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The Beginning あとがき

2014.02.16 (Sun)
終了しました、赤の紋章番外編、カルロスの『The Beginning』。
もとはといえば、ONE OK ROCKの同名曲に感化されて書き始めたものなのですが、
ずいぶん別物になりました。

カルロスは二人奥さんがいたということで、
私の中では女好きというレッテルを貼られていたのですが、
実際そうでもなかったようです(^^;)
書いてみてわかったけど、最初の奥さん、エリーナをずいぶんと愛していたようです。
作中にもありましたがデーナのことも愛していなかったわけじゃない。
ただ置いて行くしか選択肢はなかったのです。
デーナはカルロスに対する執着心が強く、心身共に崩壊してしまいました。
死よりも辛いことかもしれません。

王族でありながら50歳という若さで旅立ったカルロス。
何故彼が瞬く間に疫病に感染し、命を落としてしまったのかは謎のままです。
きっとそういう運命だったのでしょう。

そしてカルロスに関して特筆すべきは、予知能力があったかもしれないという点。
夢に見たよく知る人物が剣に倒れるというのはジェフのことです。
ジェフが死んでしまったら紋章官一族の遺志を受け継ぐものがいなくなってしまう――。
そう直感で感じとって、第二子をもうける決意をしたのかもしれません。
エリーナの死後、カルロスも心身共に消耗しつくしていたのも事実。
デーナが彼の慰めになったのも事実でした。
ただ、ハッピーエンドで終わらないのが悲しいところ。
カルロス自身は、最期は二人の女性と二人の息子を想いながら死んで逝きました。
そこだけは、救いかな・・・?
デーナはかわいそうでしたね。
もっとかわいそうなのはクレストか・・・。
よくぞ健全に育ってくれました(T∀T)

というわけでお楽しみいただけましたでしょうか、『The Beginning』。
まさかのエレナ編を追い越してのスピード完結でした。

ここまでお読みくださってありがとうございました!

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The Beginning 7

2014.02.16 (Sun)
「この村に入ったらだめだ!」
村の入り口で、カルロスは村の男に足を止められた。
「疫病が蔓延してる」
「もうか?」
カルロスは口元をぼろきれで覆いながら尋ねた。
「もう?」
男は怪訝な顔をした。
「あんたは感染していないならここを離れた方がいい」
それだけ言い残すと、カルロスは村の医者の元へと向かった。
途中、焼け焦げた家を何件も目にした。
感染者や死体を家ごと焼いたのだろう。
通りに人通りは全くなく、閑散としていた。
「医者はいるか」
施療院まで来ると、カルロスは呼びかけた。
やがてふらりと現れたのは、まだ若い男だった。
名をレイと言った。
「・・・生きてる人間がいたのか」
レイは初めて人間を見るような眼で言った。
「疫病の状態は?」
「誰だ?」
「カルロスという。この村で疫病が流行っていると聞いてやってきた」
半分嘘だ。
すべては文献に記されていたことだ。
来るのが遅くなったことをカルロスは悔いた。
「村の半分の人間が死んだ。残りの半分も感染してる」
「死体は?」
「家ごと焼いてる」
「状況を見れる死体はないのか」
「何するつもりだ?」
「いいから教えてくれ」
「見れば後悔するぞ」
「承知の上だ」
レイはカルロスを一軒の家に案内した。
そこには、顔中を腫れあがらせた死体が横たわっていた。
「ある日高熱を出して倒れたかと思うとそのまま息を引き取り、死後、なぜか顔が腫れあがる」

『最北の大地に道化の面が被せられる』

古文書の一文だ。
これを道化の面と呼ぶなら酷いことだ。
「ブレウェだ」
カルロスが呟くように言った。
「何だって?」
「ブレウェという名の病だ。発症してから死に至るまでの期間が短いだろう?」
「どうして知ってるんだ」
「今はどうでもいいことだ。薬草を探すぞ」
カルロスとレイは家を出ながら話した。
「薬草って、治るのか?」
「治るはずだ」
「どんな薬草だ?」
「サリクストという草はあるか?」
「ないよ。初めて聞いた」
「探すぞ。柳の葉に似てる」

