 (Tue)
『The Pianist』終演です!
いかがだったでしょうか。
この物語も『赤の紋章』同様、高校生の頃から温めていたというか着想だけあった作品で、思い入れがあります。
が、まさかたった10話で終わってしまうなんて思わなかったorz
約6時間で書き上げたド短期集中型の私の執筆行為の結晶です(笑)。


ピアニストになる夢を断たれたノアと、
ピアニストへの夢を自分から捨てていたリリー。
一つの曲を通じて二人が精神的にピアニストとして成長していく様を読み取っていただければ幸いです。

ちなみに、『レクイエム』映画化の件は私の願望です(笑)。
アデーレの「月明かりで音楽の勉強をしていた」という逸話は
ヨハン・セバスチャン・バッハの幼少期の頃のものです(たしか)。

ファンタジーじゃない作品を書いたのは久しぶりなので、
作中に「インターネット」とか「ストリーミング」とかいう単語が出てくるなんて、
なんだか不思議( ̄∀ ̄-)
リアルものもいいですね。

リリーは耳もとても良くって、耳コピの天才でもあります。
そして演奏技術は右に並ぶものはいないくらいなので、
彼女に演奏できない曲は無いとさえ言えます。
やろうと思えば作曲やアレンジもします。
ラーツケラーの仕事で弾いてる曲はみんな自分で編曲しています。
要は天才ということです。

でも練習は血反吐を吐くほどまじめにやる人なので、
あの技術を保っていられます。
でも「才能」の一言で片付けられてしまうのが本人的にもつらいところだったりもします。
実際すごい才能の持ち主なので、どっちにも首をふれない。

ノアもその辺鈍感で、、惚れてからも微妙に嫉妬したりしています。
二人の関係がこの先どうなるかは読者の皆様のご想像に丸投げお任せします。

さあ、いかがだったでしょうか、新澤りおの『The Pianist』。
感想などお寄せいただけたら光栄に思います。


追記
ローテンブルクのラーツケラーにピアノがあるかどうかはわかりません。
ていうかないと思います( ̄∀ ̄;)
そもそもローテンブルクにラーツケラーがあるのかどうかさえわかりません。
あっても旧市街の外だと思われ。
作り話なので大目に見てやってください!!



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第九話

2014.07.22 (Tue)
 それからリリーは音楽事務所と契約を結び、世界中に演奏旅行に出かけることになった。
 もう迷いはない。
 自分の音楽をより多くの人に聴いてもらうのだ。
 その姿は、志半ばに倒れたアデーレの遺志を継ぐようだった。

 一年後、リリーはドイツに帰ってきた。
 久しぶりにラーツケラーに顔を出すと、厨房やウェイターのみんなが彼女の活躍を祝福してくれた。
 「何か弾いてくれよリリー!」
 「オッケー。何がいい?」
 「ぺトルーシュカ!」
 「好きね、あんたたち」
 あの難曲は、ピアノが弾けない人間からすると、曲芸に近い。
 ぺトルーシュカの物語は別として、見ているだけで楽しい気分になれる曲だ。
 彼らが喜んでくれるなら、と、リリーは弾き始めた。
 そこへ、折りよくノアもやってきた。

 ぺトルーシュカは、夢と現実の区別のつかなくなった人形の悲しい最期で曲は幕を閉じる。
 ノアは、ぺトルーシュカと自分が重なり合って見え、辛くなった。
 リリーに会えなかったこの一年、彼女への思いは日に日に強くなるばかりだった。
 彼女とともにフェルマーの新曲についてやりあった日々は夢だったのか。
 そして神業とも呼べる技巧を持つ彼女に思いを寄せることなど、自分に許されるのだろうか。
 ただ、彼女のいない空虚な日々が本物の現実だった。
 もう、この思いを抑えることは不可能だった。
 ノアはラーツケラーの仲間たちがいることにも頓着せずに、リリーに跪いた。
 「リリー、君が好きだ。結婚してほしい」
 夢か現実か。
 区別がつかないのなら無理やりにでもつけてやる。