サリクストの葉は、その日の夕方に見つかった。
しかし、カルロスの体に異変が起こった。
「これを・・・すり潰して・・・飲ませろ」
カルロスが感染してしまったのだ。
朦朧とする意識の中、カルロスはレイに言った。
「カルロス、ひどい熱だ。あんたまで――」
遠くでレイの声が聞こえる。
しかし、カルロスはジェフとクレスト、デーナ、そしてエリーナの幻影を見ていた。
四人とも幸せに笑っていた。
ああ・・・、俺は果報者だ・・・。
「俺は、俺のことは、いい・・・。早く村人に・・・」
それだけ言うと、カルロスは意識を失った。
レイは摘んできたサリクストの葉を急いで薬研に放り込み、細かくすりつぶし、水で薄めて村中を回った。
すると、今にも死にそうなほどの高熱を出していた村人たちはたちまち目を覚まし、死の淵から生還した。
レイはカルロスにも飲ませなければと、施療院に戻ったが、必要な薬水の半分の量しか残っていなかった。
それでも、最後の一滴までカルロスに飲ませたが、彼は目を覚まさなかった。
「カルロス!カルロス!!」
幾度名を呼ぼうと、カルロスが目を開くことは二度となかった。

その後、村人たちは薬が間に合わずに死んでしまった者たちを皆火葬し、荼毘に付した。
その中にはカルロスも含まれた。
それからというもの、オソからは人の姿が消え、疫病の知らせを受けた国が村を閉鎖しにやってきた。
その中に、ジェフがいた。
ジェフは生き残った村の医者であるレイに詰め寄った。
ジェフにもオソで流行るであろう疫病の予兆は見えていたのだ。
「ここに男が来なかったか。カルロスという男だ」
「・・・ああ、来たよ。俺たちを救ってくれた」
それを聞いたジェフはほっと胸をなでおろしたが、それもつかの間だった。
「今はどこにいる?」
「・・・死んだよ」
「何?」
「感染してしまったんだ・・・あれに。だけど、彼の遺体は自然な姿のままだった。なぜかはわからないけれど」
ジェフは何か重いもので頭を殴られたような気分になった。
カルロスが、死んだ。
父親が・・・。
王族は病気にかからないわけではない。
しかし常人より体力ははるかに優れているため、抵抗力も強い。
それが、なぜ・・・。
まだ50歳になったばかりではなかったか。
あまりにも早すぎる父親の死に、ジェフは茫然と立ち尽くした。
「あんた、カルロスを知ってるのか?カルロスとどういう関係だ?」
「・・・ただの知り合いだ」
精いっぱいの嘘だった。
カルロスが紋章官一族しか知らない方法でこの村を救ったのなら、自分がその息子だと告げるのはあまりに危険すぎた。
「カルロスはどうしてあの疫病のことを知っていたんだろう」
もはやレイの言葉はジェフの耳に入らなかった。

オソの村を閉鎖し、王都へ帰ったジェフの様子がおかしいことに、クレストは気がついた。
「長官?どうかされたのですか」
「いや」
静かな怒りを湛えたその瞳に、クレストは一瞬たじろいだ。
「お疲れでしょうから、よく休んでください」
「ああ、すまない」
ジェフはその場を後にした。
残されたクレストはその背をじっと見つめていた。
なぜだろう、ジェフを見ていると何となく父親を思い出すのは。
あまり記憶にも残っていないその横顔が、クレストの胸を騒がせた。


カルロスの生涯はこうして幕を閉じた。
エリーナを深く愛したカルロスだったが、デーナのことも決して愛さなかったわけではない。
デーナは死ぬまでカルロスの面影を他の男に求め続けたという。
二人の息子たちは複雑に絡んだ運命の糸に捕えられ、やがて互いの素性を知ることになる。




The Beginning


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The Beginning 6

2014.02.16 (Sun)
「クレスト?」
「西部から来た奴なんだが、あいつもかなりだ」
気まずくならないよう気を使って話しているジェフは、カルロスが驚いている様子に気付かなかった。
それがあのクレストなのか確証がない今、カルロスは弟の存在を明かすべきかどうか迷った。
下手にそのクレストという男に近づこうとして、ジェフの正体がばれてしまったり、弟探しの旅にでも出て、ジェフが王家の豪遊を根本から食い止めようとしているのを妨げてしまうようでは本末転倒だ。
「ただちょっと口うるさくてな。俺が今回無理に休暇を取るのもあいつに散々気をもまれた」
「お前を慕ってるんだろ」
「だといいんだがな。お前には長官という自覚が足りないとかってコルニクスにもよく言われるよ」
皮肉るように笑ったジェフに、カルロスは再び驚きの念を禁じ得なかった。
「コルニクスと関わりがあるのか」
「あるだろ。本部の長官なんてやってれば」
「・・・憎くないのか」
自分たちが、普通に家庭を持って暮らすこともできなくした張本人の一族。
何百年も前、コルニクス一族に陥れられ、現在の紋章官一族の境遇がある。
「憎いさ。憎くても、今は王家を何とかする方が優先だ。これじゃいつまでたってもあんたの仕事が終わらない」
ジェフは静かに言った。
「・・・俺にもいつか“終わる”時が来る。そのときは――」
「わかってる。俺が引き継ぐ」
「もしもの話だが、お前の正体ばれて、追われる身になった時は、ここに身を隠せ」
「ああ、そうさせてもらう。・・・ときに、ガルシアは?どうしてるか知ってるか?」
「わからない。あいつの子孫のこともある。ガルシア一族にも生き延びてもらわないとな」
ウェルバ一族ばかりが世話になって、ガルシア一族が滅んだなんてことになったら俺たちは死んでも死にきれないな、と、ジェフは真剣に言った。
「そのうちにまたオプタリエの外で行き会う予定だ。お前の近況も伝えておくよ」
「ああ。よろしく伝えてくれ」
そう言うと、ジェフは立ち上がった。
「もう行くのか?」
「ああ。実は休暇は今日が最終日だ。あんたを探すのは本当に骨が折れる仕事だった」
「一つ聞いてもいいか?」
「何だ」
「なぜ、俺に会いに来た?」
「・・・・・・」
ジェフは一つ考えてから、ため息をつくように言った。
「父親を探しちゃ悪いか?」
「いや悪かないが」
「さっきも言ったが、俺は自分の境遇をあんたのせいだとは思っていない。ただ、記憶できる歳になってから死ぬ前に一度くらい父親の顔を拝みたいと思っただけだ。あんたの動向も気になったしな」
またそのうち会おう、と、ジェフは外套をひっかけた。
「気をつけろよ。特にコルニクスには」
「わかってるよ」
外に出ると、日はすっかり沈んでいた。
こりゃ休暇延長だな、と、ジェフは独り言を言った。
「あんたも、災害目指してばかり動くんだ。気をつけろよ」
「ああ」
馬にまたがったジェフにカルロスは手を差し出した。
「また会おう」
「ああ」
その手を握り返し、一つうなずくと、ジェフは馬のわき腹を蹴り、闇夜の中へ消えて行った。

一人に戻ったカルロスは、我知らず涙がこぼれるのに気がついた。
生きていてくれた。
それだけで十分だった。
それから、額に当てていた手を外し、空に向かって息をついた。