 半年後。
 ノアは『レクイエム』を指揮したとき、聴きに来ていた音楽大学の理事長の目に留まり、大学で指揮の講師をすることになった。
 それと同時に演奏活動もしている。
 今日はノアの指揮するオーケストラとリリーの共演の日だ。
 「待ってくれよリリー!」
 「何でピアニストが指揮者を待たなきゃいけないのよ」
 リリーは笑顔で振り向いた。
 あの日、リリーはノアの求婚を断った。
 「時間をちょうだい」
 リリーはそう言った。
 そう言ってから、早半年。
 その間にも、リリーは演奏活動で忙しくしていた。
 「諦めないって言ったろ!」
 「しつこい男は嫌われるわよ」
 今日は久しぶりにミュンヘンでの公演だ。
 真紅のドレスをまとったリリーは輝かんばかりで、行く先々でオーケストラのメンバーたちも振り返るほどだった。
 ノアは大変な人に恋をしたものだと思っていた。
 しかし、逃してなるものか、この女性を――。
 ノアは次なる作戦に虎視眈々と思いをめぐらせた。

 フェルマーの新曲は世界中で大ヒットして社会現象にまで発展し、『レクイエム』を題材にした映画も作られることになった。
 リリーのピアニストとしての活躍も目覚しく、ひとつの役目を終えたノアは、もう自分の存在意義を疑うことをしなくなった。


 僕の存在意義はもう、君を愛すること以外にないんだから――。


The Pianist




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第八話

2014.07.20 (Sun)
ノアは、リリーが日本にいることも知らずに毎日彼女の家を訪れた。
しかし、仕事も休んでおり、まさかまたリリーは姿を消したのではないかと暗い想像に取り付かれていたころ、彼女の家からピアノの音が聞こえてきた。
リストの超絶技巧練習曲に、ストラヴィンスキーのぺトルーシュカからの三楽章。
なんて技術なんだ。
そしてこの妙(たえ)に美しい音色。

リリー、僕はやっぱり、何度だって君を誘うよ。
君にしかあのレクイエムは弾けないよ。

ちょうど曲が終わるころ、玄関の呼び鈴が鳴った。
リリーが出ると、ノアが立っていた。
リリーは何も言わずに彼を中へ通した。

「母が亡くなったの」
唐突に、リリーは話し始めた。
「それで、ここしばらく日本へ行っていたわ」
「ああ、それで毎日いなかったのか・・・」
「毎日?」
「そう。僕はこの間のことを謝りたくて、毎日君の家を訪ねたよ。でも誰もいないから、また君が姿をくらましたんじゃないかって思ってね」
「それも考えたわ・・・。でも、もう逃げない。私、ピアニストになる」
リリーは晴れ晴れした笑顔で言った。
「えっ、じゃあ・・・」
「フェルマーの新曲、引き受けるわ」
リリーは日本で両親に言われたことを話して聞かせた。
「一番聴いてほしかった人はもういないけど、世界中の人が待ってるって言ってもらえた。それだけで、頑張れる」
私って単純でしょ、と、リリーは屈託なく笑った。
リリーがこんなに明るく笑うのを、ノアは初めて見た。

その後、ベルリンのフィルハーモニーホールを会場に決め、リリーのリサイタルが決まった。
超人気のホールの為、スケジュールがかなり先まで埋まっていたし、かなり待たなければならかったが、フェルマーの死後、初めて見つかった新曲の世界初演、そしてチャイコフスキーコンクール最年少優勝者のリサイタルとのことで、チケットはすぐに完売した。

そして待ちに待った当日は、『レクイエム』とだけあって、リリーは黒いドレスで登場した。
ノアは彼女が着飾り、本来あるべき姿に戻ったことに感激の念を禁じ得なかった。
そしてまた、ひそかに彼女に思いを寄せていることに気づき始めていた。

『レクイエム』の演奏前、リリーは短いスピーチをした。
この曲が出来上がるまでの過程、なぜ封印されていたのかを、かいつまんで聴衆に話して聞かせた。
そして、音楽が始まった。

妙に優しく、切なく、美しい主題の数々。
聴衆はあっという間に曲に引き込まれた。

ピアノを弾きながら、リリーは再びステージに戻れたことに震えるほどの喜びを感じていた。
自分にできることは、これだ。
先人たちの遺した偉大な音楽を、現代に伝えること。
リサイタルは大盛況のうちに終演を迎えた。

そのしばらく後、ノアの指揮するオーケストラとのコンチェルト版のコンサートも開かれたが、こちらも大盛況だった。
ノアはフェルマーのひ孫として一躍脚光を浴びた。
どちらも音楽史に刻まれる一夜になった。

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第七話

2014.07.15 (Tue)
一人部屋に残ったリリーは頬を伝う涙をぬぐった。
そして、ピアノの鍵盤のふたを閉じた。
ここまできたのだ。
あながち才能がないわけではないと思っていた。
毎日八時間も練習して技術を保っているのも、何の為かわからなくなってきた。
ピアノを弾きたいから――その思いだけで、ここまでできるだろうか。
リリーは自問した。