――エリーナ、ジェフは逞しく育ったよ。

ジェフの元にいるクレストという男も、息子なのだろうか。
デーナは今どうしているのか・・・。
カルロスは白い吐息とともに小屋の中へと戻って行った。

数ヵ月後、サルトゥスの危機は去った。
サルトゥスを出る準備をしていると、アールという若い村の医者が、カルロスを引きとめるために息せき切ってやってきた。
それからが大変だった。
カルロスはアールを何とか説得して、納得させると、そうだ、と思いついた。
荷物の中から暗号を書いた日記を取り出し、アールに渡した。
「アール、これを、俺の息子に渡してやってくれないか」
「あんた結婚してたのか!?」
アールは見当違いな方向に驚いていたが、了承して引き受けてくれた。
「俺の息子はこの村に来る時には、もしかしたら誰かに追われる身になっているかもしれないが、悪い人間ではない。だがもしかしたら相当の人間不信になって、何か無礼を働くかもしれないが、俺に免じて許してやってくれ。・・・だがあいつはここに来る日が来るだろう。それまで、預かっていてほしい。もし他の誰かに奪われるようなことがあれば、燃やしてしまえ。それくらい、大切なものだ」
アールは事の重大さを受け止め、しっかりと頷いた。
「じゃあな。またいつか顔を出すよ」
カルロスはアールに笑いかけ、村を出て行ったが、サルトゥスの地をその足で踏むことは二度となかった。

カルロスはオソという村にやってきた。
ちょうど50歳になろうとしていた頃だった。
次の疫病はこの村で流行るはずだ。
しかし、カルロスがオソに足を踏み入れた時にはすでに疫病が発生していた。

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The Beginning 5

2014.02.15 (Sat)
さらに何年かが過ぎた。
二人の息子たちはどうしているか、無事に育っているどうか、カルロスは片時も忘れはしなかった。
しかし王族の豪遊が激しさを増すと同時に、国中で災害が相次ぎ、彼も多忙を極めた。
二人の息子のことは気がかりであったが、彼は自分に課せられた使命を果たすことだけに専念した。

あるとき、カルロスは旅の道中で騎士団の本隊と出くわした。
おたずね者であるわけでもないが、殲滅の命が下されている一族の身としては避けたい集団だった。
ひっそりと姿を消そうとしたそのとき、信じられない声が聞こえた。
「レヴィナス!ジェフリー・レヴィナス!!」
振り向くと、若い騎士が、隊長のもとへと向かうところだった。
レヴィナスとは、カルロスの母親の旧姓だ。
カルロスは、いわば偶然に、エリーナとの息子を目にした。
数年前に行き会ったガルシアの話では、ジェフも紋章官一族として生きる選択をしたとのことだった。
それがまさか、騎士団に志願しているとは――。
もし、正体がばれれば殺される。
それを承知で騎士団に身を置いているのだろう。
ジェフの表情は硬いまま、周りと一線を引いているようにも見えた。

カルロスはジェフに話しかけることもなく、野宿の準備をしていた。
あいつはきっと、いつか追われる身になるだろう。
そんな予感があった。
そのとき、自分がしてやれることは――。
弟のことも告げていない。
兄弟で、この国の運命をたどっていけたら・・・。
一人で背負うより、はるかに心強い。
カルロスは何も書かれていない羊皮紙の本を取り出すと、日記をつけ始めた。

一方、置き去りにされたデーナは、毎日泣き明かして暮らした。
酒に浸り、クレストの面倒も見なくなった。
そして、旅籠に男を連れ込んでは、カルロスの面影を探すように、狂ったように男を求めた。
やがて一人の男がデーナのもとに入り浸るようになり、男は邪魔もののクレストを毎日殴り、蹴り飛ばし、さんざん痛めつけ続けた。
クレストは容姿がデーナと似ていたため、デーナは置き去りにされた自分とクレストが重なり合って見え、余計にクレストに触れようとしなかった。
そんな中でも、クレストは心身共に健全に育ったが、12歳でようやく紋章官一族として生きることを決め、家を飛び出した。
そのあとは、方々を旅してまわり、様々な下働きをして食い扶ちを稼ぎ、騎士団への志願が許可される15歳までを過ごした。
15歳の秋、クレストはベルス西部の騎士団の分隊に配属された。
そこで剣術を学び、優れた頭脳を持ってして頭角を現し、10年後、本部に異動になった。
西部から旅をして、王都にある騎士団本部に入隊した当日、クレストは信じられないものを見た。
先輩騎士が、長官に対し、物怖じすることなく激しい口調で何かの問題について議会への審議を申し立てていたのだ。
「もうよい、レヴィナス」
低く冷たい声がしたと思ったら、クレストは慌てて頭を下げるように言われた。
コルニクス執政官だった。
「西部からの新入りを見てやれ。それがお前の仕事だ」
レヴィナスと呼ばれた騎士は、息を切らしてコルニクスを睨みつけていた。
その横顔に、クレストは何か懐かしいものを覚えた。
しかし、レヴィナスがつかつかと自分の方へやってくると、畏怖の念の方が強く現れ、慌てて頭を下げた。
「着いて早々こんなで悪いな。ジェフリーだ」
先輩騎士は、クレストに手を差し出した。
「クレストといいます。よろしくお願いします」
お互いが異母兄弟であるとも知らず、二人は固く握手して挨拶を交わした。
「俺が、しばらくお前の剣術の稽古をつけてやる。西部と本部では差があると聞くからな。どちらが上か楽しみにしている」
「いえ、自分はそんなに強い方では――」
「謙遜するな。噂は聞いてる。西部では主力部隊の一人だったんだろう?うちでも頑張ってもらうぞ」
「は、はい!」
ジェフの人を包み込むような人柄に、クレストは畏怖の念を抱くとともに尊敬の念も覚えた。

ある冷え込みの厳しい冬、カルロスはサルトゥスの村にいた。
次の災害が予言されているのはこの村だった。
犠牲者が出るまで待つのは辛いことだが、今はそれしか手立てがなかった。
ある日、サルトゥスからほんの少し北へ出た時だった。
「おい」
数歩離れたところで、カルロスは男に声をかけられた。
振り向くと、そこに立っていたのは、数年前に見かけた自分の息子だった。
しばらく、お互いに何も言わず立ち尽くしていた。
「その様子だと、あんたが親父だな?」
ジェフが先に口を開いた。
あまり人好きのする風貌ではない容姿が、二人ともよく似ていた。
「ジェフか?」
「そうだ」
「・・・そんなに若いのにそこまで苦労を背負いこむなよ」
ジェフの眉間のしわを見て、カルロスは気の毒そうな声を出した。
「誰のせいだと思ってるんだ!!」
ジェフは思わず怒鳴り声を上げた。
しかし、表情は緩み、ほんの少し笑顔も見せた。
「立ち話も難だ、こっちだ」
カルロスは先に立ってサルトゥスの村に入り、森の奥の小屋に息子を誘った。
「ここは?」
「うちの一族に残された隠れ家の一つだ」
暖炉に火を入れながら、カルロスは答えた。
「どうやって俺を見つけた?」
「起こるはずの災害が事前に食い止められた場所をたどって行った。次はここだろう」
ジェフはガタつく椅子を勧められ、それに腰かけながら言った。
「よくわかったな」
「お陰さまでな」
ジェフは懐から古文書を取り出して、軽く振って見せた。
「騎士団にいるんだが――」
「知ってる」
「知って――?」
ジェフが目を見開くと、カルロスはおかしそうに笑った。
「数年前だ。偶然見かけた」
「どこで?」
「さあ、どこだったかな。移動中だったから村の名前まで覚えていない。だが、お前の名前とレヴィナスの姓を呼ぶ声が聞こえて、立ち止った。・・・俺に似て気の毒だな」
「声をかければよかったのに」
「お前な、旅の道中の見知らぬ人間に声なんかかけられたらどうするつもりだ?」
ん?と言われて、ジェフはああそうかと納得した。
「俺たちは、できるだけ分散している方がいい。生き残る確率も高い」
生き残る――。
この国が終焉を迎えるまで、決して途絶えさせてはならない血。
生き残ることも、紋章官一族にとっては大切な使命だった。
「今は長官になった。何とかして国王をどうにかしようとしてる」
「長官・・・よっぽど腕が立つんだな」
カルロスは頼もしげに息子を眺めた。
「ガルシアのおかげだ。ガルシアが出て行った後、何度夜盗やらに襲われたか分からない」
そのたびに、ジェフは剣を揮ってきた。
夜盗に――。
カルロスの脳裏に、エリーナが殺された夜のことが思い出される。
「あんたのせいじゃない」
ジェフが、静かに言った。
「おふくろがが殺されたのは、あんたのせいじゃない。少なくとも俺は、あんたのせいだなんて思っていない」
その言葉が、長年カルロスを縛りつけていた呪縛から解き放ってくれたかのように、彼の心の何かが融けて行くのを感じた。
しかし、エリーナとジェフから目を離した自分のことは、いまだに許せなかった。
「俺の後輩に、クレストという若い騎士がいるんだが」
ジェフが無理に話題を変えようとして言った。
しかしその言葉に、カルロスは言葉を失った。