違う。

自分はもう一度あのステージに戻りたいのだ。
数々の名曲と共に客席と一体になって音楽を感じたい。
ピアニストになることが、幼いときの夢ではなかったのか。
母のため?自分のため?
そのとき、電話が鳴った。

母が病に倒れ、危篤状態にあるとの報せだった。

リリーはためらいながらも、日本へ向かった。
ハーフのリリーは東京の人ごみの中でも美しく際立ち、通行人はみな彼女を振り返った。
モデルになってもいいような容姿。
それでも彼女はピアノを選んだ。
母の入院する病院にたどり着くと、父も来ていた。
「父さん」
母の病室には面会謝絶の札が下がっていた。
「リリーがくれば入らせてもらえると聞いた」
程なくして、看護師が部屋を開けてくれた。
「涼子さんは大変危険な状態にあります。もしかしたら、最期のご対面になるかもしれません」
リリーは看護師に一礼して、病室に入った。
「母さん」
さまざまなチューブに繋がれ、酸素マスクをした母は、見る影もないほどやつれ果てていた。
「リリー・・・?」
涼子はうっすらと目を開けた。
「来てくれたのね・・・。ありがとう」
「母さん、父さんも来てるわよ」
「あなたまで来なくてよかったのに」
「リョウコ・・・・」
「リリー・・・、ピアノは弾いてるの?」
「え?」
思いもよらぬ質問に、リリーは聞き返した。
「あなたがいなくなってから、あなたのピアノが聴けなくなって、母さん、とても寂しかったわ」
ぽろぽろと涙をこぼしながら、涼子は続けた。
「あんなにあなたのピアノに救われていたのに・・・、気がつかないなんて、私って馬鹿ね・・・」
リリーの瞳からも涙があふれた。
なんだ、私のピアノは母さんに届いていなかったわけじゃないんだ。
ちゃんと届いていたんだ。
「ピアノはまだ弾いているの・・・?弾いていないなら、弾きなさい・・・。あなたのその才能は神様からいただいたものなんだから・・・」
「・・・わかったわ」
リリーは母の手を握り、しっかりとうなずいた。
「ディルク」
涼子は父の名を呼んだ。
「私、もう先が長くないわ・・・。リリーのこと、頼んだわ」
「ああ、わかったよ」
「リリー」
最期に、涼子はもう一度娘の名前を呼んだ。
「来てくれて、ありがとう」
「母さん。私、今度フェルマーの新曲の世界初演をしようと思うの。聴きに来て?」
リリーはこぼれる涙を必死に抑えながら、母に話しかけた。
「それは・・・、行きたいわ・・・楽しみにしてる・・・」

程なくして、涼子は他界した。

日本での葬儀を終え、ドイツに帰る途中、父が言った。
「フェルマーの新曲だって?」
「ええ。知り合いがぜひ弾いてほしいって。チャイコで優勝した私のこと覚えててくれたんだそうよ」
「弾きなさい。弾けるのなら。世界中の人が待ってるよ」
父は力強くリリーの肩を抱いた。

ドイツに帰ると、リリーはピアノを弾き始めた。
日本にいる間に少しなまってしまった。
練習曲を何曲か弾いて、『ぺトルーシュカからの三楽章』を弾いた。

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第六話

2014.06.29 (Sun)
「いいよ。聞かせてよ」
リリーは髪をかき上げて、ポツリポツリと話し出した。
「私は、日本人の母とドイツ人の父との間に生まれたわ。両親は私が二歳のときに離婚した・・・。私は母に引き取られて育ったけど、母は毎日泣いて暮らしていたわ。私はそんな母を見ていられなくて、家にあったピアノを弾き始めたの。母が少しでも笑ってくれるようにって。三歳のときだそうよ。父はサックス奏者だったから、音楽の血が私にも流れていたんでしょうね。学校にも行かずに毎日十二時間も練習して、昔から手が大きかったことも幸いして、七歳の頃にはリストの超絶技巧練習曲を全曲弾けるようにはなったわ」
「七歳で!?」
ノアは度肝を抜かれた。
「ええ。母はそれは喜んでくれたわ。いろんなコンクールにも出たし、リサイタルも開いた。そのたびに、母は喜んで褒めてくれた。でも、ある日、聞いてしまったのよ」