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The Beginning 4

2014.02.12 (Wed)
あれから8年が経った。
カルロスは度重なる死線を潜り抜け、また自らの贖罪でもあるかのように、民の命を救い続けた。
ウィンザという街で休息をとっている時、カルロスは重苦しい夢を見た。
目が覚めた時、はっきりと覚えていたわけではないが、自分のよく知る誰かが血を流して倒れる夢だった。
それが誰なのか、カルロスにはまだわからなかった。
そのとき、泊っていた旅籠の扉を誰かがノックした。
「誰だ」
「デーナです。朝食のご用意ができました」
若い女性の声がした。
旅籠の娘だった。
「わざわざすまないな」
カルロスは扉を開け、礼を述べた。
「いえ」
デーナは頬を染め、カルロスを見つめた。
デーナは朝食の乗った盆を手に、部屋に入ってきた。
「今日はどうなさるご予定で?」
「もう一日、ここで過ごす」
わずか数日ほど前、カルロスは誰も知らぬうちにこの村を襲おうとしていた盗賊たちと剣を交えた。
一人で十人ほどを相手にしただろうか。
そこをたまたま通りかかったのがデーナだった。
返り血を浴びたカルロスの姿が強烈に彼女の中に焼き付いた。
デーナは剣を握ったカルロスに恋慕の情を覚えていた。
「まだ何か?」
部屋を出て行こうとしないデーナに、カルロスは問いかけた。
「いえ・・・。あの、おたずねしてもいいですか?」
「何だ」
「どうしてあそこに盗賊がいるとご存じだったんですか?あんな道、村人でも知らないのに」

『風の通り道の民に死神が訪れる』

古文書の一文だ。
実は西ウィンザか東ウィンザか、カルロスにもわからなかった。
一か八かで西ウィンザを選び、馬車の痕などから先日の道を見出したのだ。
デーナは木の実を摘みに通りがかったと言っていた。
しかしカルロスは何とも言いようがなかった。
伝承のことに触れたくはなかった。
「俺も、たまたま通りがかっただけだ」
不自然に続いた沈黙ののち、デーナがゆっくりとカルロスに近づいて行った。
「何を隠しているの?そんなに疲れた顔をして・・・」
優しく囁かれ、カルロスはふいにエリーナの姿を思い出した。
デーナはカルロスをじっと見つめたまま、背伸びをしてカルロスに口づけた。
瞬間、カルロスの中で何かが弾けた。
今まで鬱積していたものを拭い去るように、デーナを抱いた。
デーナも喜んで彼を受け入れた。
「私のそばにいて・・・」
彼女の囁きに、狂気が宿っていることなど、カルロスには知る由もなかった。

カルロスはデーナに引きとめられ、ウィンザに滞在した。
まだ災害の予兆もなかった。
久しく満ち足りて、カルロスはデーナを愛した。
またデーナも、毎日のようにカルロスに愛を囁いた。
しかし、デーナにはいつかカルロスが去っていくのではないかという不安に付きまとわれた。
夜毎カルロスのもとを訪れては、自分に繋ぎとめるようにその身体を彼に捧げた。
そして、デーナはやがてカルロスの第二子を身籠ることとなった。

カルロスはその事実を告げられた時、驚くほど冷静だった。
あの重苦しい夢を見て以来、なぜかジェフには兄弟が必要だと思うようになっていた。
カルロスはデーナに言った。
「俺には妻がいた。エリーナという娘だった。だが俺が目を離した隙に、夜盗に殺されてしまった。・・・お前を死なせはしない。デーナ」
デーナはカルロスが既婚者であったことに驚きを隠せなかったが、今は自分に思いを向けてくれていることを喜んだ。
しばしの間、二人だけの幸福な時間が過ぎ、デーナも不安に駆られることはなくなっていった。
ジェフと同じく秋に生まれたのは、デーナとよく似た男の子だった。
ベルスの慣習に従って、デーナはその子にクレストと名付けた。
一方、カルロスは紋章官一族として、クレストにアクウィラス、力強き翼という名を与えた。
そしてクレストが言葉を覚え始めると同時に、一族に伝わる様々な暗号遊びをしながら古代語を教えた。

クレストが七つになるころ、デーナが不思議に思ってカルロスに尋ねた。
「いつもクレストと何を話しているの?外国語?」
カルロスは、デーナに自分が紋章官一族の末裔であることをまだ話していなかったのだ。
紋章官一族の背負う暗い運命に彼女を巻き込むことを恐れ、話さずにいたのだ。
しかし、もはや隠しておくわけにもいかないだろう。
カルロスは自分の出生を話して聞かせた。
デーナは衝撃を受け、いつか自分を襲っていた不安が的中したことを知った。
彼は、そう遠くないうちに自分を置いてどこかへ行ってしまうのだろう。
「嫌!!嫌よ!!」
半狂乱になって、デーナはカルロスに縋りついた。
「お願い!どこへも行かないと言って!!私のそばにいて!!」
「デーナ、俺は――」
「お願い!!行かないで!!」

以来、デーナはカルロスから片時も離れることはなかった。
故に、クレストに七つの選択をさせる機会を見つけることができなかったが、デーナの母が病気で倒れたとの知らせを聞いて、ほんの一時、彼女がカルロスのもとを離れたことがあった。
「クレスト、よく聞け」
その機に乗じて、カルロスはクレストに話した。
「お前は、紋章官一族――ウェルバの末裔だ」
「紋章官?」
幼いクレストはきょとんとして父の言葉を聞いた。
紋章官一族の歴史、殲滅の命――、すべてを話して聞かせた。
「お前は今日、ここで、選ばなければならない。常人として生きるか、俺のように言の葉の一族の末裔として生きるか」
しかし、クレストは決断することができなかった。
七つという幼さと、安全で幸せな家庭が、彼の中に紋章官一族の血に火をつけることができなかったのだ。
「これは、古文書の写しだ」
カルロスはジェフのもとを去る時に持ち出したそれを、クレストに渡した。
「お前がいつか、紋章官一族として生きることを決めた時、これを解読しろ。何年かかってもかまわない」
ずっしりと重たい古文書を受け取りながら、クレストは泣きそうな顔をしていた。
「父さん、どこかへ行くの?」
「・・・いい子でいるんだぞ」
カルロスは、答える代りに微笑んで息子の頭を撫でた。
しかし、カルロスには、クレストが自分と同じ道を歩むだろうという確信があった。
何がそうさせたのかは彼にもわからない。
カルロスは最後に言った。
「務めを果たせ」

その晩、カルロスはデーナとクレストを残し、ウィンザを後にした。

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