十数年前――。
「いやあ、素晴らしい才能の持ち主のお嬢さんですね」
海外コンクールへの遠征の数日前、旅行会社の担当者と保険金の話をしているのがリリーの耳にも入ってきた。
「そりゃあ、あの人の子ですもの。これくらいしてもらわないと。賞金だっていつまでもあるわけじゃないんだからどんどん次へ次へ出てもらわないと」
「・・・それは、賞金目当てでお嬢さんをコンクールに出場させていると?」
「他に何があるの。稼いでもらわなきゃ、あのお荷物を引き取った意味がないでしょ」
母親は鼻で笑った。
「豚もおだてりゃ木に上るって、よく言ったものね」
旅行会社の担当者は気まずそうな笑みを浮かべて本題に入った。
「海外の渡航には念のため、保険をかけていただいた方がよろしいのですが――」
「ええ、いつもそうしてるわ。たっぷりかけて頂戴」
母親はタバコをふかしながら微笑んだ。
「お金になることなら何でもするわ」

「それが、あのチャイコフスキーコンクールの直前だった・・・」
現在。
「私はずっと母の笑顔のために弾いてきた。でも、母はそんなのどうでもよかったのよ。私、もうどうでもよくなっちゃって・・・。母のために弾いていたのに、それができなくなってしまった・・・」
自分の音楽の目的が何なのか見失うことの辛さが、ノアには痛いほどわかった。
彼女も自分の存在意義を見失ったのだろう。
「そんな状況でもチャイコでは勝ってしまったけどね。どうしてあんなにいい演奏ができたか自分でもわからないわ。でもそれから一時期はピアノを弾けなかった。でも、ピアノから離れられなかった。私はチャイコの賞金を母に渡さずに自分のものにして、父のいるドイツに移り住んだの。日本語も話せるから、日本人観光客の多いローテンブルクでは重宝されるわ」
「ミュンヘンであんなに楽しそうだったのは・・・?」
「・・・コンチェルトも何度も経験したわ。ソロも楽しいけど、オケと一体になって弾く楽しさはまた別のものがあるでしょう。ああいうバンドに入って弾いていると、その楽しさを思い出すのよ」
しばらく沈黙が流れた。
「やっぱり、このレクイエムは君にしか弾けないよ」
「どうして」
「君は絶望も喜びも知ってる。僕だって弾けなくても譜読みくらいはしたんだ。君の天性の才能なら、もっと深くまで読み込めるはずだ」
リリーはレクイエムの楽譜をじっと見つめていたが、やがて、
「・・・わかったわ」
と、小さくうなずいた。

十日後、ノアはリリーの元を訪れた。
「調子はどうだい?」
「ピアノ・ソナタの方は大丈夫だと思うわ」
楽譜も広げずにリリーは言った。
もう暗譜してしまったのだ。
「不安から始まって、喜びに至り、叶わぬ恋に苦しみ、息絶える――」
リリーは音楽を奏で始めた。
妙(たえ)に優しく、切なく、悲しみで満ちていた。
寄せては返すアルペジオの波。
約三十分、リリーは弾ききった。
あまりの美しさに、ノアはしばらく口を利くのを忘れていた。
「君は天才だ!わかってたけど!」
「大げさよ」
「僕、ベルリンフィルのコンマスと顔見知りなんだ。コンチェルトやってみようよ!!」
「だめよ。私は二度と表舞台には出ないって――」
「ギャラは弾んでもらえると思うよ。何てったってフェルマーの新曲の世界初演だ」
そこまで言って、ノアはハッとした。
「帰って」
案の定、リリーは元の冷たい表情に戻っていた。
「お金のためにピアノを弾きたいんじゃない!!」
「でも君も音楽で食ってる身じゃないか」
ノアは自分の主張を何とか正当化しようと口を尖らせたが、逆効果だった。
「それしか取り柄がないからよ!私はお金のために利用されるのはうんざりなのよ!」
「利用しようなんて思ってない!ただ僕は――」
ノアは口を挟もうとしたが、リリーの逆鱗に触れてしまった今、どうすることもできなかった。
「何のために今までのキャリアを捨ててこんな風に隠れて暮らしてると思ってるの?あなたならわかってくれると思った。期待した私が馬鹿だったわ」
リリーの頬を涙が伝っていた。
「この曲を弾くという約束は果たしたわ。もう二度と私の前に現れないで」
ノアは自分の失言を全力で謝ったが、許してもらえなかった。


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